線虫は、モデル生物として研究者の間で非常に注目されています。
この線虫を使った研究から、遺伝子の働きを抑えるしくみ(RNAi)が発見されました。
この仕組みを見つけたFire博士とMello博士は、2006年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
その後、RNAiは、昆虫や植物のみならず、ネズミやヒトなどの哺乳動物に至るまで、生物に広く存在していることが明らかになりました。
この大発見は、人工的に遺伝子の働きを抑えることのできる技術へと発展し、線虫だけでなく、ネズミなどの実験動物、さらにヒトの細胞においても利用されています。
この技術は、医学分野での発展も期待されており、新たな遺伝子治療などへの応用が考えられるほどの有望な手法となっています。
今回の宇宙実験では、このように有望な手法であるRNAiが、宇宙でも地上と同じように有効性を示すかどうかを、実際に調べて明らかにすることが第一の目的です。
このRNAiが宇宙で有効に働くのであれば、培養細胞などを用いた基礎的な宇宙実験系での利用はもとより、将来的には、宇宙に滞在した人が遺伝子に関わる病気にかかった際に、それを治療する有効な手段にもなるでしょう。
また、2004年に行われた宇宙実験では、線虫が宇宙へ行くと、宇宙飛行士と同じように筋肉が衰えることがわかりました。
この現象をさらに詳しく調べるため、宇宙で育てた線虫について、筋肉に関係する遺伝子やタンパク質の発現量を分析します。
この分析によって宇宙空間(微小重力環境)で筋肉が衰える理由が解明されれば、それを防いだり、治療する方法が明らかになり、今後多くの人たちが宇宙へ行く時代になった時に、筋肉が衰えることなく健康に滞在できるようになるかもしれません。
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図2 CERISE実験に使う細胞培養装置(CBEF)
この装置には、微小重力の培養室(上)と重力をコントロールできる回転テーブルがついた培養室(下)の二つがある。
重量のない宇宙でもテーブルを回転させることによって、テーブル上のサンプルに0Gから2Gまでの遠心力を人工的にかけることができる。
この遠心力が、サンプルに対して重力のように働く。
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