先生は環境微生物学がご専門ですが、なかでも水環境中の細菌に興味をお持ちのようですね。
「身近な例から話を始めたいんですが、欧州から輸入されるナチュラルミネラルウォーターには細菌が何個くらい入っていると思いますか?
あれ、無菌じゃないんですよ。
1ccに約1万個。
500mlのペットボトルだったら、およそ500万個の細菌がいることになります。
というのも、欧州では、ナチュラルミネラルウォーターの加工を一切認めていないんです。
ただ地下水をくみ上げて、ボトル詰めするだけ。
自然の環境には、細菌がいて当たり前なんですね。
じゃあ、どうして僕らが安心して飲めるかというと、それは徹底的な細菌検査が行われていて、安全な細菌しかいないことを確認しているためです」
安全な細菌と危険な細菌があるんですか。
「細菌というと、大腸菌O-157やサルモネラ菌、それに細菌兵器なんかを思い浮かべて、なんとなく怖い感じがするでしょう。
だけど、世の中にある細菌のほとんどは悪いことをしないんです。
その証拠に、ミネラルウォーターと一緒に500万個の細菌を飲み込んでも、僕らの体はどうってことないでしょう。
悪いことをしないどころか、人間のためにいいことをしてくれる細菌もいます。
納豆を作るバチラス・ナットウとかね」
日本でも、半世紀くらい前までは普通に井戸水を使っていましたよね。
当時の水には危険な細菌はいなかったんでしょうか。
「今の日本では、赤痢という言葉を知らない方のほうが多いかもしれませんが、第二次大戦後、昭和30年くらいまでは、たくさんの子どもが赤痢にかかって命を落としました。
それが今やほとんど聞かなくなりましたね。
なぜでしょう。
水道が普及したこと、そして井戸水などの、水の検査を徹底したからです。
きちんとした上水道のシステムが整ったことで、この病気を克服できたということです。
ただ、残念なことに、世界に目を向けると、まだ毎年100万人以上が赤痢で亡くなっていると見積もられています。
水の問題に取り組むことは、昔も、今も、そしてこれからも大きな課題であり続けるでしょうね」
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