参加研究者と参加宇宙機関担当者は、搭載装置、搭載可能量等に適合する範囲で、搭載実験内容を綿密に検討しました。そのための、予備実験やリハーサルも実施しました。
通常C. elegansは寒天上で大腸菌などを餌として培養されます。しかし、宇宙実験のためには、CeMMという栄養条件のそろった液体培地(完全合成培地)の中で育てる必要がありました。
なぜ液体培地での培養にしたのか?
通常の培養法では、寒天上にいるC. elegansは、体表面が液体の薄い膜で覆われて(濡れて)います。表面張力は表面積を最小にするように働きますから、その結果、C. elegansの体を締め付けるような力が発生します(下図→印)。実は、この力の大きさは重力の大きさに比べて、けた違いに大きいのです。このため、地球上の1Gと宇宙の微小重力環境の差で生じる現象を調べようとするには、寒天上の培養では都合が悪いことになります。このため、液体の中で培養するという方法が採用されることになりました。
CeMMは宇宙実験のためにNASAが特別に開発したものです。その組成等はNASAのAmes Research Centerで詳細に検討され、これを使った培養によって宇宙実験の科学的目標が達成できることが検証されていました。
CeMMは実際に2003年のSTS107ミッションで使用されました。STS107ミッションはスペースシャトル、コロンビア号の事故という結果に終わってしまいましたが、その残骸の中に実験装置の一部が発見され、その中でC. elegansが生存していることがわかりました。
CeMMへの馴化:各参加研究者は、実験目的に合わせて選択した様々な系統のC. elegansを、このCeMMになじませてから宇宙実験に使うことになりました。同時に、通常の方法で培養されたC. elegansと比較し、この培養方法であっても科学的に問題がないことを確認しました。
宇宙実験は通常の(地上)研究室で進められる実験とは同じではありません。そのため、次に示すような事項について、打上げ前までに確認する作業が必要でした。
●通常とは異なる容器でしかも特殊な培養方法で宇宙実験が問題なく実施できるか、
●実際の打ち上げ用実験試料の作成手順は計画通りで問題ないか、
●輸送経路上(日本→ツールーズ→打ち上げ地点)で試料に問題が発生しないか、
これらを確認、検証するため、2004年1月に、
- 総合的な予備試験(EVT:Experiment Verification Test)
(宇宙実験に使用する装置や培養容器が、計画している実験に問題なく使用できるか) - 宇宙実験リハーサル
(培養容器を用いて、宇宙実験と同じスケジュール、手順で実施)
が実施されました。
日本からは、CeMMに順応させた数系統のC. elegansを、実際の宇宙実験試料準備場所である、GSBMS(*)に輸送し、一連の試験に参加しました。
時期(2004年) | 実施内容 |
---|---|
【前半】1/12-15 | 1/16を仮想的な打上げ日に想定した試料調製リハーサル ・日本からの試料輸送リハーサル(国際宅配便およびバックアップ試料の手持ち輸送) ・C. elegans の培養 ・仮想搭載試料の調製 |
1/16-1/25 | 仮想的軌道上実験期間 |
【後半】1/25-27 | 1/26を仮想的な地上帰還日と想定した試料回収リハーサル ・日本からの試料輸送リハーサル(国際宅配便およびバックアップ試料の手持ち輸送) ・C. elegans の培養 ・仮想搭載試料の調製 |
(*)Groupement Scientifique en Biologie et Medicine Spatials Faculte de Medecine de Rangueil、Universite Paul Sabatier:フランス、ツールーズ市郊外にあるポール・サバティエ大学医学部にある宇宙実験関連施設)