線虫とはどのような生物でしょうか。
見かけはヒトと非常に異なっていますが、しかし非常に近いところがある生き物です。
ICE-FIRSTプロジェクトで使用されたC. elegans(シー・エレガンス)は、正式にはCaenorhabditis elegans(シノラブダイティス・エレガンス)とよばれる約1mmの線虫(線形動物門)の一種です。
寄生虫で知られる回虫も、松食い虫に寄生するマツノザイセンチュウも線虫の仲間です。
C. elegans は、寄生性ではなく土の中にいて、細菌などを捕食して生活しており、どこにでも見出すことが出来ます。
体は小型で、約1,000個の細胞から作られています。このような細胞数でも、機能的には高等動物と同じような、生殖系、神経系、筋肉系、消化系等の多様な組織を持っています。
寿命は約2-3週間で、本プロジェクトで使用されたCeMM(C. elegans Maintenance Medium)という液体培地を使って25°Cで培養すると、卵から子孫を残せるように成熟するまでは、およそ5日間です。
全ゲノムが解読され、9,700万の塩基対(ヒトでは30億)、約20,000の遺伝子(ヒトでは30,000)が含まれていることがわかっています。
また、特性の解析が終わっている突然変異体では、全ライブラリィの利用が可能になっています。
また、C. elegansの体が出来あがる仕組み、すなわち受精後のたった1つの細胞が分裂を繰り返し、多様な組織をつくりあげる過程(細胞系譜)が詳細に解析されています。
比較的単純な生物体ですが、ヒトと多くの本質的な生物学特性を共有していることがわかってきました。C. elegansの生物学的な仕組みを理解することは、ヒトについて理解することに発展していきます。
たとえば、プログラム細胞死(アポトーシス)のプロセスはC. elegansの発生過程の研究をとおして最初に発見されています。この研究は2002年のノーベル医学生理学賞の対象となりました。
このように、C. elegansはヒトなどのより高等な生物に関する理解を深めるためのモデルとなる生物であり、研究者にとっては理想的な研究材料の1つといえます。