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宇宙で宇宙飛行士の体の筋肉はなぜ衰えてしまうのか。 これまでにも様々な動物を使った実験が行われてきました。 1998年に打ち上げられたスペースシャトルで約16日間飛行したラットを調べたところ、その筋肉は萎縮していました。 さらに筋肉の中のタンパク質を詳しく調べたところ、Cbl-b(シーブルビー)というタンパク質の量が地上の約10倍に増えていることがわかったのです(図1)。



このCbl-bはユニークな働きをする酵素です。 簡単に言えば、分解しようとするタンパク質に「目印をつける」働きをするのです。 目印となる「ユビキチン」という物質をつけることを「ユビキチン化する」と言います。 ユビキチン化されたタンパク質は、ある酵素の目標にされて分解されてしまいます。 つまり、ユビキチン化は不要になったタンパク質を除去するためのひとつのステップであり、筋肉にあるタンパク質も微小重力の宇宙では「不要」と判断されたのかもしれません。



そこで、生きたラットを使って地上で実験してみました。 ラットの後ろ足をつり下げて宇宙の微小重力環境のように負荷がかからない状態にして調べてみたところ、やはり筋肉が萎縮し、Cbl-bの量も増えていました。



なぜ、Cbl-bは増えているのでしょうか? 何を不要と判断したのでしょうか?



従来は、地上でも病気などで寝たままの状態でいる方の筋肉が萎縮するのは、筋肉を構成するタンパク質をユビキチン化して分解してしまうからだと考えられていました。 二川健先生たちは、それに加えて、これまで知られていなかった新たなメカニズムも関係していることを証明しようとしています(図2)。

図1 宇宙飛行ラット筋肉のマイクロアレイ解析
宇宙飛行したラットの筋肉を調べたところ、細胞の骨格に関係する遺伝子の発現は減り、タンパク質のユビキチン化や分解に関係する遺伝子の発現は増えていることがわかった。
赤字:細胞骨格遺伝子
青字:ユビキチン-プロテアゾーム関連遺伝子
緑字:ミトコンドリアタンパク質の遺伝子


図2 従来の筋萎縮のメカニズム(左)と新規メカニズム(右)
外から筋肉を増やそうとする信号(増殖因子)が入ってきても、その信号を伝えるいくつかのタンパク質のいずれかをCbl-bがユビキチン化してしまうために分解されて、信号が伝わらず、結果的に筋肉が萎縮してしまうことを証明しようとしている。

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