このページは、過去に公開された情報のアーカイブページです。
<免責事項> リンク切れや古い情報が含まれている可能性があります。また、現在のWebブラウザーでは⼀部が機能しない可能性があります。
最新情報については、https://humans-in-space.jaxa.jp/ のページをご覧ください。
高温液体の性質(物性)、特に「構造」と「粘性」の相関や、フラジリティー(ガラスへのなりやすさの指標)は、例えば、地震/火山噴火の予測につながるマグマの構造・物性研究への波及など極めて重要なテーマです。しかし、高温での測定が非常に困難であることから、ほとんど明らかにされていません。
本実験は、「きぼう」日本実験棟の静電浮遊炉を用いて、高温液体、とりわけ、波及効果が高く、かつ、静電浮遊炉でしか測定できない酸化物の物性(特に粘性と密度)を精密測定することを目的とします。この測定結果と高輝度放射光・高強度パルス中性子で測定する構造データを計算機シミュレーションで解析し、データ科学の援用により、新しい学理創製、新奇ガラス材料などの非平衡材料創製へのフィードバックを目標とします。
本実験テーマでは、酸化物融体の密度と粘度を融点以上の高温から深い過冷却に至るまで幅広い温度範囲で高精度に取得します。
地上で材料を作るには、まず材料の物質をるつぼと呼ばれる容器に入れ、るつぼごと加熱して融かし、冷やして固めます。しかし、2,000℃を超えるような高温で物質を融かそうとすると、融体となった材料とるつぼの材料が反応し、るつぼから溶けた物質が不純物として混ざってしまいます。
一方、宇宙では容易に液体を浮かせることが可能なので、容器を用いる必要がありません。そのため、容器からの汚染のない無容器状態で物質の性質を測定できます。容器と接触しないため、高温まで加熱しても不純物の混入を防げる他、核発生が抑制された過冷却状態をつくることができます。
静電浮遊炉を使用すれば、帯電しやすい材料(金属、合金など)であれば、地上でも浮かせることが可能です。しかし、酸化物や半導体などは帯電しにくく、地上で浮かせることは困難なため、宇宙で実験をする必要があります。
「きぼう」日本実験棟での実験は、試料ホルダの交換などの作業は宇宙飛行士が行いますが、その後の静電浮遊炉の起動や試料の浮遊・位置制御、レーザーによる加熱などの操作は筑波宇宙センターにある運用管制室から遠隔で実施します。
「きぼう」日本実験棟からは人工衛星を使った通信回線を経由して、リアルタイムで画像やデータが送信されてきます。地上でこれらのデータを見ながら、実験がうまく行くように静電浮遊炉を遠隔操作します。
本実験テーマでは、「きぼう」日本実験棟での宇宙実験だけでなく、地上の大型実験施設を利用した実験も実施します。兵庫県にある大型放射光施設SPring-8でX線回折実験を、米国オークリッジ国立研究所では中性子回折実験を行い、液体及びその液体を固化させたガラスの構造データを取得します。
放射光 X線回折実験及びMD(Molecular Dynamics:分子動力学)シミュレーションから得られた、ガラスになる物質であるシリカ(SiO2)液体(黒線)とガラスにならないジルコニア(ZrO2)液体(赤線)の密度ゆらぎ部分構造因子SNN(Q)を示します。
ガラスになるシリカ液体には液体であってもガラスに類似した秩序が存在することを示す鋭いピークQ1に加えて、Q2 、Q3の3つのピークが存在することがわかります。
一方で、ガラスにならないジルコニア液体にはQ1は観測されず、シリカ液体のような強い化学結合は存在しないと予想されております。
今後、放射光・中性子を用いた実験および計算機実験よりISSで測定した密度・粘性といった物性の理解が深まると期待されております。
機能性酸化物ガラスの創製
窓ガラスやファイバーなど人類の日常生活に不可欠になりつつある酸化物ガラスの新奇創製につながる重要な物性データを取得します。
地球科学への貢献
地球内部の高温・高圧下の珪酸塩酸化物マグマの性質を明らかにし、地球誕生のメカニズムの解明に貢献します。
代表研究者コメント
この研究は国際宇宙ステーションISSの静電浮遊炉(ELF)や、地上の最先端の大型実験施設、さらにはスーパーコンピューターを利用し、多くの研究者が力を合わせて初めて成し遂げられるものです。超高温の液体やマグマには未だにわからない謎が多く、なぜガラスができるかに対する明確な答えも出ていません。この研究プロジェクトによりその謎が1つでも解ければ、基礎科学の大きな進歩につながると考えています。
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency | SNS運用方針 | サイトポリシー・利用規約 |