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現在、国際宇宙ステーション(ISS)でフライトエンジニアとして活躍中の星出彰彦宇宙飛行士。そんな星出宇宙飛行士の活躍の“源”となる「きぼう」日本実験棟のシステムや実験に関わる技術・知識を、星出宇宙飛行士に授けた訓練インストラクタについてご紹介します。
叶 健治(かのう けんじ):「きぼう」システム訓練担当
「きぼう」の環境制御系、熱制御系、実験支援系システムに関する地上訓練、及び、火災や急減圧などの緊急事態対応を模擬した軌道上訓練を担当しています。今回の星出宇宙飛行士への地上訓練では、本年3月に軌道上の「きぼう」において、熱制御系の機器の中でも特に重要なポンプが故障してしまったことを受けて、急遽、ポンプの交換訓練を行いました。少々急ごしらえの訓練提供とはなりましたが、8月には星出宇宙飛行士による交換作業が成功、交換したポンプも正常に機能して通常の熱制御機能を取り戻すことができ、ホッとし、また、流石!との思いとともに、星出宇宙飛行士にとても感謝しています。
(参考:「きぼう」の低温冷却水系の ポンプ交換と通常運用への復帰完了について)
感謝と言えば・・・で少し話は逸れますが、私は2001年に第1期「きぼう」システム訓練インストラクタとして認定され、それ以降、星出宇宙飛行士を含め多くの宇宙飛行士に訓練を提供する立場として仕事をさせて頂いていますが、星出さんはある意味、私のインストラクタになるための最初の先生でもあります。
1998年頃の昔話になりますが、当時、まだJAXA(当時NASDA)には「インストラクタ」という役割の人はおらず、その人をどのように養成していかなければならないかを検討している段階でした。当時の星出さんは宇宙飛行士として選抜される前のJAXA(当時NASDA)の職員さんで、若田宇宙飛行士の支援担当としてNASAでの訓練に立会い、直に「宇宙飛行士訓練」そのものに接し、誰よりもその知見を持っていました。ですので、私も含み当時のインストラクタ養成検討作業チームの面々(=後のインストラクタ)は、星出さんからも色々教えてもらい、そういうことを経て今なんとかインストラクタとしてやっていけるようになりました。改めて感謝の思いとともに、地上より日々応援しています。
山﨑 孝(やまさき たかし):「きぼう」実験運用訓練担当
「きぼう」で実施される様々な実験に関する訓練を担当しています。
今回の星出宇宙飛行士のミッションでは、水棲生物実験装置(Aquatic Habitat: AQH)を使用したメダカ実験(Medaka Osteoclast)の訓練を担当させていただきました。メダカの実験は、生き物を取り扱うということもあり、これまで「きぼう」で実施された他の実験と比較しても手順が繊細でまた柔軟な対応が求められるのですが、星出さんは持ち前のセンスの良さで問題なく訓練を修了されました。メダカは、10月23日に打ち上げられたソユーズ宇宙船で国際宇宙ステーションに到着し、星出さんの手によって水棲生物実験装置の水槽に移され、今後約2ヶ月にわたって飼育される予定です。
ところで、「星出さんはどんな人?」と聞かれれば、「エンジニア×宇宙飛行士=星出さん」と言うことができると思います。星出さんにはこれまで何度も訓練を提供させてもらっているのですが、特に印象に残っているのは、手順を練習している時には必ずその操作の目的と装置の構造・機構を把握することに努めていたり、「より良い手順はないか?」と常に考えている様子です。宇宙で使う装置の操作手順は地上のエンジニアのチームが練って作成するので、宇宙飛行士としては手順を習得するだけで基本的には問題ありません。しかし、星出さんはエンジニアの一員として、装置の設計や手順を良くしようとコメントをされ、チームと一緒になってより良い姿を考えることがこれまで数多くありました。
メダカ実験が開始され、訓練を提供させていただいた私も少し緊張していますが、同じチームの一員の星出さんが操作してくれるなら実験を成功に導いてくれるに違いないと思いますし、その成果を楽しみにしています。
藤田 裕一(ふじた ひろかず):「きぼう」システム訓練担当
「きぼう」のエアロック操作、および機器の交換などを含む船内活動の訓練を担当しています。
