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「きぼう」での実験

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「Scientific Reports」にプロバイオティクス研究関連の成果論文が掲載されました!~宇宙環境での長期保管においても乳酸菌 ラクトバチルス カゼイ シロタ株のプロバイオティクス機能が維持されることを確認~

最終更新日:2018年10月 5日
Yakultlogo JAXAlogo

宇宙環境での長期保管においても乳酸菌 ラクトバチルス カゼイ シロタ株のプロバイオティクスとしての機能が維持されることを確認

~国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟での搭載実験による安定性評価~

株式会社ヤクルト本社(以下「ヤクルト」)および国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」)は、国際宇宙ステーション(以下「ISS」)・「きぼう」日本実験棟にて約1か月間保管したプロバイオティクス注1)(乳酸菌 ラクトバチルス カゼイ シロタ株、以下「L.カゼイ・シロタ株」)摂取実験用のサンプル(凍結乾燥したL.カゼイ・シロタ株を含むカプセル)中の生菌数、菌の発酵性状、遺伝情報、免疫調節作用に関する各種解析を行いました。その結果、いずれも地上で保管していた対照品と同等であり、宇宙環境においてプロバイオティクスの機能が維持されることを確認しました。この成果は、英国の科学誌「Nature」の姉妹誌であるオンラインジャーナル「Scientific Reports」に7月16日付で公開されました。

1. 背景

ISSで活動する宇宙飛行士は、微小重力や宇宙放射線など宇宙特有の環境要因の影響を受け、かつ閉鎖隔離環境にて数多くのミッションを遂行しなければなりません。これまでの宇宙医学研究から、複合的なストレス環境であるISSで長期間生活することにより、免疫細胞の機能低下や免疫バランスの変化など、免疫機能の低下を招くことが分かっています。有人宇宙飛行を成功させるためには、宇宙飛行士の心身の健康を維持し、パフォーマンスを最大限発揮させることが必要です。そこで、宇宙空間における健康課題への対策を構築するため、ヤクルトおよびJAXAは、平成26年度から「閉鎖微小重力環境下におけるプロバイオティクス(L.カゼイ・シロタ株)の継続摂取による免疫機能及び腸内環境に及ぼす効果に係る共同研究注2)に取り組んできました。この共同研究は、ISSに長期滞在する宇宙飛行士がプロバイオティクスを継続摂取することにより、免疫機能および腸内環境に及ぼす効果の科学的な検証を目的としています。
この宇宙実験の実施に先立ち、ISS内での使用に適した摂取実験用サンプルとして、凍結乾燥したL.カゼイ・シロタ株を含むカプセルを開発しました。地上における長期保管試験の結果、常温で12か月間保管可能であることを確認しています。一方、ISS内で保管する際には微小重力や宇宙放射線などの影響を受けることが想定されます。そこで本研究は、この摂取実験用サンプルをISSで約1か月間保管し、宇宙環境のプロバイオティクスに及ぼす影響を評価しました。

注1)腸内環境を改善し、人などに有益な作用をもたらす生きた微生物(善玉菌)やそれを含む食品。
注2)閉鎖微小重力環境下におけるプロバイオティクスの継続摂取による免疫機能及び腸内環境に及ぼす効果に係る共同研究。

【録画】プロバイオティクス共同研究に関する記者説明会(平成29年3月1日)

【プレスリリース】国際宇宙ステーションでのプロバイオティクス(ラクトバチルス カゼイ シロタ株)の継続摂取実験、いよいよ開始へ~宇宙飛行士の免疫機能、腸内環境への効果研究~
(平成29年3月1日)

【プレスリリース】宇宙空間におけるプロバイオティクスの継続摂取による免疫機能および腸内環境に及ぼす効果に係る共同研究を開始
(平成26年3月19日)


2. 研究内容

環境温度や宇宙放射線への曝露状況を調べるため、温度ロガーと宇宙放射線検出器(バイオパドレス)を含む摂取実験用サンプルのパッケージを用意しました。平成28年4月9日(日本時間)に打ち上げられた米国SpaceX社のドラゴン補給船運用8号機(SpX-8)に搭載し、ISS・「きぼう」日本実験棟にて約1か月間保管した後、SpX-8号機に再度搭載して同年5月12日(日本時間)に米国カリフォルニア州南西沖の太平洋上で回収しました。回収したパッケージは、アメリカ航空宇宙局(NASA)ジョンソン宇宙センター(米国テキサス州ヒューストン)を経由して冷蔵状態で日本へ空輸し、株式会社ヤクルト本社中央研究所(ヤクルト中央研究所)にて菌の生残性、発酵性状、遺伝情報および免疫調節作用に関する各種解析を行いました。

