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宇宙実験調査団のピカルがHydro Tropi実験を大調査!

実験提案者の高橋秀幸先生とも
仲良しの物知りハカセに聞きました。

ピカル:

ハカセ、お久しぶりです。

ハカセ:

おお、久しぶりじゃの。 今日はHydro Tropiの調査じゃな?

ピカル:

はい、そうなんです。 最近、植物の実験が続いていますね。 今回は、根っこが水分のある方に曲がることを証明する実験って聞きましたけど、植物は水がないと育たないし、水分のある方向に伸びるのは当然なような気がするんですが・・・。

ハカセ:

うむ、確かに、当然なような気はするのう。 実際、土に植えた植物は、水分のある土の下の方にどんどん根を伸ばしていく。 しかし、実は根っこは重力屈性(注)といって、重力のある方向、つまり下の方に伸びる性質があるんじゃ。
注:正の屈地性ともいう


陸上植物の茎や根は、重力、光、水などの環境刺激に応答して屈性を発現させ、伸びる方向を決める。

ピカル:

え〜! ということは、水分の方向に伸びているというよりも、重力の方向に伸びているんですね!

ハカセ:

そうじゃな。 根っこの先端には、根冠という部分があって、その部分の細胞に含まれる重いデンプンの塊が重力によって、細胞の中で、下に沈む。 それをきっかけにして、根っこは「こっちが下じゃ!」とわかって、そちらに伸びていくんじゃよ。

ピカル:

そういえば、根っこは横向きに置くとやっぱり下の方に90度曲がって成長しますよね。 これもそのデンプンの塊のせいですか?

ハカセ:

そのとおりじゃ。 実際に沈むのは、そのデンプンの塊の詰まった色素体である「アミロプラスト」なんじゃがね。 実は高橋先生らは、重力に応答しないエンドウ豆を使って、根っこがどうなるかを調べてみた。 そのエンドウ豆は、アミロプラストは沈むんじゃが、何かの理由で重力を感じることができなくなった突然変異体だったんじゃ。 それで、その突然変異体を使って実験してみたところ、空気中の湿度を土の中と同じように高くすると、湿気の多い空気中に根っこが飛び出してきたんじゃ。 ところが、空気中の湿度を少し低くすると、土の中から飛び出した根がすぐに湿度のより高い土の中に戻っていったんじゃよ。 それで、根っこは水分のある方向に曲がるということが初めて証明されたんじゃ。 自然界では、水は重力によって、植木鉢などの下の方にたまるじゃろう? じゃから、根っこが下に伸びても、それが重力によるものか水分によるものかが区別しにくい。 しかも、実際は重力に対する反応の方が強いので、水分に対する反応(水分屈性)はほとんど見逃されておったわけじゃな。


重力屈性を欠損したエンドウの突然変異体の根は、湿度飽和状態ではバラバラに伸びて土から飛び出る

ピカル:

へえ〜! たしかに、重力による反応と水分による反応を分けるのはむずかしいですね。 ハカセ、根っこが水分を感じる仕組みはどうなってるんですか?

ハカセ:

うむ、非常に鋭い質問じゃ。 仕組みはまだ詳しくはわかっておらん。

ピカル:

まさに最先端ってことですね。

ハカセ:

そうじゃ。 しかし、「オーキシン」という植物ホルモンが関与しておるらしいということが分かってきた。 どうも、根っこの中のオーキシンの量が場所によって異なっており、水分の多い側に多く分布しているようなんじゃ。 その結果として根っこが水分の多い側に曲がるのではないかと、高橋先生たちは考えておる。

ピカル:

ハカセ、水分屈性による根っこの曲がりにオーキシンが関係してるとすると、重力屈性による根っこの曲がりにおいてもオーキシンは関係してるんですか?

ハカセ:

さすがはピカルじゃな。 そう、オーキシンは重力屈性にも関与しておる。 根っこでは、一定以上の量のオーキシンは細胞の伸びを抑える作用を持つんじゃ。 つまり、根っこを横に置いたとき、重力によって90度曲がるわけじゃが、まずはアミロプラストが沈むことで重力の方向がわかる。 その後、曲がる部分の内側のオーキシン量が外側より多くなり、内側の細胞は伸びず、外側の細胞がぐーんと伸びる。そのせいで根っこが曲がるわけじゃな。 水分屈性についても同じで、水分の多い側にオーキシンが多くなり、その側の細胞は伸びず、水分の少ない側の細胞がのびて、結果として水分の多い方に曲がるという、そういうことではないかと考えておる。

ピカル:

へえ〜。 植物の根っこが曲がることに、そんな複雑なプロセスがあるとは知りませんでした。

ハカセ:

いや、まだまだ、わかっておらんことはたくさんある。 今回の実験では、重力がないところで、本当に根っこが水分の多い側に曲がるのか、そしてその時のオーキシンの分布がどうなっているかに集中し、しっかりと水分屈性の証拠を押さえることが目的じゃな。 オーキシンの偏りに関係するタンパク質もあってな、それについては次の実験「CsPINs」で詳しく調べる予定じゃ。

ピカル:

ほんとに、奥が深いですね。
ところで今回は、高橋先生たちが行った前回の宇宙実験と同様に、キュウリを使うと聞きました。 これまでの宇宙実験では、植物の研究者はみんなぺんぺん草を使っていましたよね。 ぺんぺん草は宇宙実験に最適と聞いていたけど、なぜ今回はキュウリなんですか?

ハカセ:

うむ、それも考えたんじゃが、シロイヌナズナ(ぺんぺん草の一種)は根っこが細すぎて、曲がった形のままで地球に持ち帰ることが難しいんじゃ。 どっちに曲がっておるかも分かりにくいじゃろうしな。 わしもそろそろ、老眼だしのう。 キュウリは、地上では重力屈性が非常に強く、水分屈性の存在がほとんどわからないくらいなんじゃ。 そこで、そのキュウリを使って、重力のない宇宙で、水分屈性に対する重力の影響と水分屈性の仕組みをきちんと明らかにしようというわけじゃな。

ピカル:

なるほど、納得です。 水分屈性の仕組みがわかると、植物の育て方にも応用できそうですね。

ハカセ:

そうじゃな。 根っこが効率よく水を探し当てて、「みずみずしく」育つしくみがわかれば、地球上や宇宙でも、より上手に植物を育てることができるようになる。 楽しみな実験じゃ。

ピカル:

ハカセ、今日はどうもありがとうございました!


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