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日本実験棟「きぼう」では2008年から実験を開始し、科学的成果が見込まれる「生命科学」、「宇宙医学」、「物質・物理科学」の分野において実験テーマの募集を行い、実施してきました。
さらに本年3月、より戦略的・体系的に「きぼう」利用の成果を創出するために、2020年頃までの「きぼう」利用の重点化を図る「きぼう」利用シナリオを策定いたしました。この利用シナリオでは、これまでの「きぼう」利用による知見や国際的な研究動向を踏まえ、上記3つの各研究分野の中でも、特に波及効果の高い成果が期待される領域を、重点的に実施すべき目標領域として設定しました。
平成24年度「きぼう」利用テーマ募集では、従来の「一般募集」(自由な発想に基づく提案募集)に加え、利用シナリオで設定した重点目標領域で設定された研究を推進するため「重点課題募集」区分を新たに設け、平成24年4月から6月にかけて募集いたしました。
今回、重点課題募集区分として、31件の応募提案から、外部委員会等での選考評価を経て、下記の3テーマを候補として選定しました。今後、これらのテーマの代表研究者とJAXAが協力して宇宙実験研究プロジェクトを立ち上げ、実施内容の具体化を進めます。
テーマ名 | 代表研究者 |
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マウスを用いた宇宙環境応答の網羅的評価 (生命科学分野) |
筑波大学生命科学動物資源センター 高橋 智 |
宇宙環境における健康管理に向けた 免疫・腸内環境の統合評価 (宇宙医学分野) |
理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター 大野 博司 |
火災安全性向上に向けた固体材料の燃焼現象に対する重力影響の評価 (物質・物理科学分野) |
北海道大学大学院工学研究院 藤田 修 |
※ 「きぼう」基礎研究分野の利用シナリオについては以下をご覧ください。
※ 平成24年度「きぼう」利用テーマ募集については以下をご覧ください。
※ 一般募集区分につきましては、10月29日に選定結果を公表いたしました。詳細については、以下をご覧ください。
分野 | 生命科学分野 |
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テーマ名 | マウスを用いた宇宙環境応答の網羅的評価 |
代表研究者 | 筑波大学生命科学動物資源センター 高橋智 |
テーマ概要 | 本テーマは軌道上でマウスを90日間長期飼育し、宇宙環境における各臓器の遺伝子発現変化および生殖細胞に対する影響を網羅的に評価する研究提案である。ヒトと同じ哺乳類であるマウスは、遺伝情報がヒトと近く、かつヒトの病気に似た症状を示す病態モデルマウスも数多く存在する。さらに小型で世代交代が早く飼育しやすいことから地上で多くの知見が蓄積されているなど、ヒト対象研究を行うためには、極めて有効かつ必須のモデル生物であり、きぼう利用シナリオにおいてその実験環境の構築が必須と提言されている。 |
推薦理由 | 無重力や放射線などの宇宙環境に対する統合的な生物応答メカニズムの解明は、重力生物学と宇宙放射線生物学におけるISSならではの最先端の科学的知見の獲得とともに、地上における生物の進化過程の解明につながるものとして、生命科学分野のきぼう利用シナリオの重点目標に挙げられている。これまでの植物や細胞を用いた宇宙実験により、細胞・組織レベルでの形態や遺伝子発現変化などの知見が蓄積されてきたが、本研究は、ヒトへの適用や還元が図りやすいマウスを対象として、生物個体レベルでの長期的な環境影響変化とそれに対する環境適応を把握し、基礎的・網羅的な影響評価を行うものである。本研究を進めることによって、利用シナリオにある統合的な生物応答メカニズムの解明に貢献することが期待される。さらに、国内を代表するマウス実験の拠点が連携した強力な体制のもとで全身臓器への影響評価を網羅的に実施するため、科学的意義のある重大な知見を得られる可能性が高い。また、本研究により宇宙環境応答に関する基盤的知見を得ることで、これまで宇宙実験に関与がなかった多くの第一線の研究者の参画や、病態モデルマウスを用いた各種薬物の効果の確認などのヒトの疾病治療研究などに発展することが期待できる。 |