3. 結果

  • (1) 摂取実験用サンプルの状態
  • ISSで保管した摂取実験用サンプル(ISS保管品)に破損は無く、良好な状態に維持されていました(図1)。

  • (2) 菌の生残性
  • ISS保管品のカプセルに含まれるL.カゼイ・シロタ株の生菌数は、ジョンソン宇宙センターおよびヤクルト中央研究所で保管していた地上対照品(米国保管品および日本保管品)と同等であり、ISSに一定期間保管してもL.カゼイ・シロタ株は生きた状態で保たれていたことが確認できました(図2)。

  • (3) 発酵性状、遺伝情報
  • 菌の発酵性状、遺伝情報に関する解析を行った結果、いずれもISS保管品と地上対照品との間に差は認められず、L.カゼイ・シロタ株の特性は維持されていました。

  • (4) 免疫調節作用
  • L.カゼイ・シロタ株による免疫細胞活性化の指標となるインターロイキン(IL)-12の産生誘導能を調べたところ、ISS保管品と地上対照品で同等の結果が得られました(図3)。また、インターロイキン(IL)-12の産生誘導能に大きく関わるL.カゼイ・シロタ株の細胞壁構造は、ISS保管品と地上対照品との間に違いは認められませんでした。

4. 考察

摂取実験用サンプル中の生菌数、菌の発酵性状、遺伝情報、免疫調節作用に関するいずれの解析においても、ISS保管品と地上対照品との間に違いは認められず、宇宙環境においてもプロバイオティクス(L.カゼイ・シロタ株)の機能が維持されることを確認しました。今回の結果から、ISSに滞在する宇宙飛行士が摂取した場合でも、地上と同様にプロバイオティクスの効果が発揮されると期待されます。今回開発した摂取実験用サンプルは、凍結乾燥技術を用いて菌体内の水分を取り除き、さらに製造条件を最適化することにより生きた菌を長期間安定的に維持することが可能となりました。この摂取実験用サンプルの特性が宇宙環境におけるプロバイオティクスの安定性にも寄与していると考えられます。

5. 本研究の意義

<JAXA:若田光一 有人宇宙技術部門長のコメント>

宇宙滞在により宇宙飛行士の免疫機能が低下することが、これまで報告されています。一度に半年程度の現状の宇宙滞在では、臨床上問題になるような症状は少ないですが、今後、より長く宇宙に滞在する際には、リスクとなり得ます。今回の結果は、宇宙でのプロバイオティクス活用に向け、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟における産業利用の大きな一歩です。


<ヤクルト:石川文保 中央研究所長のコメント>

地上では、長年に渡る研究成果の蓄積により、L.カゼイ・シロタ株が生きて腸まで届き、腸内フローラのバランスを改善することにより腸内環境を良好に保つこと、免疫機能の維持、活性化に力を発揮することが科学的に証明されています。一方、宇宙を舞台とした研究はこれまで経験が無く、宇宙でもプロバイオティクスは効果を発揮できるのか、という問いに対して明確に答えることができませんでした。今回、ISSで保管したL.カゼイ・シロタ株の性状を多角的に検証し、プロバイオティクスとしての機能が維持されていたことを科学的に示すことができました。宇宙環境におけるプロバイオティクスの安定性を確認した世界初の成果であり、来るべき宇宙時代におけるプロバイオティクス活用の道を切り開く、その大きな一歩を踏み出すことができたと感じています。今後、ISSに滞在する宇宙飛行士によるプロバイオティクス摂取実験を継続し、更なる検証を進めてまいります。

6. 論文情報

名: Scientific Reports
論文表題: Probiotics into outer space: feasibility assessments of encapsulated freeze-dried probiotics during 1 month's storage on the International Space Station
Takafumi Sakai, Yasuhiro Moteki, Takuya Takahashi, Kan Shida, Mayumi Kiwaki, Yasuhisa Shimakawa, Akihisa Matsui, Osamu Chonan, Kazuya Morikawa, Toshiko Ohta, Hiroshi Ohshima, Satoshi Furukawa
ISS保管後に地上へ帰還した摂取サンプル

図1. ISS保管後に地上へ帰還した摂取サンプル(出典:JAXA)

 ISS保管品および地上対照品に含まれるL.カゼイ・シロタ株の生菌数の比較

図2. ISS保管品および地上対照品に含まれるL.カゼイ・シロタ株の生菌数の比較
(N=3、棒グラフは平均値、エラーバーは標準偏差を示す)(出典:JAXA)

 ISS保管品および地上対照品によるマクロファージ細胞を用いたIL-12産生誘導能の比較

図3. ISS保管品および地上対照品によるマクロファージ細胞を用いたIL-12産生誘導能の比較
(N=3、棒グラフは平均値、エラーバーは標準偏差を示す)(出典:JAXA)

 
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