宇宙でやることのためには万全を期す・・
実験準備が大詰めを迎えたいま、宇宙で経験を積んできたクルーの言葉が心に響く
「よく、毛利さんや土井さんがおっしゃいます。訓練の8割から9割は実際には起こらないことへの対処。それでも、宇宙でやることのためには万全を期さなくてはならない。そして、どんなことが起こっても対処できるようにしておかなければならない、と」
「わたしにはそんなに充分な準備がまだできていませんが、どんなことが起こりうるかをできる限り想定して、JAXAの方々や運用の方々と協力して、良い実験ができるようにしたいという気持で進めています」
宇宙では、実際に自分が手を下すことはできない。研究者に代わり実験装置の操作を行うクルーの目線に立った準備が必要だ。
「クルーインスペクションといって、クルーの方々が、実際にこの実験装置の出来具合を検査されるんですが、そこでとても印象的だったことがあります。そのときのインスペクターは野口さんでしたが、部屋に入ってこられて、まずおっしゃったことは、『この部屋は明るすぎる』っていうことでした。つまり、ステーションの中はこんなに明るくない、だから光を落としなさい。もっと光を落とした中でちゃんと操作ができるかっていうのが大事なんだ、とおっしゃいました」
「それから、技術者の方が、本体に実験装置を差し込む時に、ちょっと当たったので、カチャカチャと回してパッと入れられたんです。すると、『今、あなたはカチャカチャッとして、パッと上手に入れましたが、それは我々にはわからない。どういう感じがしたので、そうやって回して入れたのか。それがはっきりわかるように手順にしてください』って言われました」
「毛利さんに講演をしてもらった時のことを思い出します。パワーポイントを映写する時にコンピュータ操作の簡単なミスをされたのですが、『宇宙飛行士は間違えてはいけない。研究者の役割を担って、宇宙に行って研究者の代わりに実験をするのだから、100パーセント確実にやらなくてはいけない』っておっしゃったんです」
憧れの眼差しで空を見上げていた少年時代。代表研究者として宇宙実験の指揮をとる現在。いま、宇宙という存在は近くもあり、遠くもある。
「近いというのは、本当に宇宙実験ができるから。そういう意味で非常に近くなりました。遠いというのは、起こっている流れを直接には見られないし、宇宙でうまくいかなかった時に、自分が行ってあそこのネジを回せないですよね。あそこに水滴ができた時に、その水滴を取りたい、と思っても取れないですよね。だから、そういう意味では、やっぱり遠いところにあります」
今回の実験を通して、若い世代に宇宙という夢をあたえたい、そう願っている。
「この15年間、こうして準備をしてきたことで、私のようなごく普通の研究者でも宇宙実験ができる、そういうことを若い研究者、それから子供たちに伝えて、自分たちにとっても宇宙は遠くないんだって言うことをぜひ知ってもらいたい。そうして、宇宙に関心を持つ若い人たち、子供たちが少しでも増えてくれればと思っています」
なによりの喜びは、若者と交わり、教え育てること。大学でも、多くの学生が研究室のドアを叩き、巣立っていった。
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