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最終更新日:2013年11月20日

実験の背景


現在、国際宇宙ステーション(ISS)が周回している軌道は、地上からわずか約400kmしか離れていません。しかし、ISS内の環境は地上とは大きく異なります。特に、微小重力環境によって我々の体は大きな生理的変化を受けます。

1)宇宙環境での骨格筋の変化

微小重力環境下に長期間滞在すると体を支える筋肉を使わなくなることにより骨格筋が小さくなる(萎縮する)ことが知られています。宇宙滞在によって骨格筋の機能が低下することは、長期滞在を目指す宇宙飛行士にとっては大きな問題です。14日間の軌道上滞在後の赤毛猿の拮抗(きっこう)筋(※交互に働く筋肉のこと。ここではふくらはぎ側とすね側の筋肉の関係を指す)の筋活動パターンを測定した実験では、この拮抗筋の交互に働くという協調性がなくなることが報告されています。また地上においては、乳幼児が最初に歩き出した際の筋電図を測定すると、同じように拮抗筋の協調性が乱れています(図1)。宇宙に滞在した猿の筋肉は、歩き始めたばかりの赤ちゃんと同じような活動を示すことがあります。

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2)宇宙環境での下肢血流変化

宇宙に滞在して数日間は、微小重力により血液が上半身に移動し、顔が丸くなる現象が生じます(これを「ムーンフェイス」と呼びます)。ムーンフェイスが生じる原因の一つとして、下肢血流が関係しています。地上では直立時に脚の骨格筋の微弱な収縮運動によって、重力の影響で下半身方向に蓄積しやすい血流を上半身へ輸送しています。この働きは、ミルキングポンプという名で知られています。しかし、宇宙環境では、脚の骨格筋の萎縮が生じ、このミルキングポンプが充分に働いていない可能性があります。

一方、帰還直後は、宇宙環境にいったん適応した体が地上へ十分に再適応されていないため、下半身に血流が溜りやすい状態にあると考えます。

3)宇宙環境での重心変化

宇宙から地上に帰還した宇宙飛行士では、帰還直後に歩行が困難になることはよく知られています。この原因は、筋力低下や、微小重力環境に適応した宇宙飛行士の平衡感覚を制御している器官である前庭系の影響によるものと考えられています。一方、内臓器官として最も大きな肝臓は我々の体内では右寄りに存在するため、重力のある地上では我々は肝臓の重さで右寄りに傾くため、小脳が左に重心が移動するように調節していると思われます。宇宙空間における微小重力環境下では、宇宙飛行士は内臓の重さを認識する必要がなくなり、小脳での重心バランス調整システムがリセットされる可能性があります。そのため、帰還直後には地上への適応反応が十分ではなく、重心バランスが調節できないと考えています。

長期間軌道上に滞在した宇宙飛行士の体は、上記のように宇宙環境に適応してしまい、地上への帰還直後は十分に体の制御ができない飛行士も多いのです。特に、帰還直後に歩行する際はふらつきなどが生じるという報告があります。歩行という動作は、様々な下半身の骨格筋の協調・拮抗(きっこう)によって行われています。これら異なる骨格筋の働きを制御しているのは脳であり、その脳の指令は神経系を通じて骨格筋に伝達されます。また、骨格筋へ栄養を送っているのは血液であり、血流は骨格筋の萎縮や様々な疾患へも影響しています。

宇宙環境への長期間の滞在は、骨格筋・神経制御・血流へも影響を与え、その結果、帰還直後の歩行の困難さを生じさせている可能性があります(図2)。

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