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宇宙実験調査団のピカルが線虫実験を大調査!
実験提案者の東谷先生とも
仲良しの物知りハカセに聞きました。
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ピカル: |
ハカセ、こんにちは。
また来ちゃいました。
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ハカセ: |
日本の宇宙実験室「きぼう」も軌道に乗ってきて、実験が目白押しじゃからのう。
ピカルたちの宇宙実験調査団も大忙しじゃの。
今日はCERISEの調査かね?
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ピカル: |
はい、そうなんです。
この実験では、線虫というにょろにょろした虫を使うって本当ですか?
ぼく、実はにょろにょろしたもの苦手なんです。
でも、姉のキラリは大好きだっていうんですよ!
信じられません。
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ハカセ: |
うむ、キラリには苦手なものなどなさそうじゃからの。
この実験で使う線虫は、全長1ミリメートル程度の小さな虫で、なんと、たった959個の細胞からできているんじゃよ。
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左:線虫の顕微鏡写真。
体が透けているので、体の中の様子が良く観察できます。
右:蛍光タンパク質を導入した線虫の顕微鏡写真
遺伝子に仕掛けをすることにより、体の一部の細胞が緑色蛍光で光るようになった線虫。
細胞の核が緑色に光っています。
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ピカル: |
えっ?
細胞って無数にあるのかと思ってました。
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ハカセ: |
ノンノン。
実は、線虫の場合、959個の細胞の1個1個の素性がよくわかっておるんじゃ。
生物は、受精という、精子と卵子が合体した卵(受精卵)が分裂を繰り返し、様々な細胞を作りながら形を作っていくわけじゃが、その分裂の過程(どの細胞が筋肉になり、どの細胞が腸になるか、など)がすべて解っておるのは線虫だけなんじゃよ。
このすばらしい発見をしたブレナー博士は、2002年にノーベル生理学・医学賞を受賞しておる。
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ピカル: |
へえ、そうなんですか!
細胞1個1個がどこから来て、これから何になってゆくのかがわかってるってことは、線虫は実験に最適なんですね。
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ハカセ: |
そうじゃ。 それに加えて、遺伝子情報のすべてがすでに解明されておる。
Space Seedのシロイヌナズナもそうじゃったが、その生物を作る設計図が明らかになっておるので、モデル生物として大変すぐれておる。
しかも卵から幼虫を経て大人になるまでに、わずか4日間しかかからんので、実験には好都合なわけじゃ。
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ピカル: |
なるほど、すごく便利な実験材料なんですね。
ところでハカセ、宇宙実験では何を調べるんですか?
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ハカセ: |
うむ、ピカルはDNAとRNAのことは知っておったかの?
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ピカル: |
え〜と、どちらも遺伝子情報ですよね。
確か、2本鎖のDNAからコピーされたのが1本鎖のRNAで、そのRNAの情報をもとに、タンパク質が作られるんでしたっけ?
タンパク質は生命活動を担う大事な分子ですよね。
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ハカセ: |
そのとおりじゃ。
今回は、そのRNAの情報からタンパク質が作られる経路が、宇宙でもちゃんと働くのかどうかを調べるんじゃ。
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ピカル: |
え〜っ?
宇宙でRNAからタンパク質ができないとしたら、そもそも生き物は生きられないんじゃないですか?
でも、今までの宇宙実験で、メダカやイモリなんかも生きてますし、第一宇宙飛行士が元気に活動してますよね?
人間だって、毎日細胞の中でタンパク質を作ってるわけですから、RNAの情報からタンパク質が作られる経路は、宇宙でもちゃんと働いているはずですよ。
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左:「ズヴェズダ」(ロシアのサービスモジュール)のギャレー(調理設備)にて共に食事をする(左から)ロマン・ロマネンコ、ゲナディ・パダルカ、若田光一、マイケル・バラット宇宙飛行士
右:IML-2ミッション(向井千秋飛行士搭乗)でイモリを入れたカセットを点検中のトーマスMS(ミッション・スペシャリスト)
(提供:NASA/JAXA)
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ハカセ: |
さすがピカルじゃ、なかなか鋭いわい。
しかしのう、今回注目するのはその経路の中でも、RNAi(アールエヌエーアイ)という特殊な機能なんじゃよ。
これには2本鎖のRNAが関係するのじゃ。
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ピカル: |
2本鎖?
RNAなのに?
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ハカセ: |
うむ、ウイルスなどではDNAを主たる遺伝子情報保管庫として使わず、主にRNAを使うものがおる。
インフルエンザウイルスなどはその仲間じゃ。
インフルエンザウイルスを含め、RNAを使う多くのウイルスが1本鎖RNAを使う一方で、イネにとりつくウイルスのように、2本鎖のRNAを使うものもあるんじゃよ。
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ピカル: |
へえ〜。
2本鎖のRNAはレアなものなんですね?
