宇宙開発事業団は、日本人宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)への搭乗を近い将来に控え、閉鎖異文化環境での長期滞在時の心理的・生理的適応過程及び心理的ストレス軽減法の検討を行うために、昨年7月より、ロシア・モスクワ市にある生物医学問題研究所が実施する長期閉鎖実験に参加しています。この実験には、日本、ロシアの他、米国、カナダなど計10ヶ国の研究機関が参加しています。
この実験では、長期滞在群として240日間(グループ1)及び110日間(グループ2・3)の滞在を行う実験群と、短期滞在訪問群として7日間の滞在を行う実験群(グループ4・5)が閉鎖施設に滞在します。各グループ4名の被験者から構成され、グループ3・5には日本人も参加します。グループ2・4はすでに滞在を終了し、現在、日本人・オーストリア人・カナダ人・ロシア人という文化環境の異なるグループ1・3の計8名が滞在中です。2月に実施される短期滞在(グループ5)にも日本人被験者が参加し、閉鎖滞在は3月22日まで続く予定です。
| 長期閉鎖環境実験施設および被験者の生活 |
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被験者が滞在しているチャンバーの外観 | |
食材の一例 |
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作業エリア | 閉鎖施設はロシアの宇宙ステーション、ミールの環境を模擬しており、3つのチャンバーに分かれています。日本人被験者が現在滞在しているチャンバーの大きさは床面積約90平方メートルで、個室、トイレ、食堂、サロン、シャワーなどがあります。実験スケジュールは週休2日制で、通常平日は朝7時ごろ起きて朝食をとり、その後は研究作業を行います。昼食後に体力トレーニングや健康チェックを行い、夕食後は自由時間で、夜11時ごろ就寝というのが一日の流れです。食事は、宇宙食ではないものの、保存の利くレトルト食品や缶詰が主で、食材などの物資はISSを想定して月に一度程度運び込まれます。自由時間には、テレビを見たり、電子メールを送ったり、週末には家族や友達と電話で話すこともできます。
| 研究内容 |
異文化環境下での長期閉鎖生活では、かなりの心理的ストレスが想定されます。被験者の心理的健康状態の調査のために、尿検査でストレスホルモンを調べたり、心理検査をしてストレス源やストレス状態の変化について調べたり、コンピュータによる作業検査で作業効率や精度を調べたりしています。また日本人被験者の心理サポートのために、定期的にテレビ電話によるカウンセリングや家族との会話の機会も設けています。
これまでは、宇宙飛行士の宇宙滞在も短期でしたので、心理ストレスなどは大きな問題とはなりませんでしたが、1回あたり3~6ヶ月も滞在する国際宇宙ステーションでは違ってきます。国際宇宙ステーション、月・火星有人探査など、宇宙開発を進めて行くには、長期閉鎖環境への滞在がさけられないため、そのためにも貴重な実験となることでしょう。今回の実験から長期滞在宇宙飛行士の健康維持に役立つデータが取得されることが期待されます。
最終更新日:2000年 1月13日
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