氷の結晶成長機構の解明は、環境問題などグローバルな課題への足がかりとなることが期待される。
これから「きぼう」を使った実験が本格化していきます。
宇宙実験に対する先生のお考えをお聞かせいただけますか。
「宇宙実験は微小重力環境で行われる訳ですが、重力という観点からいえば、地上の重力が1であれば、宇宙では限りなく0に近い、というただそれだけの違いなんです。
微小重力になったことによって、事の本質がガラッと変わってしまうような研究テーマというのは、そうそうないのではないかと思います。
そうはいっても、我々結晶成長の研究者にとって、宇宙実験のメリットはやはり非常に大きいですよ。
地上では、重力に起因する対流などの邪魔が入ることは避けられませんが、宇宙では、重力の影響を排除できるので対流が発生せず、とてもクリアな実験データが得られます。
私は宇宙実験の専門家ではありませんが、微小重力環境をひとつの理想的な研究手段として利用して、いい実験をしたいと思っています」
今後の可能性については。
「人類が宇宙に進出しはじめてから、まだ半世紀ほどです。
ですから、我々研究者が宇宙で何か実験をするという時に、微小重力で起きるであろう現象について、実はほとんど気づいていないのではないかとも思うんです。
微小重力というものを、誰もがもっと日常的に体験できるようになった時、物理現象や生命現象などの色々な現象に対して、本質的にアプローチしていくような実験テーマが生まれてくる気がします。
『きぼう』の本格的な運用をきっかけに、宇宙実験は大きな発展を遂げるのではないでしょうか」
今回の宇宙実験を通して、皆さんに伝えたいメッセージはありますか。
「宇宙実験というのはとても大きなチャレンジで、大変なリスクも抱えています。
失敗することもあるかもしれない。
ただ、そうした試行錯誤の中でこそ、思いもかけない発見があったりして、科学というのはそういうステップを踏んで発展していくものなんです。
現在、中高生の科学離れが問題視されていますが、宇宙実験は幸いにして世間の大きな注目を集めています。
一連の実験を通して、科学とはどういうものか、どうやって発展していくのか、そういったことを若い世代に目の当たりにしてもらって、たとえ一人でも、科学の世界でチャレンジしていこうと思う人が出てきてくれれば、非常にうれしいですね」
今後の研究はどのように発展していくのでしょうか。
「我々は氷を扱っていますが、氷というのは実は重要なマテリアルで、地上の表面上にある結晶体としてはいちばん量が多いんです。
南極の氷床も、グリーンランドの氷床も、南極海の氷も、みんな氷ですよね。また、惑星空間にも大量の氷が存在しています。氷でできた、衛星というのもあるんですよ。
氷を扱うということは、惑星空間から地球上までのさまざまな自然現象を理解することに直結する訳ですね。環境問題に関連しても、氷は近年非常に重要な研究対象になってきています。
今後は宇宙実験の成果をもとに、地球上の氷が我々の環境に対して果たしている役割について、グローバルな視点からアプローチしていきたいと考えています」
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