このページは、過去に公開された情報のアーカイブページです。リンク切れや古い情報が含まれている可能性があります。また、現在のWebブラウザーでは一部が機能しない可能性があります。
サイトマップ

宇宙実験サクッと解説:Rad Silk編


宇宙実験調査団のピカルが宇宙放射線実験を大調査!

実験提案者の古澤先生とも
仲良しの物知りハカセに聞きました。

ハカセ

ピカル

ピカル:

こんにちは、ハカセ。 国際宇宙ステーション(ISS)では、もうすぐRad Silk実験が始まるみたいですね。 どういう実験なのか教えてもらえますか。

ハカセ:

うむ。 ひと言で言ってしまうと、宇宙放射線が生物にあたえる影響を調べる実験なんじゃ。

ピカル:

生物を使った宇宙放射線の実験って、今までにもやっていますよね。 え〜っと、確か、Rad GeneとかLOHとか。

ハカセ:

おお、よう覚えとったのう。 感心、感心。 Rad GeneとLOHはどちらもヒトのリンパ球を使って実験したんじゃが、今回の目玉は個体を使うという点じゃ。 宇宙にカイコの卵を打ち上げて3ヶ月間保存し、それを地上に持ち帰って宇宙放射線の影響を調べようというわけじゃ。

ピカル:

へえ〜。 でも、なんでカイコなんですか。 生物なんて、それこそ何百万種類もいるのに。

ハカセ:

そりゃあ、カイコが日本のお国芸だからじゃよ。 わが国には太古から連綿と受け継がれてきた絹文化がある。 江戸時代末にはカイコの科学的な生産技術が築かれ、明治時代には世界中に絹織物を輸出しとったのじゃ。


図1 京都の西陣、群馬の桐生、山形の米沢など、江戸時代には各地に絹織物産地が形成され、華やかな着物文化が花開いた。

このため、遺伝学、生理学、病理学など、カイコに関する学問も発展し、最近では遺伝子工学的な手法により、カイコの遺伝子配列もわかってきておる。

ピカル:

なるほど、そういう訳だったんですか。

ハカセ:

しかも、カイコの卵は小さいので、大量に宇宙に持って行くことができる。 2万個持って行ったとしても、たったの10グラムほどじゃ。

ピカル:

そうか、スペースが限られる宇宙実験では、小さいってことが重要なんだ。


図2 カイコの卵と、卵の殻を食い破ってでてきた幼虫(宇宙実験では、卵は孵化させない)。

ハカセ:

それだけじゃないぞ。 カイコの場合、休眠に入った卵を5℃に冷やしておくと約1年間、0℃では約2年間も生き続ける。 つまり、卵の状態のまま長期間の宇宙実験が可能なんじゃ。

ピカル:

カイコって宇宙実験にはもってこいの生物なんですね。 ところでハカセ、宇宙放射線の影響はどうやって調べるんですか。

ハカセ:

皮膚を黒くする遺伝子をもつ系統のカイコにX線を照射すると、黒い皮膚に白い斑点(白斑)ができることがわかっておる。 宇宙ではカイコの幼虫を育てるのは難しいので、ISSで卵を宇宙放射線にさらし、その卵を地上に持ち帰るんじゃ。 その後、地上で卵から孵化した幼虫を約20日間にわたって飼育し、皮膚に白斑がでるかどうかによって、宇宙放射線の生体への影響を調べるというわけじゃ。

ピカル:

Rad GeneとLOHのように遺伝子レベルでの変化もみていくんですか。

ハカセ:

Rad Geneで注目されておったp53(注)という遺伝子、覚えておるかな。 これは多くの生物に共通に認められる、がん研究の鍵となる重要な遺伝子なんじゃが、その一部がカイコにも発見されたので、カイコのp53遺伝子の変化を調べることも計画されておる。

(注)がん患者のがん細胞を調べると、p53遺伝子が正常でないことが多い。 1993年のスペースシャトル・コロンビア号で宇宙飛行をしたラットの筋肉や皮膚に、この遺伝子が蓄積されていたことがわかっている。

ピカル:

へえ〜、それは楽しみですね。 ところでハカセ、これまでにカイコを使った実験ってなかったんですか。

ハカセ:

実は、1997年に古澤先生が代表研究者となって、カイコの卵をスペースシャトル(STS-84)に搭載し、宇宙放射線や微小重力の影響を調べる実験を行っておる。


図3 STS-84実験準備の1コマ。 交尾しやすいよう、蛹をオスとメスにわけている。
左から坂口先生(九州大学名誉教授)、山中氏(日本宇宙フォーラム)、古澤先生

その実験では、莫大なエネルギーをもつ宇宙放射線粒子に曝露した卵と、曝露しなかった卵との2つのグループに分け、孵化した幼虫を1匹ずつ個別に飼育したんじゃ。 そして、突然変異や異常の発生率と宇宙放射線の被曝量との因果関係を調べた。

ピカル:

それで、どんなことがわかったんですか。

ハカセ:

うむ。 この写真からわかるように、体の一部がくっつくなどの異常が多数発生し、その数は地上対照実験で育てた幼虫(地上群)のおよそ2.5倍にのぼったんじゃ。


図4 カイコに発生した異常の例。
左:斑紋が1対多い。右:体節がくっついている。

ピカル:

2.5倍も!?

ハカセ:

それだけじゃないぞ。 実は、異常の発生は宇宙放射線の被曝量とは関係がなかったんじゃ。

ピカル:

えっ!? どういうことですか? じゃあ、一体どうして異常が発生したんだろう。

ハカセ:

おそらく微小重力の影響ではないかと考えられておる。 実は、カイコの赤ちゃんは、卵のなかで成長していく過程で寝返りを打つんじゃ。 はじめは外側に向いていた脚が、ある時期に内側を向いて反転する。 その際、ちょうどジッパーが上下から閉まっていくように、うまいこと背中がくっつくんじゃ。 反転に失敗すると、背中のくっつき方に異常が起きると考えられておる。

ピカル:

え〜っと、つまり、反転には重力が関わっていて、微小重力の宇宙では正常に反転が行われず、異常が発生したということですか。

ハカセ:

うむ。 古澤先生らはそう考えておる。 そこで今回は、それを実証するために、宇宙放射線だけでなく、カイコの成長における微小重力の影響もきっちり調べることにしたんじゃ。 日本の宇宙実験棟「きぼう」に設置された細胞培養装置(CBEF)には、「微小重力実験用トレイ」のほかに、人工的に地上と同じ重力を作りだす「荷重力実験用回転テーブル」がついておる。 この2つを同時に使って実験すれば、同レベルの宇宙放射線に曝露させながら、重力のあるなしで異常の発生率がどう違うか、比較検討できるというわけじゃ。

ピカル:

きぼうの実験装置って本当によくできてますね。 この実験で、微小重力と宇宙放射線の影響について、たくさんの発見がありそうで楽しみです。 ハカセ、今日はどうもありがとうございました。

もっと知りたい サクッと解説番外編 キラリとハカセのQ&A


Rad Silkトップページへ | 「きぼう」での実験ページへ | ISS科学プロジェクト室ページへ

 
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency サイトポリシー・利用規約  ヘルプ