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若田光一飛行士 2001[3] |
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松井:彫刻やっている松井といいます。ずっと気になっていたのは、一体素材としてどういうものが使えるのかということと、それからどういうことがどういう時間にやっていただけるのかということでしたので、今日お会いしてすごくよくわかったんですけど。僕たち、鯉のぼりのプランだとかいろいろなプラン、小さいプランをいっぱい出しているんですが、最終的には、何というか――宇宙というものがこんなものであるというのを直感的に理解できるような、オブジェクトなり何か視覚でもって僕たちが理解できるような、そういうものを計画したいんですよ。そういう中でいろいろな、実際に鯉のぼりであるとか、アームでこうくっつけたりとか、ものを描いたりだとか、そういうものの中でどういうことができるのかというのを、僕たちの積み重ねとしていろいろな方にやっていただきたいというのがあるんです。 若田:そうですね、確かに、今の粘土って言うのは、視覚に訴えるところがありますね。 松井:ただ、その落っこちるということだけだと、ただの現象。まあそんなものか、宇宙ではそんなふうになるのかということだけなんですが、そこから始まって、何というのかな、例えばロビンソンクルーソーみたいなもので、無人島に流れ着いて、何もないところから何かを始める。そういうふうに、大人なんだけれども、子どもになって――宇宙飛行士の人にそんなこと言ったら失礼かもしれないんですけれども――自分が使えるようなものを作り上げていかなければいけないという、そういう状況っていうものが何かできないかなーと考えているんです。 若田:そうですね。確かに遊び心って言うのは大切です。実は先ほどは申し上げませんでしたが、みんな子どもだなーと思った瞬間はあったんですね。国際宇宙ステーションみたいに長期滞在になると、少なくとも週休一日、もしくはもうちょっと長くなる可能性もありますから、当然余暇に使うものを持って行くことができるんですけれど、今回は短期ミッションで、地球を見るというのが一番の余暇の過ごし方でした。でもそれ以外にも、着陸が延期されて、ミッドデッキで普段考えもしないような遊びをみんなで考えついたりしたんです。というのは、遊び道具が全くなかったんでね。 井上:粘土は、一度却下されました(笑)。 若田:あ、そうなんですか? 井上:土井さんのときに、最初、僕らが粘土を使うことを提案したら、もう検査にまにあわないからだめだと言われました。 若田:使いやすいというか、食べ物だとカテゴリーが違うんで、持っていきやすいということがあるんですね。 井上:食べちゃうと使えないですけど(笑)。 若田:それは、私はそういう着眼点はちょっと持ったことなかったですけど、それはグッドポイントですね(笑)。おっしゃる通りです。それは本当にそうです。 井上:われわれが若田さんなり毛利さんの遊び心というかクリエイティビティを見るのに、何で見るかというと、やっぱり物を転用する仕方なんですね。そういうことに使ってはいけないものを使っちゃうところが、一つのクリエイティビティだと思うんですね。 若田:あのー、必要に迫られてなんですが(笑)。 井上:でも、宇宙飛行士のみなさんはすごくそれに長けていらっしゃるので、何かそこでわれわれの提案とつながっていったら、かなり大きな規模のことでも、いわゆる任務に差し障りのない形でできないかなあということで探ってまして、いろんな材料とか聞いて集めたりしているんです。 松井:僕はパスタのことを考えたんです。パスタでできないかなと。 若田:あー、そうですね。うどんなんかもね(笑)。食べてもおいしいでしょうから。 井上:若田さんはシコを踏まれましたが、土俵もね、造ってもらったらどうかと。それもゲームのようにやった方がいいだろう。さっきもお話にあったように、いろんな文化の人がいるので、みんなで楽しめるものがいい。 若田:そうなんですよね。 井上:例えば三次元のビリヤードとか、そういったゲーム的なもので、やっているうちに次々と発展していくようなものがあっていいと思いますね。むしろヒントをいただけたらと思うんですが(笑)。 若田:そうですね。