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微小重力環境を活かして、アルツハイマー病の原因分子とされる「アミロイド線維(アミロイドβ)」の形成機構を調べるための実験(Amyloid実験)が開始されました。12月19日から国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在を開始した金井宇宙飛行士が担当しています。
アミロイド線維はタンパク質が規則正しく重合した超分子複合体であり、アルツハイマー病や狂犬病、糖尿病などの原因となることが知られています。アミロイドβタンパク質が凝集してアミロイド線維が形成され、それが蓄積されてくるといつくかの過程を経て神経細胞の変性・消滅が生じ、脳が委縮してアルツハイマー病が発症するという仮説です。そのため、アルツハイマー病などの疾患治療や予防のために、線維形成機構を理解することが重要なのですが、詳細な線維形成機構は未だ解明されていません。
今回の宇宙実験は、アミロイド線維形成(核発生から線維伸長)が、基本的にはタンパク質結晶化と同じ現象(タンパク質は三次元構造、線維伸長は一次元・二次元構造)であることに着目し、高品質のアミロイド線維を得ようとするものです。微小重力実験では、タンパク質の分子が規則正しく並んだ、地上では得られない高品質なアミロイド線維を得られると考えています。
アルツハイマー病を引き起こすとされるアミロイドβ線維(Aβ線維)を実験対象とし、微小重力環境でこの高品質のAβ線維と伸長中間体を取得し、地上に持ち帰って電子顕微鏡、NMR(核磁気共鳴分光法)などで解析します。アミロイドβ線維の伸長に重要な役割を果たしている中間体(図の赤い円の部分)の構造を知ることができれば、アルツハイマー病等の神経変性疾患や糖尿病等のアミロイド線維関連疾患の発症機構の解明や発症の新たなリスク評価方法の構築や、中間体を阻害してアミロイド線維伸長を止める新たな治療薬候補の設計のきっかけを掴むことができるかもしれません。
Amyloid実験は2回、実施されます。今回行われている第1回目の実験では条件を変えた少量のアミロイドβタンパク質溶液を多数用いて、細胞培養装置(Cell Biology Experiment Facility: CBEF)の恒温槽を使ってタンパク溶液から種結晶から繊維化させます。その間、4回に分けて実験試料を恒温槽から取り出し、地上に持ち帰ってアミロイド線維の伸長速度を調べて2回目の実験条件を決定します。
第2回実験では、大量のアミロイドβタンパク質溶液を用いて構造解析に必要十分なアミロイド線維を伸長させ、回収した実験試料を電子顕微鏡等で解析してアミロイド線維の構造を調べます。いずれも凍結状態でアミロイドβタンパク質溶液を軌道上に打ち上げ、「きぼう」日本実験棟の微小重力環境下、37℃でアミロイド線維の伸長実験を行います。
第1回目の実験は、12月26日にタンパク質溶液サンプルを解凍する作業から始まり、27日に「きぼう」船内実験室にあるCBEFにタンパク溶液をセットして実験が開始されました。来年の1月始めにかけて4回にわけて実験試料をCBEFから取り出し、冷凍庫に保管して、地上への回収を待ちます。すべての軌道上作業を金井宇宙飛行士が担当します。
今回、実験試料の取り出し作業に筑波宇宙センター(TKSC)の実験管制室から立ち会った、加藤先生にコメントをいただきました。
代表研究者 加藤晃一先生(自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター/分子科学研究所教授)のコメント
大勢の方に支えられ、地上の予備実験を積み重ねて、ついに迎えたこの日の実験。宇宙からいただいた金井宇宙飛行士からのメッセージに感動で胸が熱くなります。軌道上でつくりだされた貴重なアミロイドはアルツハイマー病の克服に向けての希望に満ちた重要な手かがりを与えてくれることでしょう。
年越しの実験になりますが、金井宇宙飛行士、引き続きよろしくお願いいたします。
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