宇宙連詩 みんなで紡ごう、宇宙に流れる生命のメッセージ

宇宙連詩

宇宙連詩 第3期

今年のアリは忙しく移動してゆく
去年のカタツムリの殻をぬけて
見たまえ 目の前の池で
足をゆらゆら揺らしながら
二羽の鴨が悠々と泳いでいる

01
大岡 信(詩人) Makoto Ooka

しずかに「家」を揺るがすものよ
その振動を腹に 巨大なうつ伏せのトドが猛進してゆく
あれは 時間 なのか 私たちを透明につらぬいて

02
杉本真維子(詩人) Maiko Sugimoto

それとも 空間 だろうか 私たちを優しく包み込み
重く苦しい重力のくさびを解き放ち
美しい 天の国へといざなっていく
星々がひしめき合い 漆黒のキャンバスに
希望の光を輝かせる 宇宙へと

03
渡部潤一
(自然科学研究機構国立天文台天文情報センター長)
Junichi Watanabe

希望の光は草の葉の一枚一枚で呼吸している
一度その胸に飛び込めば 宇宙は暗くない
男と女は愛し合う一対のひな菊である

04
D.V.ロジック(作家、52歳、クロアチア) D.V. Rozic

あなたと手を繋いでも まるで太陽と地球 永遠の距離
時計の針がカチカチ鳴る 私たちの時間を
作っているの それとも 消しているの
宇宙が くるっと まわるたび
未来のいのちは あっという間に 過去になる

05
紗茶みるき(28歳) miruki sasa

あなたの手の中には 水平線がある 折れ曲がる山の線も 時間変更線も JR中央線も
グラフの線も 宇宙線も ノートの罫線も 砂漠と空を横切る 地平線も 太い感情線も
騒がしい環状線も 生命線も 生々しい線ばかりです それを見つめる 私 あなた 人

06
和合亮一(詩人) Ryoichi Wago

琴線が響いて広がる心の面(おもて)
紡錘形の共鳴の膨らみ具合は私の感情のバロメータ
昨日は丸い球、今日は細く尖んがった針
吐息で夜空のガラスを曇らせて
指先で自分勝手な星座の線を引きまくった

07
西嶋純一(会社員、50歳) Jun-ichi Nishijima

旅の秘訣は たどり着く町を持たないこと
牛の背中に揺れながら 歌うように運ばれていくこと
曇り空の色をした石門をくぐり 見えない鳥を数え 死んだ人からの手紙を携えて

08
覚 和歌子(詩人・作詞家) Wakako Kaku

母の眠っている間に庭いじりをする
介護する日々が指先から土(earth)へ吸いこまれてゆく
幼いままのトマトの最後の実が
翡翠色に透いて一粒の宝石となり
宇宙からのことづてを私に伝える

09
FUMIKO FUMIKO

校庭の片隅でタイムカプセルがみつかり
大騒ぎしたこともあった 蓋を開けると
東京に雪が降っていたりする 世にも不思議な写真

10
野村喜和夫(詩人) Kiwao Nomura

邪馬台国にメソポタミア
知識としてしか知らない世界
教科書に載ってることってホントにあったの?
過去 は見られない
見ているのは そら だけ

11
酒井汐美(中学2年生、14歳) Shiomi Sakai

逃げまわるミジンコを追いかけて 二丁目の角を曲がると
道の向こうに始祖鳥が 背中をみせて降り立った
目が 誘っている

12
木戸多美子 Tamiko Kido

シネコンを出ると細い三日月がかかってた
アニメの中身なんか覚えちゃいない
君のお喋りにだって上の空だ
ふたりの明日に関するぼくからの提言
いつどこで切り出そうか?

13
四元康祐(詩人) Yasuhiro Yotsumoto

水の記憶は
最初の春の雨の滴のなかにひそんで
古く静かな答えを運んでいる

14
エドゥアルド・タラ(数学教師、39 歳、ルーマニア) Eduard TARA

夜空を飛びまわる蝙蝠の鳴き声を聞けば
暗闇の本質が分かる
遥か太古の大地の黒暗暗の中から
ずっと孤独に耐え続けてきた化石は
流星雨に潤されることを待ち望んでいる

15
田 原(詩人、中国) Tian Yuan

アンモナイトのらせん階段を降りると 海底神殿の入り口
ひっそりと輝くロゼッタストーンを 覗きこめば
いにしえの人々の言葉が 溢れている

16
ムーニャ・ノリコ(事務員、51 歳、サイパン) Noriko Muna

私のかたちに渦巻く耳のおく
やわらかな闇の寝床からあわあわと立ちのぼってくるのは
きのうの夜に溶けてしまった夢の残響 それとも
いつかどこかで生きていた知らない誰かの記憶だろうか
まだ触れたことのない空を内包した卵のようにふるえて

17
川口晴美(詩人) Harumi Kawaguchi

空からもらって 空へ投げ返す
空に映った 昨夜の夢
わたしから飛び出した脳波が 亡き人の像を結んだ

18
えみ(アルバイト、48歳) Emi

人は死んだら お星様になるんだよ
体から解き放たれた元素たちが 宇宙へ向かい旅に出る
輝く星を、凍てつく闇をすり抜けて 永くながく 遠くとおく
巡りめぐったその果てで 再び出逢ったものたちが 強く熱くくちづけを交わし
やがて 新たなる星が 新たなる時が 新たなる命たちが 生まれ始める

19
白雨(19 歳) Hakuu

進化の系統樹からすっかりはぐれて
星座になった熊・さそり・白鳥
ミッシング・リンクが永遠の淵を航海している

20
田口犬男(詩人) Inuo Taguchi

私たちの不機嫌な静脈のなかに 不幸せな脳のなかに
私は何百万もの銀河を発見する その宇宙のかなたの
古い家にあこがれて 昼となく夜となく這い泳ぎながら
幸福の家を求めるけれど みつかるのは損失だけ
そのとき私たちは 祖先の空からどれほど遠ざかってしまったのか気づく

21
アグス・R・サルジョノ(詩人、インドネシア) Agus R. Sarjono

やわらかに乳房をふくむ唇を透かして
かつて私の一部だった紅色が 脈々とあなたの中を流れゆくのが見える
ああなんという幸福だろう 切り離された個体をふたたび 赤と白の螺旋が結ぶ

22
梅本真由美(フリーライター、41歳) Mayumi Umemoto

赤は遠ざかっているしるしで 青は近寄っているしるし
ボイジャーの光はどっち? アンドロメダの光はどっち?
テレビの中のアイドルの輝きはどっち? 子供たちの未来はどっち?
だけど自分の力でできることがある
青い鳥を捕まえたいなら 自分から全力で走っていけばいいんだよ

23
葉月野(会社員、37歳) Hadukino

地球生まれのものたちの道は愛の夢。
私はそれを両親からもらい、携えていくのだろう
青い永遠の夜へ、私の人生の一部として。

24
クレリア・イフリム(詩人、劇作家) Clelia Ifrim

真闇に浮かび青く輝く水の惑星を眼前に
その私たちのふるさとに愛おしさを感じ
命を与えられた事を有難く思う
明日も青い空へ挑み未知なる宇宙を拓こう
そこに夢があるから

25
若田光一(宇宙飛行士) Koichi Wakata

ふたたび私たちは生まれたばかりの無垢な赤子
見えない魂のへその緒でふるさとの星とむすばれ
はるか彼方にひそむ答えを求めて限りなく問い続ける

26
谷川俊太郎(詩人) Shuntaro Tanikawa

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