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若田光一飛行士 2001[3]
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松井:彫刻やっている松井といいます。ずっと気になっていたのは、一体素材としてどういうものが使えるのかということと、それからどういうことがどういう時間にやっていただけるのかということでしたので、今日お会いしてすごくよくわかったんですけど。僕たち、鯉のぼりのプランだとかいろいろなプラン、小さいプランをいっぱい出しているんですが、最終的には、何というか――宇宙というものがこんなものであるというのを直感的に理解できるような、オブジェクトなり何か視覚でもって僕たちが理解できるような、そういうものを計画したいんですよ。そういう中でいろいろな、実際に鯉のぼりであるとか、アームでこうくっつけたりとか、ものを描いたりだとか、そういうものの中でどういうことができるのかというのを、僕たちの積み重ねとしていろいろな方にやっていただきたいというのがあるんです。
で、若田さんも宇宙に行っておられたときに、違ったバックグラウンドの仲間と一緒に一つのことを成し遂げたと、そういう感覚を得られたという話をされてましたけど。例えば庭であるとか遊びに近いものは、どこの国の人も子どもの時代がもちろんあったわけですし、そういう感覚というものがあるわけですね。で、そういうことを改めて宇宙の中でやるということ。たとえば無重力の中でいろいろやっていただくことがあって、それが実は地上とはすごく違う。そうすると逆に、宇宙からだと地上でやっていることが特別なことであるように見えてくれば、例えば若田さんがここにも違った背景を持ったいろいろな人がいるんだと感じたように、地上にいて宇宙を見上げる世界中の人たちが、ああ地球上にはさまざまな人がいるんだな、とそういうようなことを何か直感的に感じられる、そういうものを何か視覚的なオブジェクトとして最終的には作り上げたいなと思っているんです。
例えばその一つとして、これ、紙粘土です。例えば紙粘土とかをこういうふうにクリクリクリと伸ばしていきますよね。そしたらこれ、地上だったらポトンと落ちて当り前だと。それじゃ、これには骨がいるなあ、サポートがいるなあというふうに考えるわけですよ。それで構造を造ったり家を造ったり考えるわけです。それが宇宙でやるとそういうものがいらなくなるのかどうかわからないんですけど、例えば子供のときにツリーハウスっていうんですか、基地を造ったり木の上に家を作ったりとか、そういうことをしていろいろ学びますよね。例えば宇宙でこういう物を使って遊んでもらう、しかもいろんな背景の違った国の人が一つのことをやりながら、宇宙で使えるような小屋を造ったり、そういうことをやっていただくとすごく面白いなーと思うんですけど。

若田:そうですね、確かに、今の粘土って言うのは、視覚に訴えるところがありますね。

松井:ただ、その落っこちるということだけだと、ただの現象。まあそんなものか、宇宙ではそんなふうになるのかということだけなんですが、そこから始まって、何というのかな、例えばロビンソンクルーソーみたいなもので、無人島に流れ着いて、何もないところから何かを始める。そういうふうに、大人なんだけれども、子どもになって――宇宙飛行士の人にそんなこと言ったら失礼かもしれないんですけれども――自分が使えるようなものを作り上げていかなければいけないという、そういう状況っていうものが何かできないかなーと考えているんです。

若田:そうですね。確かに遊び心って言うのは大切です。実は先ほどは申し上げませんでしたが、みんな子どもだなーと思った瞬間はあったんですね。国際宇宙ステーションみたいに長期滞在になると、少なくとも週休一日、もしくはもうちょっと長くなる可能性もありますから、当然余暇に使うものを持って行くことができるんですけれど、今回は短期ミッションで、地球を見るというのが一番の余暇の過ごし方でした。でもそれ以外にも、着陸が延期されて、ミッドデッキで普段考えもしないような遊びをみんなで考えついたりしたんです。というのは、遊び道具が全くなかったんでね。
ミッドデッキのところに空調のファンが付いていて、壁の所に噴出口が付いているんですが、その噴出口のすぐ外側にいろいろな荷物が置いてあるので、荷物で空気の流れが妨げられないようにその噴出口に長い筒上のものが取り付けられていました。で、誰かがチョコレートボールをその筒の中に投げ入れたら、投げ込む初速度によって長い筒の中から出てくる空気で押し戻されて筒の出口から出てくるスピードが違う事に気付きました。10個くらいチョコボールを投げ入れて、大砲の玉のように出てきたところで、みんなで食べるとか(笑)。あるときはバッティングセンターとか言って…。
自由時間には、昼寝もよかったですし、地球を見ることもよかったんですけれど、チョコボールやアーモンド等を互いに投げ合ってパクッと食いついて食べるのも面白かったのですが、ちょうど空気の噴出口があるから、あそこに入れたらどうなるか。最初誰かが一つやってみて、あ、これは面白いなって。じゃあ誰かが今度は10個入れてみようとか、そういうふうに次々と。当然遊び道具ではないのですが、あるもので面白い遊びを考え付きながら、自由時間の一部を過ごしました。
だから、例えば粘土も、そこから何かを作っていく。まず最初は、地球とは違う現象がないかという事に注目しながら、じゃあこういうこともできる、ああいうこともできるということを考え付きながら、何か物を作っていくというのかなー。そういうこともできるんじゃないのかな。今回のチョコボールのバズーカ砲は、空気噴出口の思いもよらない使い方になりましたが、そういうふうに、意外なところで新しい遊びが発見できると思います。

