Rad Silk実験を通して、どんな成果が期待できそうですか。
「宇宙放射線というのは物理的に数字として計測できますよね。 でも、そうやって計測された宇宙放射線の線量が100パーセント生物に影響をおよぼしているのかって考えると、これは実際に生物に照射してみないとわからないんじゃないかと思うんです。
だから、宇宙放射線を浴びた生物にどの程度の異常が出たかを調べることで、実際に被爆した線量とその影響との関係がみえてくるんじゃないかと思っています。
それからもう一つ、若い人たちの力を借りて、新しいことにも挑戦しようとしています。 生物は多種多様で、カイコとヒトなんて一見何の共通点もないように見えますが、共通の遺伝子もあります。
たとえば、奈良医大の大西先生ご担当の宇宙実験(Rad Gene)で注目されていたp53というガン抑制遺伝子。 これはヒトだけでなく、カイコを含むたくさんの生物に認められるもので、ガン研究の分野では現在もっとも注目されている遺伝子の一つなんです。
今回の実験でカイコのp53遺伝子に対する宇宙放射線の影響をみていけば、ヒトに対する影響もある程度推測できるんじゃないか、と考えています。
p53遺伝子を通して、他の分野の研究者と共通の議論の場をもてるとしたら、こんなにうれしいことはありませんね」
宇宙実験にあたって、一般の方、特に子どもたちへのメッセージなどはありますか。
「実は、子どもたちの教育プロジェクトの一環として(注)、考えていることがあるんです。
ISSに打ち上げた5万5千個の卵のうち、1G培養群(人工的に地上と同じ重力を負荷した状態で宇宙放射線に曝露させた群)の約8千個の卵が余るんです。
それを教育分野に活用できないかということで、小中学校や高校の生徒たちに宇宙帰りのカイコを飼育してもらおうと思っています。
カイコを育てるなかで、宇宙や虫に対する興味がわいてくるかもしれないでしょう。
これは僕自身が教育に対して感じていることなんですが、ただ勉強を強制するのではなく、子どもたち自身が主体的に探求していくきっかけをどう作ってやるか、それが学校や教師の大切な役割だと思うんです。
勉強せい、勉強せいと一方的に押し付けるだけじゃ、子どもたちもなぜ勉強するのか意味がわからなくなってしまいますよね」
子どもたちが育てたカイコから糸をとって、宇宙織物ができたら素敵ですね。
「うん、それはすごくいいアイデアですね!
ただ、あの数で織物ができるかなあ。
ハンカチくらいならできるかもわからないですけど(笑)。
ただ、マユからどうやって糸をとるかとか、一つのマユでどれくらいの長さの糸ができるかとか、そういったことは十分子どもたちに伝えられると思うんですね。
それから、宇宙放射線に曝されたカイコには、子どもたちにも一見してわかる変化があらわれます。
僕らが実験に使うのは『クロシマ』という黒い縞模様の品種で、卵の時期に放射線を浴びると幼虫になってから白い斑点ができるのが特徴です。
これなら、実際に子どもたちに見てもらって、『ほら、この白い点々が放射線の影響なんだよ』って教えてあげられますよね。
じゃあ、どうしてそうなるのって聞かれたら、これこれこういう遺伝子が放射線を浴びて突然変異を起こして、というようにいくらでも説明してあげられますよね。
僕らのカイコがきっかけとなって、子どもたちに宇宙実験に対する興味をもってもらえたら素晴らしいことだと思います」
注:古澤先生が理事を務められる(財)衣笠会では、国際宇宙ステーションに滞在したカイコの飼育に参加する教育機関・団体を募集しています。
詳細は以下のホームページをご覧ください。
http://homepage3.nifty.com/cosmos-silk/
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