今年のアリは忙しく移動してゆく
去年のカタツムリの殻をぬけて
見たまえ 目の前の池で
足をゆらゆら揺らしながら
二羽の鴨が悠々と泳いでいる
しずかに「家」を揺るがすものよ
その振動を腹に 巨大なうつ伏せのトドが猛進してゆく
あれは 時間 なのか 私たちを透明につらぬいて
それとも 空間 だろうか 私たちを優しく包み込み
重く苦しい重力のくさびを解き放ち
美しい 天の国へといざなっていく
星々がひしめき合い 漆黒のキャンバスに
希望の光を輝かせる 宇宙へと
希望の光は草の葉の一枚一枚で呼吸している
一度その胸に飛び込めば 宇宙は暗くない
男と女は愛し合う一対のひな菊である
あなたと手を繋いでも まるで太陽と地球 永遠の距離
時計の針がカチカチ鳴る 私たちの時間を
作っているの それとも 消しているの
宇宙が くるっと まわるたび
未来のいのちは あっという間に 過去になる
あなたの手の中には 水平線がある 折れ曲がる山の線も 時間変更線も JR中央線も
グラフの線も 宇宙線も ノートの罫線も 砂漠と空を横切る 地平線も 太い感情線も
騒がしい環状線も 生命線も 生々しい線ばかりです それを見つめる 私 あなた 人
琴線が響いて広がる心の面(おもて)
紡錘形の共鳴の膨らみ具合は私の感情のバロメータ
昨日は丸い球、今日は細く尖んがった針
吐息で夜空のガラスを曇らせて
指先で自分勝手な星座の線を引きまくった
旅の秘訣は たどり着く町を持たないこと
牛の背中に揺れながら 歌うように運ばれていくこと
曇り空の色をした石門をくぐり 見えない鳥を数え 死んだ人からの手紙を携えて
母の眠っている間に庭いじりをする
介護する日々が指先から土(earth)へ吸いこまれてゆく
幼いままのトマトの最後の実が
翡翠色に透いて一粒の宝石となり
宇宙からのことづてを私に伝える
校庭の片隅でタイムカプセルがみつかり
大騒ぎしたこともあった 蓋を開けると
東京に雪が降っていたりする 世にも不思議な写真
邪馬台国にメソポタミア
知識としてしか知らない世界
教科書に載ってることってホントにあったの?
過去 は見られない
見ているのは そら だけ
逃げまわるミジンコを追いかけて 二丁目の角を曲がると
道の向こうに始祖鳥が 背中をみせて降り立った
目が 誘っている
シネコンを出ると細い三日月がかかってた
アニメの中身なんか覚えちゃいない
君のお喋りにだって上の空だ
ふたりの明日に関するぼくからの提言
いつどこで切り出そうか?
水の記憶は
最初の春の雨の滴のなかにひそんで
古く静かな答えを運んでいる
夜空を飛びまわる蝙蝠の鳴き声を聞けば
暗闇の本質が分かる
遥か太古の大地の黒暗暗の中から
ずっと孤独に耐え続けてきた化石は
流星雨に潤されることを待ち望んでいる
アンモナイトのらせん階段を降りると 海底神殿の入り口
ひっそりと輝くロゼッタストーンを 覗きこめば
いにしえの人々の言葉が 溢れている
私のかたちに渦巻く耳のおく
やわらかな闇の寝床からあわあわと立ちのぼってくるのは
きのうの夜に溶けてしまった夢の残響 それとも
いつかどこかで生きていた知らない誰かの記憶だろうか
まだ触れたことのない空を内包した卵のようにふるえて
空からもらって 空へ投げ返す
空に映った 昨夜の夢
わたしから飛び出した脳波が 亡き人の像を結んだ
人は死んだら お星様になるんだよ
体から解き放たれた元素たちが 宇宙へ向かい旅に出る
輝く星を、凍てつく闇をすり抜けて 永くながく 遠くとおく
巡りめぐったその果てで 再び出逢ったものたちが 強く熱くくちづけを交わし
やがて 新たなる星が 新たなる時が 新たなる命たちが 生まれ始める
進化の系統樹からすっかりはぐれて
星座になった熊・さそり・白鳥
ミッシング・リンクが永遠の淵を航海している
私たちの不機嫌な静脈のなかに 不幸せな脳のなかに
私は何百万もの銀河を発見する その宇宙のかなたの
古い家にあこがれて 昼となく夜となく這い泳ぎながら
幸福の家を求めるけれど みつかるのは損失だけ
そのとき私たちは 祖先の空からどれほど遠ざかってしまったのか気づく
やわらかに乳房をふくむ唇を透かして
かつて私の一部だった紅色が 脈々とあなたの中を流れゆくのが見える
ああなんという幸福だろう 切り離された個体をふたたび 赤と白の螺旋が結ぶ
赤は遠ざかっているしるしで 青は近寄っているしるし
ボイジャーの光はどっち? アンドロメダの光はどっち?
テレビの中のアイドルの輝きはどっち? 子供たちの未来はどっち?
だけど自分の力でできることがある
青い鳥を捕まえたいなら 自分から全力で走っていけばいいんだよ
地球生まれのものたちの道は愛の夢。
私はそれを両親からもらい、携えていくのだろう
青い永遠の夜へ、私の人生の一部として。
真闇に浮かび青く輝く水の惑星を眼前に
その私たちのふるさとに愛おしさを感じ
命を与えられた事を有難く思う
明日も青い空へ挑み未知なる宇宙を拓こう
そこに夢があるから
ふたたび私たちは生まれたばかりの無垢な赤子
見えない魂のへその緒でふるさとの星とむすばれ
はるか彼方にひそむ答えを求めて限りなく問い続ける