Rad Silkは宇宙でカイコの胚を発生させ、宇宙放射線と微小重力の影響を調べる実験ですよね。
なぜ宇宙実験にカイコを使おうと思われたのですか。
「きわめて単純な理由で、僕自身がカイコ専門だったからです。
10年程前、ある人から宇宙実験に応募してはどうかと言われまして、最初はそんな夢みたいな話のらんと言ってたんですが、よくよく聞いてみるとなんやすごい面白そうだったんです。
で、せっかく日本の実験棟でやるなら日本らしいもの、『カイコとコメとサクラ!』みたいな(笑)、そんな実験をやってやろうと思い、計画を立てたというわけです」
先生の実験テーマは2000年の国際公募で採択されましたね。
「僕らのテーマが評価された大きな要因はカイコだったと思います。
まず、カイコの卵は、低温で保存すれば3ヶ月間休眠状態を保てますから、長期間宇宙放射線に曝すことができます。
また、その卵が非常に小さいので、国際宇宙ステーション(ISS)の限られたスペースでたくさんのサンプルを扱うことができます。
さらに、養蚕はかつて日本の代表的な産業であったために、カイコに関する学問、たとえば蚕糸学、遺伝学、生理学などが非常に発達しているんです。
こういった学問の基礎データにくわえて、突然変異系の品種もたくさん保存されていますから、実験サンプルとしては非常に優れていると思いますね」
実験の流れを簡単にご説明いただけますか。
「卵を12万個用意して、そのうち約半数の5万5千個をシャトルでISSに打ち上げます。
残りの6万5千個はどうするかというと、一部は地上対照実験用で、あとはバックアップとして保管します。
ISSに搭乗させた卵は2℃の休眠状態で3ヶ月間保存し、その後20℃に移して胚を発生させます。
こうして長期にわたる宇宙放射線の影響を調べるわけなんですが、僕らの実験にはもう一つ大きな目的があります。
それは、微小重力のもとでも胚の反転が正常に行われるだろうか、ということです」
胚の反転、といいますと。
「簡単にいうと、胚というのは卵の中で発生したカイコの赤ちゃんですね。
カイコの赤ちゃんは発生から4日目くらいでクルっと寝返りを打つんです。
それまでは卵黄を中心に、脚を外側、背中を内側に向けて、背中から卵黄の栄養分を取り込んでいたのですが、栄養分を吸収し終わったところで寝返りを打ち、脚が内側を向く仕組みになっています。
そして、寝返りに失敗すると異常が生じることがわかっています。
僕らは、胚の反転が重力に依存しているのではないかと考えておりますので、今回の実験でそれを確かめたいと思っています」
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