今回、星出宇宙飛行士は軌道上で小型衛星放出技術実証ミッションを担当されました。本ミッションでは、エアロックのスライドテーブルに取り付けられた小型衛星放出機構を船外に搬出してロボットアームで把持し、船内からのコマンドで小型衛星を放出しました。本ミッションが成功すれば、今後多くの大学や企業に小型衛星放出の機会を提供することができ、「きぼう」利用の促進につながることが期待される、非常に注目度の大きいミッションでしたが、星出宇宙飛行士と地上の運用管制チーム/訓練インストラクタチームが力を合わせ、見事に小型衛星放出技術実証ミッションは成功しました。
また、星出宇宙飛行士は、小型衛星放出技術実証ミッションの準備段階として、小型衛星放出機構を親アーム先端取付型実験プラットフォーム(MPEP)に設置する作業も担当しました。星出宇宙飛行士が「きぼう」に出発する前、私は、その小型衛星放出機構をMPEPに設置する作業に関わる訓練を提供しました。 短い訓練準備期間の中、インストラクタチームでMPEPの簡易モックアップを作成するなど、できるだけ実際の作業イメージが星出宇宙飛行士に伝わるよう工夫しました。短時間の訓練の中でミッションの要点や注意事項を把握しなければならなかった星出宇宙飛行士のプレッシャーも決して小さくは無かったのではないかと察しますが、そのような状況においても星出宇宙飛行士は前向きに訓練に取り組まれ、一つ一つのポイントを素早く確実に理解されていました。
小型衛星放出技術ミッションが成功した今、心からほっとしています。 まずは、星出宇宙飛行士に「ありがとうございます」と伝えたいと思います。 また、今後の更なるご活躍を楽しみに、インストラクタチーム一同、地上から応援を続けています。
永田 秀樹(ながた ひでき):「きぼう」実験運用訓練担当
私はライフサイエンス系実験の訓練インストラクタとして、これまで何度か星出飛行士の訓練を担当しました。
中でも直近で訓練を実施したResist Tubuleという植物実験は、管制要員としても地上から星出飛行士と協調しながらの運用に携わっているため、思い入れがあります。この実験の山場は、「きぼう」内で発芽させた植物試料(シロイヌナズナ)をKFT(KSC Fixation Tube)という特殊な器具で化学固定するという場面であり、訓練でも一番力を入れたため、星出飛行士がその成果を発揮する瞬間をワクワクして迎えました。
思えば、私がまだ訓練インストラクタの卵として養成訓練を受けていた当初、星出飛行士には本番の訓練を想定したリハーサルに夜遅くまでお付き合い頂き、手加減なしの質問攻めで私を鍛えて下さいました。ちょうど仕事の壁にもぶち当っていた時期でしたが、ここまで曲がりなりにも訓練チームの一員としてやってこれたのも、あの時、星出飛行士からの色々なアドバイスで励まされ、ユーモアと笑顔に癒されたからこそ、と感謝しています。
一方、常に宇宙飛行士の目線に立ち、運用手順やハードウェアの設計等が理に適っていない、と判断した際は、決して妥協しない姿勢を貫き頼もしく感じました。例えば、今「きぼう」に搭載されているクリーンベンチ(CB)は、当初複雑であった打上げ後の組立手順が、星出飛行士自ら関係者へ働きかけたことにより、誰もが無理と思っていたギリギリの土壇場で、一転簡素化されました。今でも強く印象に残っている出来事です。
そんな星出飛行士が2度目の飛行で大活躍されている姿をとても嬉しく思います。まだしばらく気の張った状況が続きますが、元気に残りのISS滞在を乗り切って下さい。地上から応援し続けます。
天内 隆明(あまない たかあき):「きぼう」システム訓練担当
星出宇宙飛行士が、今回の長期滞在ミッションに至るまでの長期間にわたる訓練のうち、「きぼう」の管制制御系、電力系、通信制御系システムに関する訓練のインストラクタを担当しております。今回は、普段あまり知られない訓練中の様子から、星出宇宙飛行士の人柄を紹介したいと思います。
訓練中の星出さんはとにかく明るく、冗談などもよく飛び出します。例えば、ある「きぼう」緊急対応の訓練で、インストラクタが「有毒ガスが居住空間に混入してきた場合の最初に宇宙飛行士がしなければいけないことは?」と質問すると「窓を開ける!」などいって笑わせてくれました(勿論、すぐに正解を答えてくれましたが)。こういった性格は、訓練の場を和ませてくれるだけではなく、前向きなチームの雰囲気づくりにも大きく貢献しているように感じました。私も訓練中、インストラクタとしてこの良好な雰囲気に何度も助けられました。実際の運用においても、緊迫した場面などでは非常に重要な要素でもあるのです。その一方で、訓練実施側の改善にも積極的で、訓練後のデブリーフィングは長引くことがよくありました。和やかな空気を作りながらも、“言うべきことはしっかり言う”側面を持っていました。おかげで私自身も色々なことを星出さんから学ぶことができ、とても感謝しています。
