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宇宙医学

有人宇宙技術部門宇宙飛行士運用技術ユニット
宇宙飛行士健康管理グループ
グループ長

込山 立人

なぜJAXAでリハビリを行うのですか?

宇宙飛行士にとってリハビリは必要なことで、帰還してすぐに日常生活に適応するのはやはり難しいので、通常のプロセスとしてリハビリを行っています。
今回日本でリハビリを行うことにしたのは、大きく言うと2つ意味があり、日本にリハビリのための環境を整えたかったということがまずひとつです。日本で行うことになれば、施設や設備、道具が必要になります。従来、NASAのヒューストンの施設を借りてリハビリを行っていたので、そこで行っていたプログラムを実現するために、どのような施設や設備、環境としての要求があり、どのような物を揃える必要があるか、ということを考えることになり、今回、それを考える機会を得ることができました。

帰還したキャスリーン・ルビンズ、アナトーリ・イヴァニシン、大西卓哉宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA/Bill Ingalls)

実際に日本でリハビリを行おうとすると、ヒューストンに滞在している宇宙飛行士を日本に帰国させなければなりません。地球へ帰還して、ヒューストンでのリハビリが始まってしばらくしてから宇宙飛行士を日本に帰国させますが、リハビリ期間中に帰国させることが本当にできるのかという課題がありました。
今までリハビリは45日で終わっていましたが、その45日というのも、終わらせていいかというJAXAの主体的なジャッジ(判断)というものはありませんでした。45日までリハビリのプログラムを続けて、問題がなければ、45日が過ぎた段階でリハビリを終えており、具体的にどうリハビリを終えるか、どうしたらリハビリが終えられるのかという基準はJAXA内では明確に決まっていませんでした。
今回、大西宇宙飛行士を日本に帰国させることにより、何をもって帰国させていいというのか、その基準を決める必要がありました。
帰国させていいかというジャッジメントとリハビリを終了していいかというジャッジメントを、基準はそれぞれ少し異なりますが、同じ人が、同じプロセスで行うことによって初めて、JAXAが主体的にリハビリ終了の判断をすることができました。
具体的には、宇宙飛行士の今の状況を健康管理責任者が航空宇宙医学専門医(Flight Surgeon: FS)や生理的対策担当者(J-ASCR)などから情報をもらい判断し、その判断をした結果をさらにマネージメントレベルへ報告するというプロセスで行うということを初めて行いました。
日本に帰国して国内でリハビリを行うことにより、そのためのジャッジメントをするためにはどのようなことが必要でどのようなプロセスになるのかということを試してみたかったというのが、大きな目的の2つ目です。

大西宇宙飛行士の帰国は、NASAではなくJAXAが決定したのですか?

バランス感覚を回復する運動を行う大西宇宙飛行士(出典:JAXA)

そうです。NASAと調整したのは、大西宇宙飛行士のスケジュールとして、この1週間は、JAXAが自由に決められる週にするという調整をしただけで、帰国をさせるか否かという判断は、JAXAが決めました。
そういったことは今まで行ったことがなく、それが何に繋がるかというと、リハビリ終了の判断に繋がるということです。

今までのリハビリ終了の判断は、どのように決定していたのですか?

今までは45日というリハビリの期間が確保されており、その期間リハビリのプログラムを行い、航空宇宙医学専門医(Flight Surgeon: FS)がみて特に問題がなければ終わりということになっていました。もっと早くリハビリを終えられるかもしれませんでしたが、JAXAはその判定基準を持っていませんでした。それを今回JAXAとしてきちんと持つために大西宇宙飛行士の日本への帰国を行いました。
従来、NASA主体で実施していたものに代えて、今回、JAXAが主体的にリハビリを行うことができたので、どうなったらリハビリが終えられるのかという基準をきちんと決めました。

リハビリの終了を決定するにあたり、難しかった点は何ですか?

基準を作成するにあたり、今までは航空宇宙医学専門医(Flight Surgeon: FS)の経験や感覚など、言葉にできないところを言葉にする必要があり、そこは健康管理グループの中でディスカッションを多くしたところです。

JAXAでリハビリを行う場合のメリットは何ですか?

段違い平行棒を用い転倒予防運動を行う大西宇宙飛行士(出典:JAXA)

自分たちでリハビリを主体的に行うということが今回の目的でしたので、そのための設備を作ったこと、リハビリ終了の基準を自分たちで作成できたことが、今回リハビリを日本で行って獲得できたことだと思います。
基本的にはNASAのガイドラインに沿って行っており、NASAのこれまでの蓄積を我々だけで運用できるようになったということです。大西宇宙飛行士を帰国させたことにより獲得した技術はもちろんありますが、日本でリハビリを行った方がうまくいく、早く終わるといったことは今のところはまだないと思います。


今回のリハビリで得られた知見は今後、どのように活用されますか?また、今後の展望を教えてください。

NASAのガイドラインを我々が独自で運用ができるようになったということが今回得られた知見です。
宇宙飛行士を独自で健康管理運用できるだけの知見が揃えられたというのは、それだけでも今後の役に立つと思いますが、今のままですと教科書があり教科書通りにできるようになったということで、自分で教科書をよりよく変えられるかというと、それはこれからなのではないかと思います。
次は、NASAのリハビリプログラムは本当に日本人にとって最適なのか、日本人に最適なもっといい方法があるのではないかなど、研究開発をしていく必要があると思っています。
そのためには、深くNASAの行っていることを知り、データを蓄積しながら、改善点がないかを見つけていくという方法があります。

宇宙医学の今後の展望

また、地上で行っている一般的なリハビリ方法について、新しい技術も含め、宇宙飛行士のリハビリに応用できないかという点でも考えていきたいと思っています。
地上で行っているリハビリを一度宇宙飛行士に適用し、再び地上へ返し、それが地上の高齢者のリハビリに生かされるといった循環のループが回っていくような仕組みを作ることは、目指していかなくてはならないことだと思います。
宇宙飛行士のリハビリも高齢者のリハビリも、相互に関係していますし、相互に刺激し合い、いい方向に循環していくということはあると思います。

今回日本でリハビリを行うことによって、NASAが行っている健康管理運用について、一通り自分たちでもなぞってできるようになったというのは、今回の大きな成果であると思います。

 
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