■発端
2003年7月の日仏宇宙協力に関する会合で、宇宙実験分野における日仏協力を推進することに合意しました。
この時期、フランス国立宇宙研究センター(CNES)では、2004年4月に予定されていたSoyuzタクシーミッションで小型培養器(KUBIK)を利用するC. elegansの宇宙実験の企画を進めていました。予定されていた「第5回ライフサイエンスおよび宇宙医学分野の宇宙実験テーマの国際公募」でC. elegansがモデル実験生物に指定されていたからです。
このような中で、CNESは日仏合意をより広く実現させるため、この実験チャンスの利用を、両国をこえた各国宇宙機関へも呼びかけました。その結果JAXA、CNES、カナダ宇宙庁(CSA)、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)、アメリカ航空宇宙局(NASA)の協力のもと、オランダ宇宙研究機関(SRON)の支援を得て、ICE-FIRSTプロジェクトの発足に至りました(2004年11月)。
■JAXAのとりくみ
JAXAでは宇宙環境を利用する生命科学系研究の重点領域として「宇宙ゲノム科学」をあげています。C. elegans はまさにゲノムサイエンスの手法を用いた生命科学研究に適した実験動物です。また、上述のように第5回国際公募ではC. elegansを利用するテーマが募集される計画でした。
このため、JAXAでは国際公募に備えると同時に、関連分野の日本の研究コミュニティ育成につなげることを目指し、国内のC. elegans研究者の支援をうけて研究体制を整備し、ICE-FIRSTプロジェクトに参加することになりました。
C. elegans が宇宙飛行中に生殖・産卵し発生することは、これまでにわかっていました(G. Nelson)。
また、右に示すように、これまで数回の宇宙実験が実施されています。
しかし、それぞれが個別に実施されており、ICE-FIRSTのように総合的な取り組みではありませんでした。
ICE-FIRSTでは、日本、フランス、カナダおよびアメリカ合衆国からの科学者が国際チームを編成し、C. elegans の発生や分化などの基本的プロセスが、宇宙と地球上と比べて、どのように異なるのかという課題に、総合的に取り組みました。
科学的な目標達成にむけて国際チームが連携して取り組むことは、国際宇宙ステーション利用における国際協力の精神を反映するものです。
21世紀へ移行するとともに、宇宙を旅行し、宇宙で働き、生活することが今や現実のものとなってきました。宇宙ステーションは、さまざまな活動が行われる宇宙プラットフォームであり、約20年間地球軌道上を周回し続ける計画です。
宇宙に長時間滞在する人々が多くなるにともない、人体に対する宇宙環境の影響を詳細に理解し、そこで想定される問題への対抗策を用意することが、ますます重要になっています。
宇宙ステーションは重力のない状態で、生命がいかに適応し機能するかを、細胞レベルから個体レベルまで研究することができる、ユニークな研究の場を提供してくれます。
国際宇宙ステーション(ISS:International Space Station)
1998年、日本、カナダ、欧州宇宙機関加盟の10ヶ国、ロシア、アメリカが共同で史上最大の宇宙ステーション建設を開始しました。2010年予定の完成時には、広さはサッカー競技場と同じくらい、重さは約465トンとなります。
居住区は約1200立方メートルとなる予定です。宇宙飛行士達はこの居住区で生活し、日常的に微小重力環境における幅広い科学・技術実験を行うことになります。
宇宙空間という特別な環境を利用して、地球・天体の観測や、いろいろな領域の実験・研究などを行うのが国際宇宙ステーション計画です。
日本初の有人実験施設となる「きぼう」
2007年を目標に、ISSにドッキングする予定です。
「きぼう」は、船内実験室と船外実験プラットフォームの2つの実験区域からなり、船内実験室は長さが11.2メートル、直径が4.4メートルあります。船外実験プラットフォームは、宇宙空間を長期間利用する実験や天体観測・地球観測などに使われる予定で、船外環境をそのまま使用することができるISSの中でも独自の施設です。