実験の背景
海で誕生した生命が、最初に陸上に上がったのが5億年前。陸上生物の先駆けとなった植物は、長い時間をかけて陸上環境に適応してきました。中でも重力に打ち勝って成長するために、体の構造や機能を変化させたことは、植物の進化にとって大切な意味を持っています。
陸上に適応した植物がどのように重力に反応するかは、2回の宇宙実験により調べられました。1998年のRice実験(※1)では植物体を支える細胞壁の働きが、また2008年のResist Wall実験(※2)では、細胞壁の構造を内側から支えている微小管を構成するタンパク質の役割が明らかになりました。本実験では、さらに細胞を構成する様々な成分の働きに着目して、重力を感じてから反応するまでの一連の過程でどのようなことが起きているかを明らかにしていきます。
※1 微小重力環境における高等植物の成長調節機構 ―細胞壁代謝の変化―
※2 植物の抗重力反応における微小管 −原形質膜− 細胞壁連絡の役割
実験の目的
植物が重力を感じてそれに対応する。ちょっと複雑なことのように思えますが、その流れは非常にスムーズです。例えば人間が話をするとき、目と耳で情報を得て、頭で考え、口から言葉を発する、という一連の行為が体の中で行われています。それと同じように植物の中では、①重力を感じる、②それを他の部分に伝える信号を送る、③信号を受け取って体を変化させる(細胞壁を強くする)、ということが行われていると考えられます(図1)。
そこで、本実験では、シロイヌナズナの野生型と様々な突然変異体を微小重力下で生育させます。重力がなければ、反応に至るまでのそれぞれの過程がストップするはずです。このように微小重力下で生育させたシロイヌナズナを、地上あるいは宇宙の人工重力下で生育させたものと比較して、その成長のようすから遺伝子の働きや細胞内の変化(図2)に至るまでを詳しく調べます。 |