ピカル：

ハカセ、こんにちは。今度のResist Tubule実験は、植物が重力を感じて、重力に打ち勝って成長するために体を丈夫にしていく仕組みを詳しく調べる、と聞きました。

ハカセ：

そうじゃな。まさに、この実験の本質を言い当てておる。植物はなんで重力に逆らって、上に向かって伸びるか分かるかの？

ピカル：

光合成のために、太陽光をたくさん浴びたいからですか？

ハカセ：

正解じゃ。しかし、上に伸びるほど、丈夫な茎をもたないと倒れてしまうじゃろう。植物は細胞壁で体を支えておるから、丈夫な細胞壁が必要なわけじゃ。重力に抵抗するために、植物は進化の過程で丈夫な細胞壁を作ってきたわけじゃな。

ピカル：

ぐんぐん伸びる庭の雑草も、長い進化の産物なんですね。

ハカセ：

そういうことじゃ。植物がどうやって重力を感じておるか、知っておるかね？

ピカル：

えーっと、アミロプラストというデンプンの塊が関係してるんじゃなかったでしたっけ？

ハカセ：

根っこの曲がり（重力屈性）なんかについては、そのとおりじゃな。しかし、重力を感じ、重力に抵抗して強い細胞壁を作る、という反応（抗重力反応）には、メカノレセプターというものが関係しておるんじゃ。

ピカル：

メカノレセプター？

ハカセ：

簡単に言うと、重力によって細胞膜が変形するのを感じるタンパク質のことじゃ。その刺激によって、細胞膜をイオンが出たり入ったりする活性が変わるんじゃよ。

ピカル：

細胞って複雑なんですねえ。

ハカセ：

こんなことで驚くのはまだ早いぞ。このメカノレセプターが重力を感じ、それが細胞壁の強化につながるまでにはたくさんの細胞成分や分子が関わっておるようなんじゃ。その一つが、微小管じゃ。

ピカル：

微小管って、小さな管ですか？

ハカセ：

うむ、直径25nm（ナノメートル：1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1）くらいの管じゃから、微小ではあるな。この微小管は、細胞壁の構造を細胞膜の内側から支える役割をもつんじゃが、微小管の並んでおる向きによって、細胞が伸びる方向も変わるんじゃよ。

ピカル：

この図の場合、細胞が上下方向に大きくなるってことですね。このようにたくさん並んだ微小管自体が細胞壁を強くしているんですか？

ハカセ：

実はそうではないんじゃ。微小管と関係の深いセルロースという細胞壁中の繊維が細胞壁を強くしておる。奥が深いのう。

ピカル：

あ、セルロースって知ってます。姉のキラリが腸のお掃除に必要な食物繊維なんだってこないだ力説してました。それで、微小管とセルロースがどういう関係なんですか？

ハカセ：

微小管の並んでおる向きとセルロースの合成が行われる向きはおんなじなんじゃ。セルロースは丈夫な繊維なんで、これによって細胞壁が強化され、しっかりした茎が上に伸びていけるわけじゃな。

ピカル：

ハカセ、なんだか重力との関係が分からなくなったんですが、重力がないとどうなるんですか？

ハカセ：

それこそ、宇宙で調べたいことじゃよ。では逆にピカルに質問じゃ。重力を過剰にかけてやると（過重力）、植物細胞はどうなると思うかね？

ピカル：

うーん、重力のせいでつぶれちゃいますか？

ハカセ：

今度はハズレじゃ。そんな簡単につぶれたりはせん。シロイヌナズナに過重力をかけると、微小管の向きが変わって、茎はメタボな体型になるんじゃが、メカノレセプターや微小管を構成するタンパク質を一部働けなくしてやると、過重力をかけてもこのような変化がうまく起きなくなるのじゃ。面白いじゃろう。

ピカル：

へえ〜。つまり、メカノレセプターが重力の大きさを感じて、それが微小管の向きを変えて、セルロースの合成の方向が変わって、細胞が横向きに大きくなるってことですか！

ハカセ：

そうじゃ。なぜ過重力をかけるとメタボになるのかは、植物に聞かんと分からんが、そうやって重力に耐えておるんじゃろうね。

ピカル：

なるほど・・・。抗重力反応のカギは微小管を構成するタンパク質にありそうですね。宇宙では、微小管の数とか向きを調べるんですか？

ハカセ：

そうじゃな、微小管を光らせてリアルタイムで観察することを考えておる。

ピカル：

へえ〜！それは面白そうですね！

ハカセ：

もうひとつ、微小管の働きが少しずつ違う突然変異体を準備して、それぞれが宇宙でどういう挙動を示すかを詳しく調べる予定なんじゃ。

ピカル：

そうすると、微小管の抗重力反応における役割をきちんと調べられるわけですね。

ハカセ：

さすがピカル、よう分かっておる。今回の実験で、植物が重力を感じて、伝えて、反応する、その過程がついに分かるのではないかと期待しておる。

ピカル：

ハカセ、今日はどうもありがとうございました！