分野 | 宇宙医学分野 |
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テーマ名 | 宇宙環境における健康管理に向けた免疫・腸内環境の統合評価 |
代表研究者 | 理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター 大野博司 |
テーマ概要 | 宇宙環境の微小重力、閉鎖・隔離環境、宇宙放射線は、骨量低下、筋萎縮、睡眠障害、免疫障害などの生理的リスクを引き起こし、老化との類似性も指摘されている。本テーマは、宇宙飛行士とマウスの糞便等を用いて腸内細菌叢や腸内代謝系といった腸内環境の変化を解析し、宇宙環境による免疫障害への影響を評価する実験提案であり、免疫障害の評価指標の同定とメカニズムの解明を目的とする。 |
推薦理由 | 宇宙環境における宇宙飛行士のストレス応答やその健康管理技術への応用に向け、免疫応答メカニズムを科学的に解明することは、宇宙医学分野のきぼう利用シナリオにおける重点研究課題となっている。本研究は、免疫系の宇宙環境ストレス応答について、宇宙飛行士やマウスの腸内細菌叢や腸内代謝系といった口腔・腸内環境と免疫系の変化を糞便等の成分の解析によりとらえようとする研究で、独創性・新規性が非常に高く科学的意義とともに、宇宙飛行士の健康管理技術への貢献の点から利用シナリオが掲げる重点課題への貢献が期待できる。また、ここで得られる成果は、高齢者の予防医学や免疫応答メカニズムの評価といった医学生物学への還元が期待できる。本分野では世界最先端の成果を上げている我が国有数の研究機関からの提案である。 |
分野 | 物質・物理科学分野 |
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テーマ名 | 火災安全性向上に向けた固体材料の燃焼現象に対する重力影響の評価 |
代表研究者 | 北海道大学大学院工学研究院 藤田修 |
テーマ概要 | 本テーマは、対流のないISSの環境を活かし、着火・延焼などの燃焼現象において重力が果たす役割を、幅広い固体材料に対して科学的に明らかにするものである。これまでの落下実験(地上での短時間の無重力実験)などの結果から、無重力環境下では重力環境下に比べ、固体材料が着火・延焼しやすくなる場合があることが明らかになっている。地上における燃焼現象は、材料の特性以外にも、燃焼で生じる熱対流により、燃焼が不安定になる効果や、逆に新たな酸素が供給されて燃えやすくなる効果などが複雑に絡み合っており、これらを切り分けて評価することが困難である。対流のない無重力環境を使うことで、燃焼現象における材料特性影響と対流影響を切り分ける実験が初めて可能となり、地上での燃焼性評価試験に与える重力影響を適切に評価し、宇宙用材料の地上評価における適切な試験方法と国際的な基準の確立を目指す。 |
推薦理由 | 本研究提案は、重力の影響を排除した条件で様々な材料を使って燃焼実験を行うことにより、これまで明らかでなかった固体材料の着火・延焼における重力の影響を基礎的・原理的立場から初めて明らかにする重要な研究である。特に、我が国は、固体材料の燃焼性に関する基礎研究で世界のトップクラスの研究実績を上げており、国際的なリーダーシップを発揮できると期待される。無重力環境を使った材料の燃焼性や火災安全性に関する研究は、ISSで利用する実験機器の開発や民間の有人宇宙活動など、今後の宇宙活動の一つの鍵となる技術の確立に必須のものであり、宇宙先進国の一員として我が国が取り組むべき課題として、物質・物理科学分野のきぼう利用シナリオの重点領域の一つに挙げられており、本研究はシナリオの目標達成に貢献するものである。また、本研究の成果は地上における、難燃性材料の研究開発、火災シミュレーション技術の向上、及び消火や火災予防技術への貢献などへの波及の期待も大きい。さらに、研究組織、研究計画、手法・グループ構成も国内で最高レベルのものであることに加え、国際基準の設定に向けた国際研究チームを構築しており、国際的な広がりが期待される。 |
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