向井宇宙飛行士、宇宙へ
アジア初の女性宇宙飛行士
国際協力ミッション・第2次国際微小重力実験室
(IML-2:Second International Microgravity Laboratory )
1994年7月9日、向井千秋宇宙飛行士が宇宙に向かいました。
スペースシャトル内の向井宇宙飛行士。
スペースラブ内で下半身の陰圧負荷実験中の向井宇宙飛行士。
IML-2の搭乗クルー。
スペースシャトルから見た地球。
この計画ではアメリカ、カナダ、ヨーロッパ、日本の13 カ国、7機関が実験装置をもちより、2週間にわたり82の実験を行いました。IML-2は日本にとって「ふわっと’92 」に続く2回目の本格的な宇宙実験であり、1992年のIML-1に続く2回目の国際宇宙実験計画への参加となりました。
軌道上の向井宇宙飛行士は多忙でした。実験は毛利宇宙飛行士のときと同じように2交代制で24時間通して行われました。起床すると2時間で洗面や食事、引き継ぎをすませ、1時間の食事をはさんで9時間、実験を行いました。実験のスケジュールは分きざみで決められていますが、実際の進み具合に合わせて臨機応変に進めなくてはなりませんでした。
IML- 2には日本の材料およびライフサイエンス系の実験装置が6つ、積まれていました。
日本の実験で話題を集めたものの1つが水棲生物実験装置で、これには金魚、メダカ、イモリが搭載されました。金魚の実験では宇宙での無重量状態にいかに順応していくかを調べ、メダカの実験は宇宙での交尾、産卵活動を観察、イモリの実験は宇宙での産卵を調べました。メダカの実験では43個の卵が確認され、8匹がふ化し、文字どおり「宇宙メダカ」が誕生しました。最初の1匹のふ化を地上に報告してきたのは向井宇宙飛行士でした。
向井宇宙飛行士は宇宙での環境が人体にどのような影響を与えるのかについても研究を行いました。また、実験の間に、宇宙から見た地球の美しさも伝えてきました。向井宇宙飛行士は無重量状態で浮かんでいる気分を「天女になったよう」と語っています。
将来、国際宇宙ステーションで行われる実験はすべて国際共同実験となり、多くの国との協力がきわめて重要な要素となります。その意味で、IML-2は国際宇宙ステーション時代に向けた日本の宇宙開発にとって大きな成果をもたらすものとなりました。
第2次微小重力実験室(IML-2)
実験装置内のメダカ(左)とイモリ(右)。
NASAが国際協力のもとで推進するスペースシャトル/スペースラブ(宇宙実験室)を用いた微小重力実験のためにシリーズ化されたミッションです。宇宙開発事業団は6種類の装置を提供し、産・官・学の各方面から募集・選定された16テーマ(日本人からの提案12テーマ、海外からの提案4テーマ)のライフサイエンスおよび材料科学実験を実施しました。
微小重力科学分野の主な成果としては、微小重力下における流れの主因であるマランゴニ対流は、従来微小重力実験の阻害要因として考えられてきましたが、濃度差マランゴニ対流を利用することにより、均一組成材料の作製が可能であることを示し、また濃度差マランゴニ対流現象を明らかにできました。
ライフサイエンス分野では、「ふわっと’92」に引き続いて各種の生物に対する宇宙環境の影響が調べられ、骨形成細胞の遺伝子発現や両生類の発生に重力が微妙な影響を及ぼすことが明らかになりました。
フライトデータ
ミッション期間
1994年7月9日01:43~7月23日19:38 (日本時間)
計14日17時間55分
シャトル飛行番号
STS-65
シャトルオービター
コロンビア号(OV-102/17回目の飛行)
軌道高度・傾斜角
約300km(円軌道)・28.5度
搭乗員
ロバート・D ・カバナ(コマンダー(船長)/NASA )
ジェームス・D ・ハルセルJr (パイロット/NASA )
リチャード・J ・ヒーブ
(ミッションスペシャリスト(MS:搭乗運用技術者)兼ペイロード・コマンダー/NASA )
カール・E ・ウォルツ(MS /NASA )
ドナルド・A ・トーマス(MS /NASA )
リロイ・チャオ(MS /NASA )
向井千秋(ペイロードスペシャリスト(PS:搭乗科学技術者)/NASDA )
日本の装置を使用した実験の成果
1.
微小重力下における魚の前庭順応機構の研究
高林彰(藤田保健衛生大学)
脳の一部、前庭を破壊した金魚の自由遊泳および背光反射行動から無重量順応の変化を把握研究しました。
金魚を入れたフィッシュパッケージ
2.
メダカの宇宙における交尾・産卵行動
井尻憲一(東京大学)
日本産メダカを用いて交尾・産卵などの動物の基本行動が無重量環境でどの様な影響を受けるかについて研究しました。
メダカの雌雄(卵をつけているのが雌)
メダカの胚の発生
3.
イモリの宇宙における産卵及び受精卵の発生
山下雅道(宇宙科学研究所)
地上および軌道上でホルモン処理した日本産イモリ(アカハライモリ)の産卵とその直後の卵の発生状態の観察・記録を行いました。
アカハライモリ
4.
骨由来培養細胞の増殖・分化機能発現に及ぼす微小重力の影響
粂井康宏(東京医科歯科大学)
有人飛行時の問題である骨からのカルシウム脱落機構を、骨由来細胞の増殖・分化、細胞構造や酵素活性、遺伝子などから調べました。
5.
宇宙空間における細胞性粘菌の分化
大西武雄(奈良県立医科大学)
粘菌というライフスパンの短い生物を利用して、その全期間にわたり無重量および宇宙放射線などの宇宙環境にさらして、放射線に感度の高い菌株を用い比較対照することにより、無重量の影響と宇宙放射線の影響を分離する研究を行いました。
6.
電動泳動による線虫の染色体DNAの分離
小林英三郎(城西大学)
染色体と生体機能の関係を明らかにするため染色体の単離実験を行いました。
7.
微小重力環境における高密度動物細胞培養液の分離精製実験
奥沢務(日立製作所)
高密度動物細胞培養液の懸濁液(または一次口過処理培養液)から電気泳動法により生物活性物質を効果的かつ高純度で分離精製しました。
8.
宇宙船内重粒子線による線量計測と生物効果実験
道家忠義(早稲田大学)
宇宙空間で重力子線が生物に及ぼす定量的効果を解明し、宇宙船内での被ばく予想技術を開発する研究を行いました。
高温加圧型電気炉(LIF)
9.
多元系化合物半導体融液の均一分散・混合化
平田彰(早稲田大学)
密度が異なる三元系半導体材料を対象に、無重量下で顕著となるマランゴニ対流を積極的に活用し、材料製造技術を開発する研究を行いました。
10.
微小重力下におけるTiAl系金属間化合物の組織制御とその機械的性質
佐藤彰(金属材料研究所)
軽量・高強度金属であるチタン・アルミ合金とチタン、ホウ素微粒子との均一な複合材料を作り、高度強材料を創製する研究を行いました。
α→γ相変態により層状組織を呈する
Ti-48at.%AIの鋳造組織
11.
自然対流と拡散に対する重力加速度ゆらぎ(gジッタ)の影響
東久雄(航空宇宙技術研究所)
スペースラブなどでは機械や人間の移動・振動などの影響が避けられないため、制振材料を用いて残留重力などを排除して熱対流実験を行いました。
12.
微小重力下での熱駆動流の研究
古川正夫(宇宙開発事業団)
毛細管流を利用して、微小重力下での液体凝集および流れを制御、液体ハンドリング技術を開発しました。
最終更新日:2000年 6月22日