最終更新日:2015年4月8日
実験の背景 宇宙環境での滞在において最も関心の高い人体影響には、宇宙放射線被ばくによる発がんと継世代影響があります。マウスやラットなどの哺乳動物を用いて宇宙放射線による生物影響を個体レベルで調べる研究は、人体への放射線影響の基礎データとなります。 JAXAでは凍結細胞を使った宇宙環境の次世代への影響を調べる実験を国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟において実施中です。表1に示すように本テーマも含めて「凍結細胞の宇宙環境影響」に関する3テーマを実施しています。 @Stem Cells 実験のES細胞
2009年に行われた実験の結果、細胞は凍結状態でも宇宙放射線の影響を受け、影響を詳細に解析できることが分かりました。(Rad GeneとLOH実験) 実験の目的 国際宇宙ステーション(ISS)の船内環境で一定期間凍結保存したマウスの受精卵を地上に持ち帰り、地上において個体発生後、寿命、発がんおよび遺伝子変異(染色体、突然変異)を解析します。 本実験では、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」船内実験室内でマウスの凍結胚(受精卵2細胞期)を約6ヶ月(予定)保管した後、地上に帰還させ、その受精卵を発生させて宇宙放射線被ばくによる個体発生、寿命、発がん、遺伝子変異および継世代影響を調べます。使用するマウスの系統は、野生型、遺伝的に放射線に感受性の高いマウス、がんになりやすいマウスおよび遺伝子突然変異解析用マウス等です。これにより、月・惑星などの将来の宇宙活動を見据えた、より長期的の宇宙滞在における哺乳動物への影響に関する知見を獲得し、宇宙環境における放射線防護のための基礎情報を獲得できます。
(+/+, +/-, -/-)は当遺伝子の有り(+)無し(-)を示す。 実験内容 実験の流れを図4に示します。系統毎に受精卵を20-50個ずつを入れて凍結させたチューブ100本をケースにおさめ、緩衝材で保護します。その後、凍結状態のまま米国ケネディ宇宙センターに輸送します。米国のISSへの物資輸送を行う宇宙船SpaceX社のドラゴン補給船6号機により国際宇宙ステーション(ISS)に打上げ、「きぼう」日本実験棟にある冷凍庫(MELFI)に保管します。6か月〜1年程度の保管後、ドラゴン補給船8号機で地上に回収し、個体発生および発生後の寿命や発がんへの影響および遺伝子変異を調べます。 図4 実験の流れ JAXA提供 図5 使用する器具 JAXA提供 ココがポイント! 本実験の成果は、国際宇宙ステーション(ISS)での複雑な放射線環境がもたらす哺乳類への影響を調べ、月・惑星などの将来の宇宙探査における宇宙放射線リスクの評価や防護基準の策定といった、宇宙放射線の管理技術に応用できる可能性があります。 試料として使うマウスの受精卵は地上の実験室では劣化を防ぐため-150℃以下で保存するのが一般的です。この方法での保存には液体窒素が使われますが、国際宇宙ステーション(ISS)ではその方法は難しく、およそ-95℃の冷凍庫に保管することになります。この-95℃というのは受精卵の保存としては温度が高く、宇宙放射線の影響を調べる以前に保存温度による出生率の低下が心配されました。そこで本実験では、凍結保護剤を溶液に入れてゆっくりと(緩慢)受精卵を凍結する緩慢凍結法を宇宙実験用に適用し、「きぼう」の船内実験室に設置されている冷凍庫(-95°C)の条件で受精卵を一定期間、安定して維持出来ることを初めて確認しました。この凍結技術は本宇宙実験を可能にするだけでなく、受精卵以外の細胞試料にも応用でき、医療用に提供するための生物材料の保存や必要な時に迅速に治療を開始する手段としても役立つと考えられます。 by Sachiko Yano |
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency | サイトポリシー・利用規約 ヘルプ |