今まで経験した中でちょっと思い付くのは、今申し上げたようなものなんですが、ただ時間的な余裕というのが問題ですねえ。国際宇宙ステーションで長期滞在になれば、それは確実にありますね。 井上:(笑)却下されたというか、もう一笑に付されたのは、前、土井さんが船外活動で日本人で初めて宇宙空間に出られるということで、これは歴史的な瞬間であると。ぜひその、日本人としてそこで何かぜひやってほしいということで、先ほどの鯉のぼりに似たようなことをいろいろと提案したんですけど、ああいう緊迫した時間にそんなことは絶対にできない。 若田:最初は、そうですね。 井上:あれしてもダメ、これしてもダメと言われたもんですから、じゃあ何もしないという時間を持って下さいという提案を送りました。一切の任務から外れて、じーっとしている。その間の自分の経験みたいなものをじっくり味わっていただいて、それをまたわれわれに伝えてほしいということだったんです。ところが逆にああいう事故が起こりまして、土井さん、6時間もずーっとこうされてましたよね。そうすると逆に、何もない時間というよりも、待つということの中で全部時間を吸い取られたというお話をお聞きしまして。 若田:ああ、そうですね。 池上:ちょっと立場が違うんですが、一つご質問します。環境デザイン――建築とか空間設計を担当しておりまして、そういう目で見ますと、今のスペースシャトルとかは、まだまだデザインが足りないという感じがするんです。若田さんはやっぱり技術者ですから、ロボットアームの操作のスペースとか含めて、操作空間としての満足度はどうでしょうか。それからシャトルは生活空間でもあって普通に生活しているわけですから、生活空間として実際使われる立場から満足されていないようなこと、こういうところをこうしたらどうかとか、感じられたことありますでしょうか。 若田:スペースシャトルの操縦系統とか、ロボットアームにしてもそうですけれども、技術的に操作性を若干向上させるために、こういう表示がほしいとかそういうのはあります。 中原:一つだけ質問よろしいですか。ここへ来る途中で他の先生としゃべってたんですけど、昨日、深夜映画で『スタートレック』というのをやっていまして、それを観てると、実は『スタートレック』の中って、重力が働いているなかで生活してますよね。その中に「ホロデッキ」っていうのがあって、いろんな既存の風景を映したりしてリラクセーションに浸かったりする。そういう未来像はどう思われますか。今、私たちは逆に無重力であることの魅力であるとか、宇宙空間にいるということの特殊性みたいなものの中に、何か見つけようとしているんですけど。実は相対的にもう1回、そういう世界が合うのかどうなのか、その辺よければお聞きしたいんですが。 若田:宇宙でなくても、外国で生活していると、私もアメリカで長い間訓練受けてるんでつくづく感じますが、一般的には、生まれ育った環境が一番住み心地がいいんじゃないかなと感じます。例えば幼い頃から慣れ親しんだ食べものが、好みの食べ物になるだろうし、シャワーだけでなく、ゆっくり温泉やお風呂に入りたいとしばしば感じるようにやっぱり僕は日本人だなーと思う。ですから、、将来宇宙で生活していく人たちが、宇宙で生まれて、そして逝く人だったら、その宇宙環境のとらえ方は今の地球人とは違うと思いますが、地球のような重量加速度があるところで、緑があって海があって山があって、そういうところで生まれ育った人は、必ずそのような環境を求めるのかなという感じがします。 中原:実際、地上にいる家族と直接話せたり、そういう計画とかはあるんですか。 若田:はい。スペースシャトルでも宇宙ステーションでもそうですけど、宇宙ステーションでは週1回、シャトルでは今回私2回でしたけれども、配偶者とテレビ会議ができます。ただ今回、テレビ会議をするシステムが壊れていたので、音声だけになってしまったんですけど。通常は双方向のテレビ会議で、相手の顔を見ながら交信ができるようになっています。 井口:話は尽きないですが、そろそろ時間です。若田さん、おそらくこれから手紙等のやり取りも、きっとお顔が浮かんでいろいろできると思います。また機会があると思いますが、よろしくお願いします。みなさん、ありがとうございました。 (了) |
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