でもハカセ、話が線虫からウイルスにすり替わってますが・・・。
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ハカセ: |
ほっほっほっ。
話はこれからつながるんじゃよ。
若いもんはせっかちでいかん。
まあお茶でも飲みなさい。
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ピカル: |
はい・・・。
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ハカセ: |
さて、話は1998年にさかのぼる。
アメリカの研究者ファイアー博士たちのグループが、ウイルスのまねをして2本鎖の短いRNAを作って線虫の細胞に入れてみたところ、その遺伝子情報に対応する線虫のRNAが正常に働かなくなることがわかったのじゃ。
この現象をRNAi(RNA interference: RNA干渉)といっておる。
ちなみに、彼らはこの研究により、2006年のノーベル生理学・医学賞を受賞しておる。
線虫研究では、ノーベル賞が大連発じゃな。
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ピカル: |
ハカセ、1本鎖のRNAは干渉しないんですか?
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ハカセ: |
うむ、することはするが、効果が断然違う。
詳しい説明は省略するが、いろいろなタンパク質が関わって、効果的に線虫がもともと持っているRNAを分解しておるのじゃ。
それでな、ここが重要なんじゃが、この現象(RNAi)は線虫のみならず、ヒトの培養細胞や植物においても同じように働くことがわかったのじゃ。
ちなみに、昔は2本鎖RNAはウイルスくらいしか持っておらんと考えられておったのだが、ヒトを含む多くの生物で、1本鎖RNAを2本鎖にするための酵素も発見されてきた。
つまり、2本鎖RNAを使った特定の遺伝子の発現抑制というのは、決して特殊な現象ではなく、むしろ生物が普通に、発生の過程で利用している仕組みなのではないかと思われるに至っておる。
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ピカル: |
最初はお試しで2本鎖RNAを入れてみたけれど、それで判明した遺伝子発現抑制の仕組みは、実は、生物が普通にもっている大事な機能の一つだった、ということですね。
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ハカセ: |
そうじゃ。
そして、ここも重要なんじゃが、こうした現象は、細胞がRNAを使うウイルスなどに感染した際、そのウイルス遺伝子の増殖を防ぐために生物が獲得した生体防御機構であると考えられておる。
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ピカル: |
なるほど、そのRNAiという生物のもつ仕組みが、宇宙で問題なく行われるかどうかに興味がある、ということですね。
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ハカセ: |
そうじゃ。
RNAiは、特定の遺伝子の発現抑制ができることから、遺伝子治療などの観点からも非常に重要な技術とみなされておる。
人類はこれまでに何度も宇宙に行ってはいるが、将来、宇宙に人が住み始めると予想もつかないことが起きる可能性もあるじゃろう。
そうした事態に備えて、重要な生命現象の一つであるRNAiが、宇宙でもちゃんと機能するかどうかをきちんと調べておきたい、というわけなんじゃ。
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ピカル: |
それを、最初にRNAi現象が発見された線虫を使って行うんですね。
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ハカセ: |
線虫という、細胞や遺伝子がよく調べられている材料だからこそ、発生中のどの段階でどの遺伝子が発現しているか、あるいは抑制されているか、ということを詳しく調べられるんじゃ。
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ピカル: |
でもハカセ、こんなにょろにょろした線虫とヒトでは、姿かたちが全然違いますよね。
線虫を使った実験の結果が、ヒトに応用できたりするんですか?
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ハカセ: |
鋭い質問じゃのう。
まあ、そう思うのも無理はない。線虫とヒトでは大きさや形がまったく違うが、こう見えて線虫はヒトと同じような筋肉や神経、腸なども持っておる。
つまり、共通の部分も多いんじゃよ。ヒトの遺伝子とも多くの点で似ておることから、ヒトのモデル生物とも言われておる。
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ピカル: |
え〜っ・・・。
なんか、これがヒトのモデル生物と言われるとイヤだなあ・・・。
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上の画像をクリックすると、溶液中で線虫が泳いでいる様子をご覧いただけます。
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ハカセ: |
まあまあ、よく見るとかわいいぞ。
ピチピチしておるじゃろう。
この線虫の名前はC. elegansといって、一番良く使われている線虫の一種じゃ。
elegansはエレガンスと読むのじゃが、エレガント、つまり上品で優雅なということばからきておるのじゃよ。
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ピカル: |
エレガント・・・。
う〜ん、そう言われても、やっぱりなあ・・・。
ところでハカセ、今回は他に調べることはありますか?
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ハカセ: |
せっかくじゃから、東谷先生たちは筋肉関係を詳しく調べようと思っておる。
宇宙飛行士は、宇宙に行くと筋肉が弱くなることは知っておったな?
実は、東谷先生たちが2004年に行った「国際共同線虫実験(ICE-First)」では、面白いことに線虫でも筋肉が弱くなることがわかったのじゃ。
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ピカル: |
線虫とヒトの共通点が、ここにもあるわけですね。
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ハカセ: |
筋肉を作る分子は、線虫もヒトも同じじゃからの。
今回の実験では、宇宙に行った線虫の筋肉の遺伝子やタンパク質の増減などについて詳しく調べることで、どのような仕組みで宇宙に行くと筋肉が弱くなるのかを調べようとしておる。
こんなにょろにょろの生物じゃが、もしかするとノーベル賞級の大発見をもたらしてくれるかもわからんぞ。
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ピカル: |
それを聞いて、なんだかわくわくしてきました。
ハカセ、今日もありがとうございました。
宇宙実験を楽しみにしています!
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