大岡 信
(詩人)
Makoto Ooka
宇宙連詩というアイディアは、宇宙は弾道弾やロケット兵器のためにだけあるのではない、それは人間やその他の生物のために広々とした利用の可能性がある場所として開かれていなければならないという考えから出たものです。つまり、宇宙は軍事にのみ利用されてはならない、平和利用の広々とした可能性の原野たらしめねばならないという思想から得られたものです。心ある人々の参加をお待ちします。
野村喜和夫
(詩人)
Kiwao Nomura
連詩は、連歌・連句という日本古典詩歌の伝統と西洋由来の現代詩の世界との融合をめざすひらかれた詩のスタイルです。言葉のバトンを渡すように、参加者がつぎつぎと紡いでゆくその流れは、「往きて還らぬ」生成変化そのものであらねばなりません。今回のメインテーマは「宇宙と生命」。それ自体生命体である連詩を宇宙へとひらきながら、われわれもまた宇宙に生きるいのちであることの意味を追求していけたらと思います。
谷川俊太郎
(詩人)
Shuntaro Tanikawa
ビッグバンの仮説を信じるとすれば、私たち地球に棲む人類は、その出自を星々と同じくしている。宇宙を構成する粒子、宇宙を動かす波動は私たちをも創り、動かしているはずだが、日々の暮らしにかまけて私たちはそれを感じる力を失いがちだ。詩のことばは音楽とともに、太古から人間を超えた存在へと私たちを導き、私たちが宇宙の子であることを暗示し続けている。「宇宙連詩」は地上から宇宙へ発射されることばのロケットだ。
覚 和歌子
(詩人、作詞家)
Wakako Kaku
私たちが暮らすこの世界は、どこまでも宇宙に向かって開かれていて、いかなる悲しみが影を落とそうとも、本当は途方もなく豊かなのだ。そのはかりしれなさをうたいつなぎながら、まだ見ぬ誰かと確かめ、ことほぎ合いたい。詩の言葉をつむぐときの、日常を越えてしまうあの感覚を一人でも多くの人と分かち合いたい。宇宙とは何かという問いかけを、科学だけにまかせてはおけない、そう思うのは詩人だけではないはずだから。
毛利 衛(宇宙飛行士)
Mamoru Mohri
宇宙の真っ暗闇で「光りありき」の意味がわかった。真っ白い太陽に輝く地球の青さで「生命の起源」がわかった。それを多くの人たちに伝えるために科学ではなく芸術の表現力がほしいなと思った。地球上の多くの人たちと宇宙連詩を媒介にその宇宙体験のすべてを共有したい。
山崎直子(宇宙飛行士)
Naoko Yamazaki
宇宙連詩に参加することが出来、とてもうれしく思います。私たちも、この世界で起こっていることも、みな宇宙の一部。だから、宇宙は決して遠い存在ではなく、一人一人が宇宙と繋がっているはず。この宇宙連詩を通じて、たくさんの方々の様々な想いが引き継がれ、宇宙へ届くことを楽しみにしています。
佐治晴夫
(鈴鹿短期大学学長)
Haruo Saji
「自然は芸術を模倣する」といったのは、イギリスの作家オスカー・ワイルドでした。逆説的な言い回しですが、人間の自然への理解は、それらの有り様を縮約して表現できる芸術を通して可能になるといっているのでしょう。芸術こそ魂に直接的に働きかけてくる表現方法だからです。今回、連詩という芸術作品に、広く一般の人たちがかかわることによって、人類の普遍的な宇宙理解が深まれば、そこから、世界平和への第一歩が始まるでしょう。
井口洋夫(JAXA顧問)
Hiroo Inokuchi
私達は万葉の昔から、老若男女多くの者が日常短歌をよくし、俳句に親しんで来た。その題材には、自然の移り変りを巧みに捉え、短い言葉の中に凝縮し、われわれの思いを表現した。いま、宇宙時代の象徴としての国際宇宙ステーションの中で、日本の実験棟の稼動を間近に控え、宇宙飛行士も加わって一回り大きくなった自然を連詩に託し、新しい交遊の輪を世界に拡げたい。それこそ、われわれ人間が地域も、宗教も、言語も超えて一つになれる第一歩だから。
的川泰宣
(JAXA名誉教授/NPO子ども・宇宙・未来の会会長)
Yasunori Matogawa
21世紀の新聞記事が、世田谷区の一家殺人事件のニュースから始まったことが、現在の日本が抱えている課題を象徴的に浮かび上がらせました。137億年前の宇宙誕生以来、紡がれてきた物質の連鎖は、約40億年前に、この地球で幼い「いのち」を生み、以来さまざまないのちのリレーによって、他ならぬ私たちの「いのち」に受け継がれてきました。それは今や美しさだけの世界ではなく闘いの現場となっています。宇宙連詩が、厳しいリレーを内に秘めた強靭な絆をバトンタッチして行けるといいなと願っています。
渡部潤一
(自然科学研究機構国立天文台天文情報センター長)
Junichi Watanabe
天の川が見えなくなりつつある日本の夜空でも、星たちは輝き、微かな光のメッセージを私たちに届けてます。宇宙からのメッセージが微かであるからこそ、私たちは感性を磨いて、それらを受け取らなくてはならないのでしょう。天文学者は大きな天体望遠鏡をつくり、それらを活用して宇宙からの手紙の意味を読みとろうとします。詩人は心をとぎすことで、宇宙からのメッセージを自分たちの言葉に翻訳しようとします。どちらも宇宙の声を聞こうとする姿勢は変わらないのかもしれません。宇宙連詩という素敵な試みを、天文学者たちが捉えた絵手紙、つまり天体画像を背景に飾ってみることにしました。詩だけでも十分に素敵ですが、こうするとまるで宇宙空間で詩が朗読されているかの如く思えてくるから不思議です。さぁ、一緒に宇宙への旅を楽しんでみませんか。
平林 久
(JAXA宇宙教育センター長)
Hisashi Hirabayashi
長野県の野辺山高原の電波天文台に勤めていたころ、独りで奥秩父の山中の小屋に住んでいたことがありました。心と自然とがなじんでいくにしたがって、短歌を自分の心と自然の表現にしていました。それからまた、都会に出て忙しい衛星計画の中心に入って忙殺されているあいだに、心の世界に生えていた林も、川も、岩も、雲も、次第に消えていってしまうことに気づきました。それぞれの豊かな詩歌の世界をもって連詩を交わすということは、そんな豊かな心の世界を交わすことになるのでしょう。連詩によって、どんなひろがりをもった心の宇宙があらわれてくるのでしょう。
山中 勉
(JAXA主幹研究員)
Tsutomu Yamanaka
宇宙連詩は、JAXA(旧NASDA)が2002年度に公募した「きぼう」の利用方法に端を発しています。「星でヒトとヒトを結びたい」、「星で人々を結びたい」というコンセプトを提案し、スターメール、宇宙連詩を、共同研究としてプロデュースさせて頂きました。いよいよ2008年から国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟が稼動し、2009年からは、日本人宇宙飛行士の長期滞在も始まります。宇宙は、科学技術のみならず、国際協力、法律、人文社会領域でもフロンティアです。宇宙連詩が、宇宙、地球、生命を、国境、文化、世代、役割、専門を超えて皆で考えていく社会的な取り組みとして定着していくことを願っております。