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Q34 Q33の実験では、ガラスの材料が炉の中心から動かないように、何らかの方法で材料を空中に固定する必要があった。どのような方法でガラスの材料を空中に固定したのだろうか? もちろんガラスの材料にふれてはいけない。
音が空気中を伝わるときは、音源の振動にあわせて空気の濃い部分と薄い部分ができ、それらが交代で次々と発生する。空気の濃い部分を「谷」、薄い部分を「山」とすれば、音もふつうの波と同じように考えることができる。これが音波だ。 「ふわっと '92」では、音波を使ってガラスの材料を空中に固定した。原理図を右に示す。 下のスピーカー(音源)から出た音波は、上の壁で反射して戻ってくる。音波の周波数を調節すれば、下から出た波と上で反射した波が重なり、波の動きが止まった状態をつくることができる。 この状態で、空気の濃さの変化がもっとも小さい安定な部分に物質を置くと、物質はその位置から動かなくなる。 地上ではごく軽いものしか固定できないが、無重力では重さがないから、ガラスの材料を空中に固定することができたのだ。 ただし、温度が変わると音波の進む速さが変わるから、物質をふつうの温度で固定できる周波数と、高温で固定できる周波数とは異なる。周波数の調整のむずかしさがこの固定法の泣きどころだ。 なお、空中固定法には、このほかにも次のような方法がある。 (1)物質に磁力を与え、コイルで作った磁場との反発力で固定する。 (2)物質を帯電させ、電気的反発力で固定する。 (3)気体を吹き付けて固定する。 ただし、(1)は電気を導く物質に限られる。また、(3)は温度が下がるので、加熱実験には向かない。 Q35 水と油が分離したタイプのドレッシングがある。このドレッシングのビンを振ると、水と油は一時的に混ざるが、すぐ分離してしまう。このドレッシングのビンを宇宙船内で振ると、混ざった水と油は分離するのだろうか? (1) 地上と同じように分離する。 (2) 混ざったままで分離しない。 A35 (2)。分離しない。 「水と油の仲」といわれるほど、水と油は混ざりにくいものの代表だ。しかし、よく振ると、水も油も細かい粒になって、一時的には混ざる(分散する)。 ただ、水は油より重いので、水の粒は下に移動し、粒が集まって水の「層」をつくる。同様に、油は上に移動し、油の「層」をつくる。こうして水の層と油の層とに分離してしまう。 無重力では、重さに違いがないから、水は下に移動しないし、油も上に移動しない(そもそも上も下もないのだ)。したがって、水も油も細かい粒になったままで、均一に分散する。 水と油を混ぜる実験は、1973年にスカイラブ宇宙船で行われた。地上では10秒程度で分離した水と油が、宇宙では10時間たってもまったく分離しなかった。 Q36 下の図1は、地上でろうそくが燃えている写真である。ところが無重力でろうそくを燃やすと、図2のように炎の形が丸くなってしまう。なぜだろうか?
A36 あたためられた気体が上にあがらないから。 ろうそくが燃えるようすを、図を使いながら順をおって説明しよう。 固体のろうはあたためられて液体になり、図のaの部分にたまる。液体のろうは毛細管現象で芯を上がり、先端(bの部分)でさらにあたためられ、気体のろうになる。この気体のろうが空気中の酸素と反応して燃えるのだ。 あたためられた気体は膨張しており、ふつうの温度の気体より軽く、上にあがっていく。また、周囲のあたためられた空気も、図の矢印 のように炎にそった流れをつくる。このため、ろうそくの炎は長くのびた形になる。 無重力では、温度が高い気体とふつうの温度の気体のあいだに重さの違いがない。したがって、あたためられた気体は上にあがらない。このため、炎は長くのびず、丸くなってしまうのだ。 Q37 無重力でろうそくに火をつけると、そのまま燃え続けるだろうか? (1)地上と同じように燃え続ける。 (2)すぐに消えてしまう。 (3)条件によって燃え続たり、消えたりする。 A37 (3)条件によって燃え続けたり、消えたりする。 Q36で述べたように、無重力では温度が高い気体とふつうの温度の気体との間に重さの違いがないので、対流が起こらない。このため、燃焼によってまわりの酸素が使われても、新鮮な空気が供給されず、ろうそくの火はすぐに消えてしまう…とこれまでは考えがちであった。しかし、スペースシャトルやロシアの宇宙ステーション「ミール」で行われたろうそくの燃焼実験では、45分間燃え続けた例も報告されている。これは、「拡散」により酸素が供給されたからだ。 物質の濃度が場所によって異なるとき、時間とともに物質の濃度は一様になっていく。この現象を「拡散」という。この「拡散」によって、じわりじわりと酸素が供給されていくため、ろうそくは燃え続けるのだ。ただし、地上で重力がある場合の対流による供給速度に比べれば、無重力での拡散による酸素の供給速度は小さいため、地上に比べて炎の温度は低くなり、また火炎の色も薄暗い青色になる。このように、無重力での酸素の供給速度は、燃焼を維持するぎりぎりの速度であるため、ろうそくのそばに拡散の邪魔になる物があったり、ろうそくを燃やす空間が狭い場合は、酸素の拡散速度が低下するため、火は消えてしまう。また、ろうそくや芯の太さ、長さによっても結果が変わることが宇宙実験の結果からわかっている。たとえば、「ミール」での実験結果によれば、芯が細いろうそくほど、長く燃え続ける傾向があった。NASAでは引き続き実験を行う予定でいる。 イギリスの科学者ファラデーが1860年に書いた「ろうそくの科学」という本がある。ろうそくの火が燃えるメカニズムについて、わかりやすく書かれた名著であるが、無重力での実験は、これまでにない新しい科学知識を加えた「新・ろうそくの科学」を生むことになるかもしれない。いずれにしても、一見単純そうに見えるろうそくの燃焼でさえ、物が燃えるということは、非常に複雑な現象であることを示している。 コラム7 イメージ炉と楕円 Q33の「無容器溶融」は、無重力の特徴を生かした「宇宙でつくる」実験の代表例だが、乗り越えなければならない課題が二つある。その一つはQ34の物質を空中に固定する方法(空中固定法)であり、もう一つがそれをどうやって加熱するか(加熱法)の問題だ。無容器溶融のための加熱法として、「イメージ炉」と呼ばれる装置が各国で早くから開発されてきた。その原理図を下に示す。 光が物質に集まる理由は、反射鏡の形およびランプと物質の位置にある。イメージ炉の反射鏡は楕円(だえん)形で、ランプと物質は楕円の焦点の位置にあるのだ。 板に2本のクギを打ち、糸をとりつけて、下図のように糸を張った状態で鉛筆を動かしていく。このとき描ける図形が楕円であり、クギの位置を焦点という。 楕円にはおもしろい性質がある。「一方の焦点から出た光は、楕円の表面で反射してもう一方の焦点に集まる」という性質だ。イメージ炉は、楕円を回転させた形の反射鏡を2つ組み合わせ、一方の焦点にランプを、もう一方の焦点(2つの楕円の共通の焦点)に物質を置く。こうすれば、ランプから出た光(光も波の一種)は楕円形の鏡の表面で反射して、物質に集まる。 話はそれるが、放物線には、「平行な光は放物線の表面で反射して一点(焦点)に集まる」という性質がある。これを利用したのが衛星放送などを受信するパラボラアンテナ。パラボラとは、英語で放物線のことだ。 最終更新日:2003年12月5日
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