井上:粘土は、一度却下されました(笑)。

若田:あ、そうなんですか?

井上:土井さんのときに、最初、僕らが粘土を使うことを提案したら、もう検査にまにあわないからだめだと言われました。
今のお話聞いていて思うのは、毛利さんもそうでしたし、若田さんのコーヒーも、先ほどのお話もそうですけど、みんな食べ物で遊んでいるんですね。ということは、一番手っ取り早いのは、食べ物を造形材料として使う、あるいは造形材料として使える可能性をいろいろ考えるというのがいいのかな、と。

若田:使いやすいというか、食べ物だとカテゴリーが違うんで、持っていきやすいということがあるんですね。

井上:食べちゃうと使えないですけど(笑)。

若田:それは、私はそういう着眼点はちょっと持ったことなかったですけど、それはグッドポイントですね(笑)。おっしゃる通りです。それは本当にそうです。

井上:われわれが若田さんなり毛利さんの遊び心というかクリエイティビティを見るのに、何で見るかというと、やっぱり物を転用する仕方なんですね。そういうことに使ってはいけないものを使っちゃうところが、一つのクリエイティビティだと思うんですね。

若田:あのー、必要に迫られてなんですが(笑)。

井上:でも、宇宙飛行士のみなさんはすごくそれに長けていらっしゃるので、何かそこでわれわれの提案とつながっていったら、かなり大きな規模のことでも、いわゆる任務に差し障りのない形でできないかなあということで探ってまして、いろんな材料とか聞いて集めたりしているんです。

松井:僕はパスタのことを考えたんです。パスタでできないかなと。

若田:あー、そうですね。うどんなんかもね(笑)。食べてもおいしいでしょうから。

井上:若田さんはシコを踏まれましたが、土俵もね、造ってもらったらどうかと。それもゲームのようにやった方がいいだろう。さっきもお話にあったように、いろんな文化の人がいるので、みんなで楽しめるものがいい。

若田:そうなんですよね。

井上:例えば三次元のビリヤードとか、そういったゲーム的なもので、やっているうちに次々と発展していくようなものがあっていいと思いますね。むしろヒントをいただけたらと思うんですが(笑)。

若田:そうですね。今まで経験した中でちょっと思い付くのは、今申し上げたようなものなんですが、ただ時間的な余裕というのが問題ですねえ。国際宇宙ステーションで長期滞在になれば、それは確実にありますね。
あとは何か、却下された提案って何ですか。

井上:(笑)却下されたというか、もう一笑に付されたのは、前、土井さんが船外活動で日本人で初めて宇宙空間に出られるということで、これは歴史的な瞬間であると。ぜひその、日本人としてそこで何かぜひやってほしいということで、先ほどの鯉のぼりに似たようなことをいろいろと提案したんですけど、ああいう緊迫した時間にそんなことは絶対にできない。

若田:最初は、そうですね。

井上:あれしてもダメ、これしてもダメと言われたもんですから、じゃあ何もしないという時間を持って下さいという提案を送りました。一切の任務から外れて、じーっとしている。その間の自分の経験みたいなものをじっくり味わっていただいて、それをまたわれわれに伝えてほしいということだったんです。ところが逆にああいう事故が起こりまして、土井さん、6時間もずーっとこうされてましたよね。そうすると逆に、何もない時間というよりも、待つということの中で全部時間を吸い取られたというお話をお聞きしまして。
そういうフワーと浮いた時間にどんなことを感じられたかということも、次の時代の芸術の感性につながっていくのではないかと思っています。先ほどのお話の余暇も、ただ時間つぶしという意味だけではなくて、何かふっと自分のアイデンティティみたいなものを確認できるような、そういった時間をどうやって作れるのか、そこに芸術があるのかもしれないなあと思うんですが。

若田:ああ、そうですね。

池上:ちょっと立場が違うんですが、一つご質問します。環境デザイン――建築とか空間設計を担当しておりまして、そういう目で見ますと、今のスペースシャトルとかは、まだまだデザインが足りないという感じがするんです。若田さんはやっぱり技術者ですから、ロボットアームの操作のスペースとか含めて、操作空間としての満足度はどうでしょうか。それからシャトルは生活空間でもあって普通に生活しているわけですから、生活空間として実際使われる立場から満足されていないようなこと、こういうところをこうしたらどうかとか、感じられたことありますでしょうか。

