長年にわたって宇宙実験の準備を積み重ねてこられたわけですが、辛かったことなどはありましたか。
「なんといっても1997年に種子島で行った『TR-IA』という6分間のロケット実験ですね。 ロケットに実験装置を載せて打上げ、飛行中に得られる微小重力環境を利用して、プリンほどの大きさの液柱を形成する実験で、私が代表研究者でした。
実験後、装置内部を撮影したビデオ映像が戻ってくるというので、関係者一同が集まっての上映会となりました。 皆、期待で胸をふくらませつつ食い入るように画面をみつめていたのですが、いざふたを開けてみたら・・・失敗。
まあ、液柱はできたことはできたんですが、期待していたような理想的な形ではありませんでした。 大いに落胆しましたが、代表者の私がめげていても仕方ないですし、液柱の形がどうであろうと貴重な実験データであることに変わりはありません。
しっかり解析を行って、技術的な問題にも対処したい、というような挨拶をして、なんとかその場をしのいだことを覚えています。 結果的に、この手痛い経験から学んだおかげで、宇宙実験に寄与できた面もあると思っています。
あの時に考えた解析手法を、今回の実験で使う予定ですし。 このMEISシリーズは、言ってみればTR-IAの雪辱戦なんです」
宇宙実験ならではのご苦労は多いんでしょうね。
「ロケットと違って、きぼうの実験ではクルーのサポートが得られるので、かなり心強いですね。
私たちは地上の管制室からコマンドを打って実験を遂行し、クルーの方々には装置の組立や実験後のクリーンアップといった作業を担って頂きます。
ただ、彼らのサポートにも限界がありますから、あちらでは対応しきれないような不具合が生じたり、足りないものがあったりするとアウト。
地上実験ならいくらでもやり直しがききますが、宇宙実験ではそうはいかない。
そういう意味で非常に厳しい制約があります。
ですから、普段私たちが何気なくやっているような行動、例えばピンセットで何かをつまむとか、そういった細かいところまで意識して考えていかなければなりません。
そのへんは、頭の中でシミュレーションを繰り返しながら、真剣に一個一個の動作を積み上げ、実験手順を組み立てていきました」
MEIS実験はクルーの就寝中に行うそうですね。
「え〜、我々ドラキュラのようなものでして(笑)。
振動が液柱形成に悪影響を与える恐れがあるので、実験は比較的振動が少ないクルーの就寝中に行います。
MEIS-1では、5時頃にチーム全員が集合して、6時半に実験開始、15時半に終了というサイクルで行いました。
時差のおかげで夜中の実験にはならずに済みましたが、普段早朝に慣れていない私には正直きつかったです。
ただ、学生たちは若いだけあって全然へっちゃらで、宿舎に帰ってからも卓球をしたりして(笑)、非常に元気があって頼もしいですね」
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