宇宙放射線によるミトコンドリアの活性化と細胞への影響を確認
図1 宇宙放射線によるミトコンドリアの活性化
この実験では、きぼう内に設置されている細胞培養装置の無重力環境区と、遠心加速器を使って地上と同じ重力を与えられる1G重力区で14日間及び28日間細胞を培養した後、化学処理、あるいはきぼう内の冷凍庫で凍結させて地上に持ち帰りました。細胞が放射線に被ばくすると、細胞DNAに変化(DNA切断、突然変異)がおきる事が知られています。また、細胞の中にあるミトコンドリアから活性酸素が出て、それによる酸化ストレスでアポトーシス(計画的な細胞死)をひきおこします。このことは、本実験の代表研究者が世界で初めて報告した現象です。図1に放射線による細胞からの活性酸素の発生とアポトーシスの要因になるミトコンドリアの活性化を示します。
ISS軌道上の宇宙放射線線量を測定したところ、1日あたり約0.48mSv(ミリシーベルト)(0.20 mGy )という値が得られ、14日間でおよそ6.7 mSv(2.7 mGy )、28日間で13.4 mSv(5.5 mGy )の被ばくという結果になりました。
ISSから戻って来た凍結細胞を解凍して再び培養したところ、細胞の状態は良好でした(図2)。地上で同様の凍結・解凍を行う条件で対照実験を行った細胞と比較して、ISSから戻ってきた(宇宙放射線にさらされた)細胞では、ミトコンドリアから生じた活性酸素の発生が多いことがわかりました(図3)。
図2 宇宙から戻って来た細胞
図3 活性酸素発生(緑色の部分)
細胞は、活性酸素が細胞の中で発生してもそれを消去する酵素をいくつか持っています。その酵素についてもいくつか調べたところ、ミトコンドリアに存在し、活性酸素を消去する酵素がたくさんつくられているのがわかりました。しかし、無重力区と1G重力区の間に違いは見られませんでしたので、重力のある/なしはミトコンドリアの活性化には影響しないことがわかりました。また、宇宙で14日間培養した群と28日間培養した細胞の間に明確な違いは認められませんでした。
これらの結果から、宇宙環境、なかでも宇宙放射線はミトコンドリアを活性化させ、酸化ストレスにより細胞に影響を与えることが明らかになりました。
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