高橋先生が提案された宇宙実験は、実は今回のHydro Tropiが2回目で、1998年にもキュウリの芽生え実験を行っているそうですね。
「98年10月から11月にかけてスペースシャトル(STS-95ミッション)で実験したのが最初です。
あの時は、向井千秋さんが実験を担当してくださいました」
今回の実験は98年の実験を発展させたものなのでしょうか。
「ええ、ある意味で発展形ともいえますね。
ここでちょっとキュウリの芽生えについて説明させて頂きますと、キュウリを含むウリ科植物は、種から芽が出てまもなく、『ペグ』と呼ばれる突起状の組織をつくります。
ウリ科植物の種は『硬実種子』と言いまして、皮が硬く水分を吸っても破れません。
そのためキュウリは、ペグで下側の種皮を押さえつつ上側に胚軸(注)を伸ばして、スルリと皮から抜け出すんです。
言ってみれば、テコの原理を利用しているわけです」
(注)胚軸:種子植物の幼植物で、子葉と根との間の部分。
うまくできているんですね。
「面白いことに、どの面を上にして種を播いても、根は必ず下に向かって伸び、ペグは必ず横になった胚軸の基部の下側に形成されます。
胚軸の上側にもペグを形成する能力はあるのですが、例外なく下側にできます。
下側でないと、テコの原理が使えませんから。
98年の実験テーマは、宇宙で重力が取り払われたら、ペグはできるだろうか、できないだろうか。
できるとしたら上下どちら側にできるだろうか、ということでした」
実際は、できたんですか。
「はい。
面白いことに、両側にひとつずつできたんです。
そこで疑問に思ったのは、地上ではどういうメカニズムでひとつに絞られるのか、ということでした。
その後、この問題についてさらに研究をすすめ、ペグ形成には植物ホルモンの『オーキシン』という物質が関わっていることを突き止めました。
オーキシンとそれを支配するタンパク質については、Hydro Tropiの後に実施するCsPINsという実験で詳しく調べる予定なんですが、この98年の実験では、ほかにも予想外の発見がありました」
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