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宇宙医学

宇宙滞在に伴う健康問題

最終更新日:2011年8月4日

宇宙滞在中に宇宙飛行士が遭遇する健康リスクとして、次の3つがあげられます。

微小重力の影響
放射線の影響
精神的・心理的な影響

微小重力の影響

宇宙滞在中、人体に最も大きな影響を与える要因のひとつに“重力環境の変化”があります。

前庭器官

NeuroSpat実験の準備の様子

NeuroSpat実験(微小重力下での長期滞在中に立体的な知覚が受ける影響を調査する実験)の準備の様子

耳の奥(内耳)にある「前庭器官」は身体が受ける加速度を電気信号に変えて脳に伝達する重要なセンサーです。しかし、微小重力環境である宇宙では「前庭器官」からの情報をたよりにして身体のバランスをとることができません。これが「宇宙酔い」の原因の一つです。

脳は、環境に慣れると内耳からの信号の解釈を変えるようになるため、宇宙酔いは数日でおさまります。一方で、地球に帰還する際には、宇宙飛行士は地球の重力環境に再適応しなければなりません。地表重力環境への再適応でもバランスの問題は起こります。再適応の早さには個人差がありますが、2週間ほどで問題はなくなります。

心循環器

人間の体液は地上では重力により身体の下側に向かって引っ張られていますが、軌道上での滞在中は体液が下に引っ張られることはないために、地上にいるときとは反対に顔がむくんでいきます。 頭部に移動した余分な体液によって鼻腔の粘膜もむくんでしまうため、宇宙飛行士は「鼻詰まり」状態になることがあります。こうした状態に対して、身体は体液の全体量を減らして適応していきます。顔のむくみが改善するまでには数週間がかかります。

また、地上に帰還した時の宇宙飛行士は、血液を重力に逆らって頭部まで循環させることが難しくなっているために、起立性低血圧(立ちくらみ)を起こすことがあります。

軌道上に滞在している間は心臓の血液を送り出す力が少なくて済むため、心臓の筋肉が衰えてしまうことも起立性低血圧を起こす要因の一つと考えられています。

骨と筋肉

改良型筋力トレーニング装置(ARED)で運動する野口宇宙飛行士

改良型筋力トレーニング装置(ARED)で運動するISS第22次/23次長期滞在クルーの野口宇宙飛行士

軌道上に滞在していると、筋肉が衰え、骨からはカルシウムが溶け出して、尿や便中に排泄されます。これは地上で長い間寝たきりでいたりしたときと似たような変化といえます。

微小重力環境では歩く必要がなく、壁を手で押して移動するようになるため、特に下肢の筋肉に萎縮が目立ちます。

骨量の減少は骨折の可能性を高めるほか、尿中にカルシウムが流れ出すと尿管結石を引き起こす可能性があります。尿管結石は大きな痛みを伴うことがあるので問題です。また、宇宙飛行士はこうした筋肉や骨の衰えをできるだけ予防するため、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中は1日に約2時間の運動をしています。

放射線の影響

私たちの生存環境の保護膜ともいうべき地球大気の外では、宇宙飛行士は高レベルの放射線を被ばくすることになります。

地上で日常生活を送る私たちの被ばく線量は、1年間で約2.4ミリシーベルトと言われています。
一方、ISS滞在中の宇宙飛行士の被ばく線量は、1日当たり0.5~1ミリシーベルトになり、ISS滞在中の1日当たりの放射線量が、地上での数か月~半年分に相当することになります。

宇宙放射線の人体への影響は、一定レベル以上の被ばく量で水晶体の混濁等の臨床症状が生じる影響と発がん等の被ばく量が増えるにつれて生じる影響とがあります。このため被ばく量を一定レベル以下にすれば、これらの影響が発生しないあるいは、発生する確率を抑えることができます。

JAXAでは宇宙放射線被ばく管理を実施し、被ばく量を一定レベル以下に管理し宇宙飛行士に健康障害が発生しないように努めています。

精神的・心理的な影響

ISSは、ひと昔前の宇宙船と比較してかなり船内空間が広くなりましたが、それでも地上の住居のような訳にはいきません。
ISSに滞在する宇宙飛行士は、広大な宇宙空間に広がる銀河や青い地球という最高の眺めを楽しむことができますが、その一方、狭い空間で何ヶ月もの間、他の宇宙飛行士と共に生活しなければなりません。どんなに意欲に溢れ、自己制御力に優れた精鋭集団であっても、狭い閉鎖された環境で生活していくうちに、閉そく感によるプレッシャーやストレスを感じるようになるものです。

過去に、宇宙長期滞在における精神心理の問題点を洗い出すことができた実験があります。
1999年7月2日から2000年3月22日にかけて、ロシアの生物医学問題研究所(IBMP)の施設を使って、ISS長期滞在ミッションを模擬した閉鎖環境実験(SFINCSS-99)が実施されました。

ロシアの生物医学問題研究所(IBMP)の閉鎖施設

ロシアの生物医学問題研究所(IBMP)の閉鎖施設全体図(左)、
閉鎖施設の外観(右上)、閉鎖施設入室直前の被験者(右下)(出典:JAXA)

この実験は、ISS長期滞在、スペースシャトルミッションでの滞在、およびソユーズ宇宙船での短期滞在の組み合わせを模擬し、異国の宇宙飛行士同士が軌道上で共同生活を送る際の、精神心理問題を研究するものです。
ロシアの他、日本(当時のNASDA)、カナダ(CSA)、欧州宇宙機関(ESA)など計10ヶ国の研究機関が参加しましたが、言語の壁により意思疎通がうまくできない苛立ち、文化や性別の違いによるストレスなどから、さまざまな問題が浮上しました。

さらにこの実験からは、多くの問題が被験者の気質や性格に由来するものではなく、被験者同士のコミュニケーション、チームワーク、外部からの支援にも大きく関わりがあることが分かりました。

ISS長期滞在が開始される前のこの実験により、文化や性別の異なる宇宙飛行士同士が軌道上で共同生活をする上でのいくつかの問題点が特定され、対策の重要性が示唆されたことは大きな成果でした。

(特に断りの無い限り、画像は出典:JAXA/NASA)

 
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