今回のISS長期滞在ミッションで、星出さんならきっと仲間との宇宙滞在を楽しむことができると思います。地球に帰還した後に再び会った時、今回のミッションを通じて感じた心境の変化などについて話をしたいなどと考えながら、地球から日々応援しています。
高見 卓也(たかみ たくや):「きぼう」実験運用訓練担当
宇宙での材料科学実験や文化芸術テーマ活動の宇宙飛行士訓練を担当しています。星出飛行士にも、たんぱく質結晶の実験やさまざまな文化芸術の訓練を行いました。訓練中、星出さんはそれぞれの実験の科学的な意義や芸術的な背景をきちんと理解するほか、操作を納得するまで理解し習得する姿がうかがえました。訓練が終わった後にも、手順書の疑問点を担当者と確認し合うこともあったのですが、最大限の実験成果を上げるべく、一つ一つ丁寧に確認し、的確な操作を行おうとするその意識はさすがです。
実際に宇宙へ飛び立ち、訓練どおりの、またそれ以上の操作をこなす星出飛行士。私が訓練を行ったうちの一つである、結晶成長の実験試料を交換する場面がありましたが、その時に、地上ではうまく交換できたものが、微小重力では少し手間取ってしまうハプニングがありました。私は宇宙飛行士の訓練インストラクタ以外に運用管制官の身でもあり、ちょうどその時に、つくばの管制室で星出さんの作業をサポートしていました。微小重力ではどのようにしたらうまく交換できるのか、星出さんは地上にいる我々とアイデアを出し合い、見事にクリア。無事に交換を終え、現在、実験は順調に進んでいます。
星出さんは実際に宇宙へ行ったことがあるという経験を活かして、訓練においても、「きぼう」の中でも、我々地上側にはない視点も持ち合わせて作業を行ってくれますので、お互いにより良い成果を出せていると思います。
星出さんが前回宇宙から帰還された後、筑波宇宙センターの中でお会いした時に「宇宙はどんな所でしたか?」とお尋ねしたことがあります。これからも「宇宙ってこんなに楽しい所だよ!」と、宇宙のおもしろさ、宇宙のワクワク感を日本中に伝えてほしいと思います。地球に帰ってきたら話をたくさん聞けることを楽しみにしています。
古野 義明(ふるの よしあき):「きぼう」システム訓練/実験運用訓練担当
私は、システム訓練インストラクタとして「きぼう」の監視制御系や電力系を担当し、また実験運用訓練インストラクタとして細胞実験ラックや多目的実験ラックを担当させていただいています。
星出飛行士と初めてお会いしたのは2007年で、私がまだ「きぼう」のインストラクタに認定される前でした。その時星出さんは訓練のため筑波宇宙センターに来ており、私はインストラクタ候補者として訓練を後ろから眺めている立場だったのですが、「新しい方ですよね?星出と申します。」と気さくに話しかけていただいたのを覚えています。その時は、いずれ自分がインストラクタとなって星出さんを訓練する立場になるということがとても信じられませんでした。
私がインストラクタとなった後に星出さんに提供したのは、「こうのとり」2号機で打ち上げられた多目的実験ラックおよびそこに搭載される燃焼実験チャンバーに関連する訓練です。一番印象的だったのが、燃焼実験チャンバーの訓練開始直後に、星出さんが訓練教材をさっと読み、これから提供しようとする知識をあっというまに吸収していたところです。星出さんの受け答えを見ているうちに、「ああ、あの一瞬で全て把握されたんだな」と悟ってしまいました。長年アメリカやロシアを中心に経験を十分に積まれた宇宙飛行士のすごさを実感した瞬間でした。
また、訓練以外でも顔を合わせる機会が何度かありましたが、その時に見た星出さんの明るくユーモアあふれる人柄にも感動させられました。
星出飛行士が今回の長期滞在で実施する多目的実験ラックでの実験は、私が訓練を担当した燃焼実験チャンバーのメンテナンスの他、水棲生物実験装置を使用したメダカの飼育があります。目が離せない実験が目白押しで大忙しな星出飛行士ですが、あの明るさと優しさで乗り切ってくださると信じ、これからも応援し続けたいと思います。
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