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実験の背景


私たち地球上の生物すべてに必要な水。極地では気温が氷点下になるために氷となってしまいますが、そんな過酷な環境下でも数多くの生き物が住んでいます。特に、変温動物である魚や昆虫は、体温が氷点下になっても凍りつくことがありません。体が凍りつくのを防ぐ方法はさまざまですが、中でも特殊なタンパク質(不凍タンパク質や不凍糖タンパク質)が小さな氷の結晶と結合して大きくならないように制御することは、極地に住む多くの生物で確認されています。


もしこのタンパク質がなければどうなるのでしょうか。生物の体内で発生した氷はどんどん大きくなり、やがて体全体が凍りついてしまい、もはや生き延びることはできなくなります。また、大きくなった氷は細胞の組織を破壊してしまうため、温めて氷を融かしても組織が元通りになることはありません。


このように、不凍(糖)タンパク質が氷の結晶成長をコントロールするしくみが解明できれば、冷凍技術の向上や臓器移植への活用など、生活のさまざまなシーンに役立つことが期待されます。

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図1 不凍糖タンパク質を入れた水溶液からできた氷

実験の目的


氷の結晶成長の様子を詳しく調べることで、このような特殊な役割を果たす不凍(糖)タンパク質による氷結晶の成長抑制効果についてより深く理解することができます。


この実験は結晶成長・氷科学の本質的な理解につながる重要な意味を持っています。身近でありながら不明な部分の多い氷について、その界面での分子レベルの構造や結晶成長の過程を調べることで、氷と生体高分子との相互作用を明らかにすることができます。また、生体高分子によって制御される新しい結晶成長のしくみの発見や、それにともなう新しい材料開発法の発展も見込まれています。


こうした実験は地上でも行われています(図1)が、結晶がつくられる過程でどうしても重力によって発生する熱対流や自重の影響を受け、結果の解釈が困難になってしまいます。「きぼう」の微小重力下ならこうした作用はほとんどないので、結晶の成長や解析には最適なプラットホームといえるでしょう。

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