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長期宇宙滞在に向けた宇宙飛行士の健康管理について
宇宙飛行士の心身の健康を維持増進するために


長期間宇宙環境に滞在すると、骨からカルシウムが溶けだしたり、筋力が弱くなることが知られています。(写真は、1998年11月スペースシャトル「ディスカバリー号」で医学検査中の向井飛行士とグレン宇宙飛行士。)
 人間が宇宙環境に滞在すると、心や体にいろいろな変化が起こります。例えば長期間微小重力状態に滞在すると骨からカルシウムが溶けだしたり、筋肉が萎縮して筋力が弱くなることが知られています。宇宙滞在の初期には「宇宙酔い」といわれる症状が見られたり、長期宇宙滞在後に地上に戻ると、立ちくらみや失神を起こしたりすることもあります。

 また、宇宙環境には地上では見られない放射線もあり、長期に宇宙滞在した場合の、放射線が宇宙飛行士の健康状態に与える影響については、まだ不明の部分も少なくありません。

 さらに、国際宇宙ステーション(ISS)においては米国、ロシア、ヨーロッパ、カナダ、そして日本の宇宙飛行士が比較的限られた空間で長期間共同生活をすることになります。そのような閉鎖空間の中で異なる文化的背景を持つ人間が共同で生活することは、精神的・心理的にも大きなストレスとなることが予想されます。

 これらの心や体への負荷を考慮し、宇宙飛行士の選抜過程においては数多くの医学検査・心理学検査が行われ、心身ともに健康な宇宙飛行士が選抜されています。

 しかし、10年以上にわたって現役の宇宙飛行士として活躍する間には、病気になることもあり、また不慮の事故でけがをすることも当然予想しておく必要があります。特にISS滞在中に病気や怪我が発生した場合にどのように対処すべきかは、十分に検討しておくべき課題です。ある意味ではISSには医師がいるとは限らず、医療設備も限られていて、極端な僻地医療の現場であるという見方もできます。

 以上のことから、宇宙飛行士の心身の健康状態については、医学的・心理学的観点から、どのような宇宙飛行士を選抜したらよいかという問題に始まって、訓練中・宇宙飛行中・帰還後のリハビリテーション、繰り返しの宇宙飛行、そして宇宙飛行士引退後に至るまで、組織的かつ計画的に健康を維持増進するための活動が必要であり、これを宇宙飛行士の健康管理と呼んでいます。その目的は、宇宙飛行士の能力を最適に保持するために健康を保証し、安全に寄与するとともに、任務遂行に支障のないようにすることです。

幅広い分野の専門家が健康管理を支援


眼科検査風景
現在の宇宙飛行士の医学基準では、通常の遠距離視力の他、色覚、視野、動体視力、深視力、近距離視力など多くの眼科的検査にパスする必要があります。

耳鼻咽喉科検査風景
基礎訓練で実施される低圧訓練やダイビング訓練などでは、中耳炎を起こしたりすることもあります。これを予防するために鼓膜の観察も重要です。

ISS計画のような国際協同作業においては、各国の宇宙機関がそれぞれの宇宙飛行士に個別に対応しても効率が悪く、混乱してしまいます。そこで、各宇宙機関の宇宙医学担当者は国際協力のチームを作り、同じような基準で宇宙飛行士の健康管理が行えるよう話し合いを繰り返しています。

 JAXAにおいては、宇宙医学研究開発室が宇宙飛行士の健康管理活動をとりまとめます。ここでは、航空宇宙医師(フライトサージャン)と呼ばれる医師団を中心とし、看護婦、心理学の専門家、運動生理学の専門家、宇宙放射線の専門家などが健康管理支援チームを形成して、日本人宇宙飛行士の健康管理計画の立案・実施を担当します。

 宇宙飛行士の健康管理に必要な医学の分野は広い領域にわたるため、各分野における専門家の支援を受けながら管理体制を築き上げています。

飛行士本人への健康教育や家族への支援も重要

宇宙飛行士の健康管理には、具体的には次のような活動が含まれます。

 まず、すでに述べたように、宇宙飛行士選定時における医学・心理学選抜です。また、ひとたび宇宙飛行士として選抜された後も、健康状態については定期的にチェックし、宇宙飛行士として仕事をすることが可能な健康状態であることを確認することが必要です。万が一病気となった場合でも、できるだけ早期に発見し、早期に治療することが、宇宙飛行士として長期間活躍するためには必須です。

 一方、健康状態の維持増進というのは、まわりの関係者がいくら努力しても、宇宙飛行士本人がその重要性を理解していない場合にはあまり効果がありません。その意味では、基礎訓練の一環として実施される健康教育は、非常に重要であると考えています。

 ここでは、各宇宙飛行士に適した運動処方を設定して体力トレーニングを行ったり、栄養、睡眠、ストレスへの対処、怪我に対する応急処置法などについて講義を行ったりする予定です。

 また、宇宙飛行士やその家族が、健康上の問題について疑問があったり不安を持ったとき、いつでも相談ができ、適切に対処できるよう努力する必要もあります。日常生活におけるちょっとした病気や怪我への対処は当然ですが、例えばISSに宇宙飛行士が滞在しているときに、地上にいる家族が不安なく生活ができるよう支援することも、宇宙飛行士の精神的な健康状態を維持するという観点からも重要です。

宇宙医学は有人宇宙活動の基礎技術のひとつ

 これらの宇宙飛行士の健康管理に関連する広い意味での医学の分野は、地上において日進月歩の進歩が続いています。技術の進歩により新しい医療機器が開発され、この技術をISSにおける健康管理に応用することも可能となります。また、その時代において最適と言われる医療水準は時代とともにどんどん変化しており、宇宙飛行士の健康管理の内容についても、常に新しい知識・技術を継続して取り入れていくことが必要です。

 そのため宇宙医学研究開発室では、宇宙飛行士の健康管理のための、宇宙医学研究も推進しています。外国の宇宙機関と協力して長期宇宙滞在のシミュレーションを実施したり、実際にスペースシャトルで飛行した日本人宇宙飛行士の医学データを解析したりといった研究開発を通じ、これらの結果が宇宙飛行士のよりよい健康管理につながるよう努力しています。

 これらの活動が、日本の有人宇宙活動の基礎技術として蓄積され、発展していくことが期待されます。


最終更新日:2000年 3月 21日

 
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