若田:スペースシャトルの操縦系統とか、ロボットアームにしてもそうですけれども、技術的に操作性を若干向上させるために、こういう表示がほしいとかそういうのはあります。
一般的な生活空間ということに関しては、食卓かな。今ロシアのサービスモジュール「ズヴェズダ」という居住棟には食卓、「卓」がありますが、スペースシャトルの中には、操縦室もそうですし、ミッドデッキもそうですし、また宇宙ステーションの中もそうですけど、「卓」がないんです。食べ物は全部、ベルクロテープで壁等に付け、食べるものだけを手で持って食べます。落ち着いて物を食べるというか、お茶碗等が自分の前に揃っていて、「いただきます」と言って食べて、「ごちそうさまでした」と終わるというよりも、自分の周りの壁などいろいろなところに貼り付けてあるものを取って食べて(笑)、カレーライス食べるのも、ご飯はどこかに貼り付けておいて、まずカレーをちょっと食べてそのパッケージをどこかに貼り付け、ご飯のパッケージを取って食べるというように御飯とカレーのパッケージを交互に持って食べるような形になります。
国際宇宙ステーションの居住棟には卓がありますが、長期滞在する時には、その卓を使ってゆっくりと食事をとりたいですね。長期滞在になると、そういう生活のゆとりも必要になってくると思います。シャトルの短期フライトで分刻みの作業スケジュールでキャンプ生活のようなことをやっていると、食事のときくらいもうちょっと余裕持って、みんなでクルーがまとまって、顔を合わせて食事ができるといいのになと思います。

中原:一つだけ質問よろしいですか。ここへ来る途中で他の先生としゃべってたんですけど、昨日、深夜映画で『スタートレック』というのをやっていまして、それを観てると、実は『スタートレック』の中って、重力が働いているなかで生活してますよね。その中に「ホロデッキ」っていうのがあって、いろんな既存の風景を映したりしてリラクセーションに浸かったりする。そういう未来像はどう思われますか。今、私たちは逆に無重力であることの魅力であるとか、宇宙空間にいるということの特殊性みたいなものの中に、何か見つけようとしているんですけど。実は相対的にもう1回、そういう世界が合うのかどうなのか、その辺よければお聞きしたいんですが。

若田:宇宙でなくても、外国で生活していると、私もアメリカで長い間訓練受けてるんでつくづく感じますが、一般的には、生まれ育った環境が一番住み心地がいいんじゃないかなと感じます。例えば幼い頃から慣れ親しんだ食べものが、好みの食べ物になるだろうし、シャワーだけでなく、ゆっくり温泉やお風呂に入りたいとしばしば感じるようにやっぱり僕は日本人だなーと思う。ですから、、将来宇宙で生活していく人たちが、宇宙で生まれて、そして逝く人だったら、その宇宙環境のとらえ方は今の地球人とは違うと思いますが、地球のような重量加速度があるところで、緑があって海があって山があって、そういうところで生まれ育った人は、必ずそのような環境を求めるのかなという感じがします。
現時点で、宇宙で生まれて世代が交替して進んでいくという状況に至っていないので、そこを予見するのはちょっと難しいのかなと思います。私は、今まで自分が外国で生活した経験とか、宇宙で、新たな環境でいろいろ生活したとしても、やはり本当に今まで生まれ育った環境というか、地球の緑とか、おいしい空気、川のせせらぎ、お風呂に入るとか、寿司を食べるとかを欲すると思いますし、そういう意味で、国際宇宙ステーションになったとしても、長期の閉鎖環境で人間、例えば日本人が生きて行くときの心の支えになるものの一つは、やはり地球を見れること、日本を見れること、それと、本当に日本のニュースを日本語で聞けるとか、日本の食べ物が食べられるとか――食生活というのはすごく大切だろうと思います――日本の音楽を聴けるとか、そういうことが大切で、心の支えになると思います。

中原:実際、地上にいる家族と直接話せたり、そういう計画とかはあるんですか。

若田:はい。スペースシャトルでも宇宙ステーションでもそうですけど、宇宙ステーションでは週1回、シャトルでは今回私2回でしたけれども、配偶者とテレビ会議ができます。ただ今回、テレビ会議をするシステムが壊れていたので、音声だけになってしまったんですけど。通常は双方向のテレビ会議で、相手の顔を見ながら交信ができるようになっています。

井口:話は尽きないですが、そろそろ時間です。若田さん、おそらくこれから手紙等のやり取りも、きっとお顔が浮かんでいろいろできると思います。また機会があると思いますが、よろしくお願いします。みなさん、ありがとうございました。

(了)

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