このページは、過去に公開された情報のアーカイブページです。
<免責事項> リンク切れや古い情報が含まれている可能性があります。また、現在のWebブラウザーでは⼀部が機能しない可能性があります。
最新情報については、https://humans-in-space.jaxa.jp/ のページをご覧ください。
上野史郎(宇宙科学研究所)
MAXIとは全天X線監視装置(Monitor of All-sky X-ray Image)の略で、巨大なX線デジタルカメラです。X線カメラと言うと、よく病院のレントゲン写真と同じようにマキシが宇宙にX線を出して観測しているのかと思われがちですが、実際はマキシがX線を発するのではなく、天体から発せられて宇宙に飛び交うX線をカメラでとらえているのです。
不思議に思えるかもしれませんが、X線はレントゲン写真のように人体は通過できるのに、大気を突き抜けるのは難しいのです。つまり、MAXIは大気の上で初めて実力を発揮できるというわけです。天体からやってくる光やX線を待つ天体観測サイエンスの手法は、地上実験室サイエンスの手法とは違った特徴があります。身近な例でいうと、スイカに中身がつまっているかを知るのに、表面をたたいて調べることがありますね。このたたいた(刺激)ときに返ってくる音(反応、変化)の違いで調べるのが実験室サイエンスの方法です。しかし、天文学では天体は遠すぎたり大きすぎたりで、人間が刺激を与えて変化を引き起こすことが出来ません。そこで天体からの光をとらえて観測を行ってきたわけです。
面白いことに例外もあって、NASAは彗星の中身を調べるのにスイカよろしく、テンペル1という彗星に370kgもある弾丸を撃って(たたいて)光や赤外線の変化(反応)を望遠鏡を使って視たこともありました(ディープインパクト計画)。しかし、これは天文学としては例外です。
X線を出す天体として研究者が競争で探しているのが、ブラックホール候補の天体です。MAXI打ち上げ後に世界で見つけられた8個の候補の内、MAXIは4つの発見に貢献しており、世界1位タイ。競争はかなり「いい線」いってます。ちなみに発見された天体には「MAXI J11659-152」などMAXIの名前がつけられています。
X線天体を「視る」工夫の鍵は、その名前にある「全天」(空のあらゆる方向)。ISSが90分で地球を一周、機体が360度回転するので、MAXIは90分に一回ほぼすべての方向をレーダーのように監視できるのです。通常のX線天文衛星では、望遠鏡を用いますが、視野が満月位の大きさしかなく、全天を覆うのに20万個分が必要となります。望遠鏡を搭載した衛星は特定の場所にある天体をじっと視ることで、ハイクオリティなデータを得ることができます。一方、望遠鏡を用いないMAXIは広い視野を持つことで、一カ所一カ所のデータの質は少し低いけれども、天体がいつどこで出すか分からないX線をキャッチ出来るのです。
このようなことから、MAXIでは新天体を他の研究者に報告する役目も担っています。データは理化学研究所のWEBサイトで一般公開されています(MAXIにはJAXA、理化学研究所、大阪大学、東京工業大学、青山学院大学、日本大学、京都大学、中央大学、宮崎大学が参加しています)。
MAXIは巨大ブラックホールに星が吸い込まれる瞬間を世界で初めてとらえました。星が吸い込まれる時に噴出されたと考えられるジェットからのX線を観測したのです。ジェット噴出がなぜどのように起きるかは研究者もまだ十分に解明できていない現象であり、MAXIの大きな成果の一つとなりました。
また、中央大学の学生さんがMAXIのデータを調べて、星の研究に重要なおまけをもたらした。普通の星からのX線、その存在は知られていたものの強度が弱いため、感度の低いMAXIでの成果はあまり期待されていませんでした。ところが、データを詳しく目で調べてみたところ、13の普通の星から2年にわたって23回もの明るいX線をとらえていたことが分かり、ちょうどその結果を論文として発表したところです。
MAXIは少なくとも今後3年間、観測を継続します。MAXIチームから派生したグループでは、その先もみすえ、MAXIや他の天文衛星では狙えなかった新しい研究分野(数秒から数十秒の間だけ大量の軟X線を出す現象の研究)を開拓するために、より広い視野で感度を上げたWide-Fieldワイルドフィールド MAXI(Wide-Field、意味は広い視野)計画を立ち上げています。まだJAXAに正式に認められたプロジェクトではありませんが、研究者レベルで推進中です。
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency | SNS運用方針 | サイトポリシー・利用規約 |