Ferulate実験の内容を簡単に教えていただけますか。
「植物には細胞壁と呼ばれる独特の構造体があります。
これは、植物が自らの形(体)を保つために必須の構造体であり、海から陸に進出する過程で、重力に対抗するために発達したと考えられています。 細胞壁を発達させることで、今まで必死に重力に適応してきた植物が、いきなり宇宙に持って行かれて重力を取り払われたら、一体どうなってしまうでしょうか。
植物の体のなかではものすごい変化が起こるはずです。
そうした変化を、単子葉イネ科植物のイネを使って明らかにしたいと思っています」
なぜイネを使うのですか。
「イネは日本を代表する穀物ですからね、せっかく日本の実験棟『きぼう』でやるならイネを使いたいという気持ちがありました。
もちろん、試料としてみてもイネは十分に宇宙実験向きなんです。
まず、トウモロコシやコムギなど他の単子葉植物に比べると、イネの芽生えはサイズが小さいため、限られたスペースでも実験ができます。
また、全ゲノムが解読されていますので、遺伝子レベルでの解析が可能という点も大きいですね」
実験結果はある程度予測されているのでしょうか。
「残念ながら、地上では長時間にわたって微小重力環境をつくることはできません。
しかし、植物を遠心分離機に入れて育てることで、1Gより大きな重力をかけることが可能です。
過重力環境でイネを生育させると、細胞壁内に存在するフェルラ酸やジフェルラ酸という成分が増えることがわかりました。
これらの成分には細胞壁を丈夫にする作用があります。
自分自身の重みを支える必要のない宇宙では、逆にフェルラ酸やジフェルラ酸が減少し、細胞壁は弱くなると思います」
若林先生は1998年にスペースシャトル(STS-95)で行われた、イネを使った細胞壁の実験にも参加されています。
前回と今回では、実験環境の面でどんな違いをお感じになりますか。
「スペースシャトルと、日本の実験棟『きぼう』ではだいぶ勝手が違います。
きぼうの細胞培養装置には、微小重力の培養室と重力をコントロールできる回転テーブルがついた培養室のふたつが備えつけられています。
テーブルを回転させることによって、テーブル上のサンプルに地上と同じ1Gの遠心力を人工的にかけることができるのです。
こうすることで、同じ宇宙環境にありながらひとつは微小重力、もうひとつは1Gというふたつの条件を設定でき、厳密に重力の影響だけを比較検討していくことができます。
前回のスペースシャトル実験では、宇宙で芽生えさせたイネに変化がみられても、それが宇宙に持って行ったこと自体による影響なのか、微小重力による影響なのかが断定できませんでした。
そういった意味で、今回は植物の細胞壁に対する重力の影響について、より正確なデータが得られるものと期待しています」
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