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宇宙実験サクッと解説:植物はどうやって重力を感じるの?編


宇宙実験調査団のピカルがPlant Gravity Sensing実験を大調査!
実験提案者の辰巳先生とも仲良しの物知りハカセに聞きました。

物知りハカセ

ピカル

ピカル:

ハカセ、こんにちは。今回も植物の実験が行われるようですけど、今度の実験は今までのとどこが違うのですか?確か、今までは、植物の体を丈夫にする仕組みや根っこが曲がる仕組みを調べていたと思うのですが。

ハカセ:

ほほう。ピカルはよく覚えておるな。

ピカル:

はい。だって、宇宙実験っていつも面白いことを調べているので、すぐに頭に入るんですよ。

ハカセ:

そうかそうか、そう言ってもらえると、わしもやりがいがあるというものじゃ。ピカル、地球上だと、植物の根は下に向かって伸びて、茎は上に向かって成長していくことは当たり前じゃが、どうしてそうなるか考えたことがあるかね?

ピカル:

はい、植物は光合成のために太陽光をたくさん浴びたいから、重力に逆らって上に伸び、根っこは水や養分を吸収するために重力方向である下に向かって伸びるんですよね。

ハカセ:

そうじゃな。これを重力屈性というんじゃが、どのような仕組みで重力を感じるのかは知っておるかな?

ピカル:

ええっと・・確か、Hydro Tropi実験の時に、根っこの先端の細胞にアミロプラストというデンプンの塊があって、それが重くて細胞の下のほうに沈むので、それをきっかけにして、根っこは上下が分かる、と教えてもらいました。あと、Resist Tubule実験の時に、茎が重力を感じるのに、メカノレセプターというものが関係していることもお聞きしました。確か、植物の細胞膜が、重力のあるなしで変形するのを感じるセンサーっていうお話でした。

ハカセ:

さすが、しっかり復習もできておるな。今回の実験では、植物が重力を感じる一連の仕組みを分子レベルで詳しく調べるつもりじゃ。まず、植物の茎には、根っこと同じように、アミロプラストというデンプンの粒子を細胞の内部に多数もつ細胞がある。このアミロプラストは重い粒(比重の大きい粒子)なので、重力によって下方向に落下するわけじゃ。ここまではいいかのう?

ピカル:

はい、バッチリです。

ハカセ:

では次に、この仮説の図をみてもらいたい。細胞内の下のほうに落っこちてきたアミロプラストが、細胞内に張り巡らされているアクチン線維にぶつかって張力を発生する。アクチン線維が、アミロプラストの重みでたわむわけじゃな。そうすると、アクチン線維は細胞膜につながっておるから、細胞膜に存在する機械受容イオンチャネルが開き、カルシウムが細胞内に流入し、細胞は重力がかかったことを電位差で理解すると考えておるのじゃ。

図1.植物細胞の重力受容の仮説
植物個体の茎(a)の内部の内皮細胞(b)には、重力により沈降するアミロプラスト(デンプンの粒)が存在する(c)。このアミロプラストは重力により沈降するとアクチン線維に沿って力をチャネルに伝えることによりイオンチャネルを活性化する。この複雑な重力受容装置が働くことにより重力刺激によって細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が起きる。Mca1はSACの一種である。(a), (b), (c) : Morita and Tasaka. 2004 Current Opinion in Plant Biology, (d): Perbal and Driss-Ecole. 2003 TRENDS in Plant Science, を改変

ピカル:

ハカセ、ちょっと待ってください。機械受容イオンチャネルとはなんですか?

ハカセ:

イオンチャネルとは細胞膜にあるイオンを通す穴のことで、タンパク質でできておるんじゃが、これが周りの環境によって、開いたり閉じたりするのじゃよ。そして、開くとたくさんのイオンがこの穴を通って、細胞の外から内へ移動する。今回着目しておるMca1というイオンチャネル(候補分子)は、機械的刺激、特に重力の変化で、開いたり閉じたりする機械受容イオンチャネルの一種なのじゃ。

ピカル:

へえ〜!植物ってすごいなあ!

ハカセ:

ちょっと脱線するが、ピカルはどっちが上か下かすぐ分かるじゃろ?つまり、ヒトは重力を感じておる。ヒトは耳の中に耳石というカルシウムでできた小さい石を持っておって、石が水の中で下に沈むように、その耳石も重力の方向すなわち下向きに落ちて行こうとする。でも、耳石は実際には有毛細胞に支えられているので、その細胞に重しがかかることになるのじゃ。

ピカル:

有毛細胞はどうやって、押されていることを感じるのですか?

ハカセ:

そこがポイントなのじゃ。耳石はとても小さいので細胞を押す力もとても小さいと考えられておる。なので、細胞はこの小さい力を感じ取るためにイオンチャネルを利用しておる。すなわち、押された刺激でチャネルが開閉し、細胞内のイオン濃度が変化するわけじゃ。ところで、ピカルは、今実験中の曽我部先生のCell Mechanosensing実験は覚えておるかな。Cell Mechanosensingは、動物細胞が持っている重力を感じる仕組み、重力のセンサーを詳しく調べる研究じゃが、Plant Gravity Sensingの辰巳先生は、植物細胞が重力を感じる仕組み、重力のセンサーを植物で調べてみようという実験じゃ。実は、辰巳先生と曽我部先生は同じ研究室でそれぞれ、植物細胞と動物細胞で重力を感じるセンサーを調べているんじゃよ。

ピカル:

同じ研究室で、植物と動物に共通する重力センサーを調べられるわけですね!

ハカセ:

で、今回の実験は、上の図のような一連の重力センサーが重力を感じたのを光の数でみてみようという実験なのじゃ。

ピカル:

えーっ、どっどういうこと?植物って、重力を感じると光を出すんですか?!

ハカセ:

実はな、重力を感じると細胞内のカルシウム濃度が上昇することを利用して、カルシウムイオン濃度が上昇すると細胞が光るように遺伝子工学的に操作した植物を使って実験するのじゃ。

ピカル:

そこが、この実験のミソですね。

ハカセ:

重力のない宇宙で育った植物が、図のような一連の重力センサーを作ることができるかは分かっておらん。そこで宇宙で種から植物を育てて、遠心回転装置で植物を回転させて重力を作用させて植物の応答を調べるわけじゃ。光れば、植物は重力の向きや大きさの情報を知らなくても、重力感知する仕組みを作る能力を備えていることがわかる。もし重力をかけても光らなければ、植物が重力感知できる細胞を作るには、重力の向きや大きさの情報が必要であることがわかるという寸法じゃ。
また、宇宙で育てた植物を持ち帰ってきて、重力センサーを構成すると考えられる機械刺激受容イオンチャネルの候補分子であるMca1の細胞での分布や量を分析する予定じゃ。

ピカル:

ハカセ、面白そうですね。でも、宇宙で植物が重力を感じる仕組みが作られるかどうかを調べると、どんなことの役に立ちますか?

ハカセ:

人間が宇宙を遠くまで旅する時には、植物を育てつつ旅することを考えなければならないじゃろう。そのとき、重力がない状態がどのように植物に作用するかは知っておくべき大切な問題じゃ。
また、先ほどの耳石の例にもあるように、植物で解き明かされた重力を感じる仕組みを動物細胞も使っている可能性は十分ある。じゃから、植物の研究から、逆に、無重力で引き起こされる宇宙でのヒトを含む動物における問題解決策が見つけられるかもしれんのじゃ。

ピカル:

なるほど、確かにそうですね。実験の結果が楽しみです。ハカセ、今日はどうもありがとうございました。


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