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シンポジウム・ワークショップ

国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」利用成果シンポジウム

高精度なデータから知る地球大気とオゾン層の今(SMILES)

最終更新日:2013年2月28日

塩谷雅人(京都大学)

国際宇宙ステーション(ISS)に載せたことで高精度・広範囲の「視る」を実現

超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(Superconducting Submillimeter-Wave Limb-Emission Sounder、略してSMILES(スマイルズ))は、宇宙にありながら地球の大気を視る目。JAXAとNICT(情報通信研究機構)の共同プロジェクトで、2009年10月から半年間観測を行いました。今回はオゾンに関する重要な成果の紹介です。

現在、世界中の大気研究者はオゾン層がいつ回復するのか、オゾン量の将来予測をしています。実は、オゾンを破壊する物質が現在オゾン層にどれだけ存在し、将来どう変化をするのかについては研究者間でも情報が十分でなく、予測がばらばらの状況です。しかも、オゾン破壊物質、例えば塩素(オゾン破壊の原因物質として有名なフロンから出てくる)の量は非常に微量(大気中の分子10億個中になんと3個)なため、観測がとても難しく、高精度で地球規模の観測による情報が望まれていました。

SMILESはオゾンの存在に影響する塩素と臭素系の成分に関して、世界最高精度で、かつ、それまでの観測よりも広範囲に地球規模の分布を描きだしました。SMILESには世界で初めて電気を使って冷やす冷凍機を載せ、計測機器を絶対温度4度(約-269℃)に冷やす工夫をしたのです 。温度が高いと、ノイズと呼ばれる余計な電気信号が出て、微量な成分から来る弱いサブミリ波の測定を邪魔してしまいます。これまでの衛星の場合は冷却剤を搭載したのですが、搭載できる量に限りがあります。

SMILESの冷凍機は、電気さえあれば冷やし続けられる仕組みです。ISSには大型太陽電池パネルがあり、電気を使いつづけることがきるため、電気で受信機を冷やす冷凍機を載せました。今回のミッションはその技術を実証する役目もありました。その結果、他の衛星に搭載された観測機器をはるかに上回る精度での測定が実現できました。

さらに、「視点」にも技術の工夫がありました。地上400kmの「きぼう」から雲の上の20km~80kmの地球大気の縁(リム)を斜めに透かすように視る際に、鉛直方向に地球から上方へ高度2-3kmごとに観測しました。その結果、大規模な大気の循環とオゾン量の関係が視覚的に裏付けられました。この他にも、一般に衛星による大気の観測では正午なら正午といった一日の決まった時間にしか観測していなかったところ、ISSは周回している間に同じ地点を通過しても時間が少しずつずれるため、一日の中での時間的変化も捉えることができました。

こういった観測が威力を発揮したのは、2010年1月の下旬、数日の間に北極点の気温が30度も高くなった成層圏突然昇温現象の時です。SMILESがとらえた時間ごとの北半球のオゾン濃度をコマ送りしていくと、増えたり減ったりするのか良く分かります。これにオゾンが減る時に増える一酸化塩素、一酸化塩素に塩素を奪われ減っていく塩化水素のデータも合わせてみると、3つの濃度の間に時間ごとのきれいな対応関係が見て取れます。数日間の出来事でしたが、グローバルな大気の構造とオゾンの変動を見事に捉えることができました。南極においてオゾンホールが生まれることは分かっていましたが、SMILESによって北半球でも南半球オゾンホールと同様なメカニズムでオゾン破壊が起こっていることを詳細なデータによって明らかにしたのです。

ミッションの終了とデータの公開

SMILESは2009年9月に観測を開始しましたが、半年後に故障が生じ、その後冷凍機も止まってしまいました。そして2011年1月にミッションの終了を宣言しました。半年の観測だったとはいえ、プロジェクトで開発した技術で実際に目的とした観測が出来たことに加え、北半球でも南半球オゾンホールと同様なメカニズムでオゾン破壊が起こっていることを明らかに出来たことは予想を上回る成果でした。

また、SMILES で得られたデータは精度が高いため、他の人も利用出来るよう2012年3月5日に公開しました。(SMILESデータ公開サイト

囲み記事例<発表者から一言>

塩谷雅人さんとSMILES(SMILESの代表研究者。専門は大気科学

SMILESのプロジェクトには1990年代後半の開発の初期から大気科学者として係わっていて、当時は科学研究の要望を取りまとめる役を担当していました。2006年からはSMILESの代表研究者としてプロジェクトに係わっています。

ISSを利用する一番の利点は、衛星に載せる測器に比べて電気の供給や重さについてそれほど心配しないですむことです。そのことでこれまでやられたことのない挑戦的な観測をすることが出来ました。将来このような機会があれば又やってみたいと思います。その一方で、ISSでは同時進行で他にも多くのミッションがあり、譲り合わなければならないことも沢山あるため、他のプロジェクトにはない困難もあります。こういった長所と短所は表裏一体かもしれません。他の分野も利用する「実験室」として作られた場だからこそ、自分達にはない発想に触れる良い機会にもなりました。

シンポジウムの感想

シンポジウムに参加された会場の皆さんがかなり専門的なことをご存知でマニアックな質問があったことに驚きました。立場の違う異なる視点を持つ方の前で話すのは、学会発表よりもある意味緊張し、刺激を受けました。それなりにかみ砕いた資料を準備してきたつもりでしたが、専門的過ぎたでしょうか。こういう経験が出来たのはありがたかったです。

各講演の詳細

シンポジウム内容の要約
日本の実験棟「きぼう」とは?
上垣内茂樹(JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部)
X線で見るダイナミックな宇宙(MAXI)
上野史郎(宇宙科学研究所)
高精度なデータから知る地球大気とオゾン層の今(SMILES)
塩谷雅人(京都大学)
上空400キロメートルの苛酷な環境を知る、宇宙の百葉箱(SEDA)
古賀清一(JAXA研究開発本部)
 
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