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JAXAではこれまでロシアとの国際協力による20℃での結晶化実験を進めてきましたが、新たに米国便を使った4℃結晶化向けの実験機材を整備してまいりました。4℃結晶化技術によって、不安定な水溶性タンパク質や膜タンパク質への適用拡大が期待できます。
今回、ドラゴン補給船運用8号機(SpX-8)の打上げ・回収機会を使い、4月10日から5月10日の間、「きぼう」でタンパク質結晶化実験を行いました。リファレンスタンパク質に加えて、数種類のタンパク質を研究者より提供いただき、4℃結晶化技術実証ミッションを実施しました。
4℃結晶化技術については"こちら"(PDF:1.25MB)をご覧ください。
5月12日に国際宇宙ステーションから地上に帰還したタンパク質結晶サンプルは、宇宙での結晶化状況を把握するため、日本にサンプルを持ち帰った直後の5月20日、23日に早速、顕微鏡観察を実施しました。得られた結晶は研究者に順次渡され、SPring-8等の放射光施設を利用した解析作業に進みます。
JAXAが行ったタンパク質結晶の顕微鏡観察結果の一部を速報でご紹介します。今後解析を更に進めるとともに、タンパク質結晶化実験の適用拡大に取り組んでまいります。
代表研究者:大阪府立大学 木下誉富准教授
大阪府立大学・木下准教授の研究グループは、リウマチ、心肥大症、ガンなどの分子標的薬を開発する上で重要な標的タンパク質であるキナーゼ(※)の構造研究、創薬研究を進めています。本テーマの対象タンパク質は地上で結晶化を行うとクラスター状結晶(複数結晶が結合した状態)として析出することが多いため、高品質なデータを収集することが困難な状況でした。そこで今回の宇宙実験では標的タンパク質の精密な立体構造を決定可能な高品質な単結晶を得ることを目指しました。
宇宙で生成した結晶は地上で生成した結晶と比較して、クラスター化が抑制され非常に大きな単結晶となっています(下画像: 顕微鏡観察)。
今回得られた成果はリウマチ治療薬や肥大症治療薬などの医薬品設計を行う上で重要な知見の獲得につながると期待されます。
ターゲットしているキナーゼ蛋白質はリウマチ治療薬や心肥大症治療薬の標的として期待される。これまで阻害剤複合体等について構造解析を行ったが、水分子の位置を同定できていない。医薬品設計は水分子を含む高分解能構造に基づいて行うほうが断然有利であるため、宇宙環境を利用した高品質タンパク質結晶生成実験により、本結晶を高品質化して高分解能構造解析を目指したい。
宇宙空間における蛋白質結晶の高品質化について実績が多いことから、我々は2011年からキナーゼ蛋白質に応用したいと考えて実験提案を繰り返してきた。しかしながら、20℃下で安定して結晶を析出させることができず、宇宙実験に至らなかった。我々の研究対象となるキナーゼ蛋白質は20℃下では凝集がおきて速やかに沈殿する。そこで凝集を抑えながら4℃下で各種実験を行っている。
JAXAPCGが4℃実験に取り組み始めたことで不安定な蛋白質にも門戸が開いた。今回の実験により結晶の外観から高品質化したと想像でき満足している(X線回折実験は未実施)。キナーゼを含む細胞内蛋白質は凝集により不活性化しやすい。この凝集反応は温度依存的に増大する。JAXAPCGの4℃実験により、これら細胞内蛋白質についても宇宙環境での結晶化実験の道が開けた。
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