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スペシャルインタビュー vol.3


クルートレーニングに立ち会う大西先生(右)、谷田貝先生(左)

今は、宇宙放射線の学問のドアを開きつつある状態。計り知れないほど不思議な科学がドアの向こうにある。

放射線というのは、やはり怖いものなのでしょうか。

「そもそも地球には宇宙からの放射線がたくさん降り注いでいます。 それに、少なくとも医学は、それなくしては成り立たないくらいの恩恵を放射線から受けています。 『骨が折れているかな』、『捻挫しているかな』、確かめるためには放射線がいります。 『虫歯がどれくらい進んでいるかな』、これもやはり放射線がいります。 結核とか胃がんなどの内臓の病気も、放射線なくしては診断がつきません。 それくらい我々は、日頃から放射線に囲まれて暮らしているのです。 だからといって、それですぐにがんになるわけではない。 それはなぜか。 長年にわたって自然界の放射線とつきあってきた結果、我々の体には、放射線による傷を治してがん化を未然に防ぐがん抑制遺伝子が備わっているからです。 怖いものを正しく怖がる、というのは非常に難しいことですが、人類の英知の一つである放射線を上手に使うことが、我々の健康と生命にとって非常に大切であると思っています」

放射線に対するがん抑制遺伝子の働きが解明されれば、地上でもいろいろな応用ができそうですね。

「今回の実験の狙いは、一つには、どのような種類の放射線をどの程度ブロックすれば遺伝子の突然変異を防げるか、さらに言えば、次の世代に遺伝病をつくらずにすむか、ということになるかと思います。 医療分野では、現在、さまざまな放射線の応用の取り組みがなされています。 我々が扱う宇宙放射線には、現在、がん治療で注目されている重粒子線も含まれます。 そのような放射線が生物に与える影響を調べれば、重粒子線ががん治療にとっていかに有効かを示すデータが出てくるものと期待しています」

放射線の知識すべてを100とすると、現在はどの程度までわかっているのでしょうか。

「100という限度があること自体がわかっていませんね。 第1回目のノーベル賞受賞者のレントゲンは、自分が発見した放射線に『X線』という名前をつけました。 謎の放射線と考えたわけです。 それ以降、X線診断や治療は我々の生活に深く浸透し、なくてはならないものになりました。 当時、レントゲンは100年後の我々がこのような使い方をするとは考えもしなかったでしょう。 先が無限大であるということ、これこそノーベル賞受賞の理由だったと思います。 先ほどの質問に戻ると、100のうちのいくつか、ではなく、現在わかっている知識を無限大にすることが科学であると思っています。 一人の学者が一つのことを研究し、何かを発見したとする。 それは学問の終わりではなく、小さな力で学問のドアを開けたにすぎない。 計り知れないほど不思議で、人類の発展になくてはならない科学がドアの向こうにある、と我々は考えます。 今は宇宙放射線の学問のドアをわずかに開きつつある状態で、これから無限大へと発展させたいと思っています」

一般の方々に向けて、特にアピールしたいことはありますか。

「自分が研究している現象は、決して限られた条件の限られた人だけのものではありません。 そうではなく、普遍的で、すべての人々の体の中で起こっていることなんです。 放射線にあたったことで、ヒトは自分の身を自分で守るために、こういう能力を進化の過程で獲得してきた。 だからこそ、今日まで人類は生きつづけてこられたんじゃないか、ということを証明したいと思っています」



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