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国際宇宙ステーション(ISS)に設置された「高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALorimetric Electron Telescope: CALET)」(研究代表:鳥居祥二教授・早稲田大学理工学術院)の観測データによって、ISSが夕方から夜にかけて磁気緯度*1の高い地域を通過する際に、数分間にわたって大量の放射線電子*2が降り注ぐ「電子の集中豪雨」がISSでも起こっていることをはじめて明らかにしました。その準周期的な強弱の現れ方などから、電磁イオンサイクロトロン波と呼ばれる「オーロラのさざ波」を感じて大気に落とされたバンアレン帯*3の電子だと考えられます。
電子の集中豪雨は人工衛星の帯電による障害や、中層大気のオゾン破壊の原因となるため、今後、宇宙天気予報の研究や大気化学の研究に役立つことが期待されます。
研究成果は、Geophysical Research Letters(2016年5月7日)にオンライン掲載されました。
2015年8月に種子島宇宙センターから打ち上げられ、「こうのとり」5号機で国際宇宙ステーション(ISS)に運ばれた高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(Calorimetric Electron Telescope: CALET)は、「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに設置された観測装置です。宇宙を飛び交う非常に高いエネルギーの電子やガンマ線、陽子・原子核成分を高精度に観測することにより、①高エネルギー宇宙線・ガンマ線の起源と加速のしくみ、②宇宙線が銀河内を伝わるしくみ、③高エネルギー電子・ガンマ線の観測による暗黒物質の正体、などを解明することを目的としています。CALETの科学観測運用及びデータ解析を実施している早稲田大学CALET運用センターでは、観測をスタートした2015年10月から、24時間体制で観測機器の動作状況や観測データの取得状況、観測に影響を及ぼす宇宙環境などをリアルタイムで監視し続けてきました。CALETはJAXAと早稲田大学との共同研究プロジェクトであり、日本の研究チームには、国立極地研究所、神奈川大学、青山学院大学、東京大学宇宙線研究所など22の研究機関が参加しています。
オーロラ活動が活発だった2015年11月10日、数分間という短い時間ですが、放射線電子のカウント数について、想定されていたカウント数の数10倍から数100倍にまで急上昇し、準周期的に強弱の変化を示す、という状況がCALETの観測で検出されました(図2)。その際、偶然にもオーロラの専門家である片岡龍峰准教授(極地研)と、装置や観測データの専門家である鳥居祥二教授、浅岡陽一次席研究員(研究院講師)(早稲田大学)が居合わせていたため、この変化のもつ重要性を見逃すことなく、今回の成果につながりました。
今回の変化をきっかけに、関係者はCALET観測開始から4ヵ月間のデータを分析した結果、そのような「電子の集中豪雨」現象は、ISSが夕方から夜中にかけて磁気緯度の高い地域を通過するタイミングに繰り返し起こっていることが明らかになりました。また主に、バンアレン帯の放射線電子が豊富なときや、オーロラ活動が活発なときに発生していることも明らかになりました。
このバンアレン帯電子の一部が一気に地球大気に降り注ぐ仕組みは、非常に複雑なものだと考えられます。まず、集中豪雨の雨雲に対応するのが宇宙空間のバンアレン帯です。つまり、バンアレン帯は、地球大気に落ちなかった電子が宇宙空間で滞留している場所なので、常に地球大気に向かって電子が降り注いでくるわけではありません。しかし、以下のように、オーロラ活動に間接的に刺激されることによって非常に多くの電子が降り注ぐことがあります。
オーロラを活発にする原因となっているのは、真夜中側から地球に押し寄せてくる*4、電子と陽子が一体となって流れるプラズマの大波です。図3のように、プラズマの大波は地球に近づくにつれて、強い地磁気を感じてプラズマ全体にブレーキをかけます。その際に、電子の流れは明け方のほうへ、逆に陽子の流れは夕方のほうへと回り込むことになります。明け方に回り込んだ電子の一部は、オーロラやバンアレン帯の一部になり、夕方のほうへ回り込んだ陽子は、その場所でプラズマのさざ波(電磁イオンサイクロトロン波)を立てます。この「さざ波」に出会ったバンアレン帯の電子の多くが、電磁場の揺れを敏感に感じて地球大気に叩き落されます。このように、オーロラ活動の余波によって、ISSで電子の集中豪雨が起こっていると考えられます。
この「電子の集中豪雨」現象自体は新発見ではなく、これまで主に極軌道衛星によって高緯度地域で観測されてきたREP(Relativistic Electron Precipitation、相対論的電子降下)と呼ばれる、バンアレン帯電子の大量落下現象と同じものだと考えられます。バンアレン帯電子を消し去る効果がどれほどか、放射線電子の影響による中層大気のオゾン破壊がどれほどか、ということで地球物理の分野で注目されて研究が進んでいます。今回は、CALETの放射線監視データが高性能(放射線電子の検出感度が史上最高)であり、さらに秒単位でデータを常に監視していたことから、ISSでの初観測に至りました。ISSは、極軌道衛星とは異なり、磁気緯度の高い地域を東西に横切るという特徴があることから、REPに関する相補的なデータを新たに提供していくことになります。
「電子の集中豪雨」の観測は、現在のISSの放射線環境を正しく知る上でも貴重なデータですが、秒単位で乱れる激しい振動を詳しく分析していくことで、オーロラ活動による「さざ波」の成り立ちに関する理解が進み、電子の集中豪雨の宇宙天気予報や人工衛星の帯電障害の軽減対策などに貢献することが期待されます。さらに、今年度打ち上げが予定されているJAXAのジオスペース探査衛星(ERG)は、REPの素となるバンアレン帯電子の成因を解明することを目的としているため、CALETの観測を継続し、ERG衛星の観測データと組み合わせることによって、相乗効果的な研究の発展も見込まれます。
<発表論文> 掲載誌: Geophysical Research Letters タイトル: Relativistic electron precipitation at International Space Station: Space weather monitoring by Calorimetric Electron Telescope(国際宇宙ステーションでの相対論的電子降下:CALETによる宇宙天気監視) 著者: 片岡龍峰(国立極地研究所 宙空圏研究ループ/総合研究大学院大学) 浅岡陽一(早稲田大学理工学術院) 鳥居祥二(早稲田大学理工学術院) 寺澤敏夫(東京大学宇宙線研究所) 小澤俊介(早稲田大学理工学術院) 田村忠久(神奈川大学工学部) 清水雄輝(神奈川大学工学部) 赤池陽水(早稲田大学理工学術院) 森正樹(立命館大学理工学部)公開日: 2016年5月7日(オンライン掲載)
DOI: 10.1002/2016GL068930
URL: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2016GL068930/full
<研究サポート>本研究の一部はJSPS科研費(基盤研究(S) 26220708)を用いて実施されました。
<お問い合わせ先> | ||
(研究内容について) | ||
○ | 早稲田大学 理工学術院 教授 鳥居祥二(とりい しょうじ) | |
TEL: 03-5286-3090 E-mail: torii.shoji@waseda.jp |
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○ | 国立極地研究所 宙空圏研究グループ 准教授 片岡龍峰(かたおか りゅうほう) | |
TEL:042-512-0929 E-mail: kataoka.ryuho@nipr.ac.jp | ||
(報道について) | ||
○ | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA) | |
有人宇宙技術部門 ISS/きぼう広報情報センター | ||
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