はじめに、CERISE実験の目的について、簡単にご説明いただけますか。
「僕たちは、RNAi(RNA interference, RNA干渉)という、遺伝子治療などにも利用されている世界最先端の技術が、宇宙でもきちんと機能するかどうかを検証したいと考えています。
また、宇宙で筋が衰えるメカニズムについても調べたいと思っています。
このために、ヒトのモデル生物である線虫を使って実験を行います」
(注)RNAiについては、宇宙実験サクッと解説:CERISE編で詳しく解説しています。
先生が線虫を使った宇宙実験を行うのは、今回がはじめてですか。
「実は、2004年4月に、『ICE-FIRST』という線虫の国際共同実験に参加しました。
ロシアのソユーズロケットで線虫を打ち上げ、国際宇宙ステーション(ISS)で1週間培養するというものです。
このときの実験結果から、線虫の筋に関する遺伝子や、筋を構成しているタンパク質の量が、地上のものよりも減っていることがわかったのです。
今回の実験で、筋に関するタンパク質を合成するどの経路で異常が起こっているのかを、突き止めたいと思っています」
今回は、宇宙実験棟「きぼう」を使って実験するわけですが、2004年とくらべて実験環境はいかがですか。
「実は、前回はさまざまな面で制約を感じました。
たとえば、電源供給が十分でないとか、線虫の培養に必要な一定の温度維持が難しいとか。
きぼうでは、そうした問題はすべてクリアされています。
何よりありがたいのは、同じ宇宙環境で、重力条件のみを変えた厳密な対照実験が行えることですね。
僕たちは、CBEF(細胞培養装置)という装置を使わせてもらうのですが、これは微小重力培養室と1G培養室のふたつの部分からなっています。
1G培養室では、遠心機を使い、人工的に地上と同じ1Gの重力をつくりだせるんです。
この装置を使えば、宇宙放射線や、温度、湿度などの条件がすべて同じで、唯一重力だけが違うという実験場を設定できるので、たいへん精度の高いデータが得られるものと期待しています」
この実験で、どんな成果が期待できそうですか。
「RNAiという現象が宇宙でも起きるのか、起きるとすれば微小重力環境でどのような影響を受けるのか、という研究は世界的に見てもまだ例がありません。
RNAiが宇宙で有効に働くことが証明できれば、分子生物学の基礎研究にとってはもちろん、今後実施される宇宙実験においてもたいへん有益な情報になるはずです。
最終的には、宇宙滞在時の筋の衰えをいかに防ぐか、という医学的にきわめて重要な課題に対して、ゲノムのレベルから貢献したいと思っています」
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