人工衛星や国際宇宙ステーション(ISS)が活躍する宇宙空間には、宇宙機や宇宙飛行士にとって危険な宇宙放射線(太陽から来る放射線、遠い銀河からやってくる銀河宇宙線、地球の磁場に補足されたバンアレン帯の放射線粒子)、プラズマ、原子状酸素、中性大気、スペースデブリ等があります。
これらの宇宙環境が原因となる宇宙機障害は全体の20-25%と言われており、宇宙飛行士が、危険な放射線の被害に遭わないよう、そして人工衛星が故障を起こさないように、宇宙放射線環境を宇宙環境モニター装置で常に監視しています。
通常の地球観測衛星などよりも低い高度400kmの貴重な宇宙環境データを、3年間にわたって取得し蓄積することができました。エネルギーの高い放射線粒子(電子)のSEDA-AP計測結果(左)とAE8モデル(右)を下図に示します。
これまで標準放射線帯モデルとして使われてきたAE8モデルが作成されたのは、約30年前であり、SAA(South Atlantic Anomaly)と呼ばれる放射線が多い領域が地球磁場の変動で西に移動しているのが判ります。また、ISSが周回している高度400kmのデータはその時代には無く、データが抜けています。
SEDA-APのデータを活用して作成した放射線モデルは、衛星を設計する際の放射線環境や太陽フレア発生時の放射線量の予測に役立てられており、モデルをISO(国際標準化機構)の規格として提案しています。
また、得られた宇宙環境データは、ISSに滞在する宇宙飛行士の被ばく管理や、放射線により引き起こされる部品の不具合解明などに活用されています。
②未だ明かされていない太陽フレアの発生メカニズムに迫った!(日本がリードする中性子計測)ISS内で、中性子のエネルギースペクトルをリアルタイムで計測しているのは、日本だけです。この日本独自の計測で、太陽フレアから生じる中性子に関し、中性子の増加を引き起こしたと考えられる現象の候補を5例見つけました。これらのデータは太陽フレア発生のメカニズムに新たな考え方を提起するもので、メカニズム解明につながります。また、銀河宇宙線が地球大気と衝突して生じる中性子等についても新たな知見を得ています。
③米国との宇宙環境データ交換巨大構造物であるISSが磁場中を飛行すると、誘導起電力やプラズマの影響で電位差が生じます。異なる位置で計測を行っている米国のデータとSEDA-APのデータの両方を用いてこれらの電位差を評価するため、ボーイングおよびNASAとのデータ交換の協定を締結しました。
また、米国の曝露部で帯電実験(プラズマが影響する)を実施中の実験機器へ、プラズマデータ提供も行っています。米国のプラズマ・電位計測装置は宇宙機が接近した時などの特定のタイミングのみの計測ですが、SEDA-APは常時計測しているという利点があります。
電位差や帯電は宇宙機の故障に大きく関わる原因であり、日本だけが持つデータを提供することで国際的に貢献しています。
太陽の活動は11年周期で変動しており、今回の太陽活動期は2013年にピークを迎えると考えられています。引き続き大きな太陽フレアとISS周りの宇宙環境への影響を調べていきます。
また、SEDA-APの実験装置のひとつである微小粒子捕獲実験装置/材料曝露実験装置(MPAC&SEED)は、2010年4月に取り外され、地上で分析中です。先行実験では新たな地球外物質が見つかっており、データの分析結果が期待されています。
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