これから研究の道に進もうとしている若い人たちに対して、先輩研究者としてアドバイスをお願いします。
「僕は大学、大学院、それから職場と、何ヶ所かを転々としてきました。
振り返ってみれば非常に幸運だったと思うんですが、どこへ行ってもよい先生に恵まれ、その方々の背中を見ながら成長させてもらったな、という気がしています。
よく一期一会といいますが、ひとつひとつの出会いを無駄にせず、その都度さまざまなことを学び、吸収していく、そういう姿勢が大切なんじゃないかと思います。
あとは、あきらめないこと。
自然科学の実験というのは、言葉はちょっと不適切かもしれませんが、100回やって1回当たる、そんな具合なんです。
仮説どおりの結果を得るには、100回手を動かさなければならない。
ですから、たとえうまくいかなくても途中で投げ出さず、では、なぜうまくいかなかったのだろうと、常に思考し続けることが大切なのではないかと思います」
ひとつのことをやり続けるには、どうしたらいいですか。
「いちばん重要なのは、自分が取り組んでいるものを好きになるってことですよね。
そして、10回裏切られても、もしかしたら11回目はうまくいくかもわからない、というようにモティベーションをあげていくこと。
分子生物学に限っていえば、生き物というのはたいへん不思議な、ものすごいメカニズムを内に秘めています。
僕たちは、あくまで謙虚な姿勢でそれを垣間見せてもらうにすぎない。
ある時は顕微鏡を通して、ある時は遺伝子やタンパク質の解析を通して、生き物が外界の刺激に対してどう応答しているのか、その声に真摯に耳を傾けるんです。
自然科学の研究というのは、なぜそうなるのかを考え、自分の手を使って検証し、理解する、ということの繰り返しで、いわば未知なる世界の探求です。
そこで明らかになるのは常に新しいことですから、自信をもって挑戦し続けられるのではないでしょうか」
CERISE実験には、大学院の学生も参加されていますよね。
そういった若い方たちとは、どのように接しておられるんでしょうか。
「これは僕のポリシーといってもいいかもしれませんが、学生には先生と呼ばないようにと言っています。
というのも、共同研究をする相手であれば、その身分が学生であろうと先輩研究者であろうと、対等なパートナーだと思っているからです。
どうすれば実験がうまくいくか、フランクに言い合える雰囲気を保つこと、それが実験を成功に導くための秘訣だと思っています。
ですから、何か提案があれば、年齢やキャリアにかかわらず、その人の意見を真摯に聞き、よいと思うものはどんどん取り入れるようにしています」
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