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「きぼう」での実験

第2回マウス長期飼育ミッションの終了後3か月速報

最終更新日:2017年12月28日
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
国立研究開発法人理化学研究所
公立大学法人横浜市立大学

国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟で行われた第2回マウス長期飼育ミッションでは、30日間の飼育を行い、12匹全個体を帰還させました。マウスの動きや外観に異常は見られませんでした。これは第1回マウスミッションに続く快挙となります。

第2回ミッションでも世界でJAXAだけが所有する遠心機能付き飼育装置を使用して、6匹のマウスを飼育しました(人工重力群)。この群のマウスは地上と同じ重力がかかった状態ですが、対照となる6匹は微小重力で飼育を行いました(微小重力群)。人工重力群と微小重力群のマウスを比較して、重力の生体への影響を検証します。また、今回は両群の半数に腸内細菌叢に効果があるフラクトオリゴ糖(FOS)入りの餌を与え、その効果の検証も行っています。

宇宙で飼育したマウスが9月18日に地上に帰還して3か月が経過しましたが、現在までの解析結果を速報でお伝えします。

【解析速報】

(1) 帰還したマウス組織のプロテオーム解析(横浜市立大学チーム)

ISSから帰還したマウスの骨格筋、大腿骨、血液において発現しているタンパク質を網羅的かつ定量的に質量分析法で解析しました。ミッション終了後1か月速報で発表したように、微小重力群で萎縮するヒラメ筋では、多数のタンパク質の発現が変動していることを見出しました。

第2回マウス長期飼育ミッションの終了後1か月速報
図1 帰還したマウスの組織で発現しているタンパク質の種類(提供:JAXA/横浜市立大)

図1 帰還したマウスの組織で発現しているタンパク質の種類(提供:JAXA/横浜市立大)

その後、骨と血清のプロテオーム解析を行い、骨では481種類、血清では832種類のタンパク質を同定しました。骨と血清において微小重力で発現が変動するタンパク質を同定中であり、骨量や骨格筋量減少の指標となる血清タンパク質の同定も目指しています。横浜市大チームは骨粗鬆症患者の血清サンプルのプロテオーム解析も実施しており、マウスミッションのデータと比較する予定です。これにより宇宙と骨粗鬆症で生じる骨量減少に、共通の分子機構が存在するのか解明が期待されます。

プロテオーム解析ではタンパク質を均一な溶液にする必要がありますが、骨は固い組織であるため、サンプル調製が困難です。横浜市大チームは独自のサンプル調製法を確立しており、より多くのタンパク質を検出可能にしています。また、骨はアメリカから凍結した状態で日本へ輸送しており、凍結した状態でマイクロCTを撮影後、プロテオーム解析用サンプルを調製しています。横浜市大チームは凍結した骨もマイクロCTで微細構造を解析可能であることを確認しており、貴重なサンプルを最大限に利用しています。


(2) FOSは帰還時の糞便中IgA量を増加させる(理化学研究所チーム)

宇宙では微小重力、宇宙放射線、閉鎖環境による複合ストレスが原因となり、免疫機能が低下することが宇宙飛行士や宇宙飛行したマウスの研究で報告されています。今回は人工重力群、微小重力群のそれぞれ半数のマウスにFOSの入った餌を与え、免疫機能を調べました。FOSは有益な腸内細菌の栄養源となるプレバイオティクスの1つであり、腸内細菌叢のバランスを改善します。

免疫機能は、帰還したマウスの糞に含まれる免疫グロブリン(IgA)量で評価しました。IgAは鼻腔、口腔、消化管などの粘膜から大量に分泌され、病原体等の感染から生体を防御する粘膜免疫の中心的な役割を担っています。IgAは腸管で最も多く分泌されるため、糞便でIgAを定量することが可能です。

図2 帰還したマウス糞便中に含まれるIgA量(提供:JAXA/理研)

図2 帰還したマウス糞便中に含まれるIgA量(提供:JAXA/理研)

FOS餌で飼育したマウスでは人工重力群、微小重力群共に、通常餌で飼育したマウスと比較してIgA量が増加していることが明らかになりました。すなわち、FOSは微小重力、人工重力の両環境において、腸管によるIgA産生を促進しており、宇宙における免疫機能の低下の予防や対策に有用である可能性が考えられます。

今後はFOSにより腸内細菌叢がどのように変化したかを次世代シーケンサーで解析する予定です。さらに、FOSによる血液中のリンパ球などの全身免疫系への影響を検証します。

 
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