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3章 宇宙でくらす/つくる (4)

コラム8 「無重力の特徴と宇宙実験」 ~3章のまとめにかえて~

 第3章のQ&Aで取り上げた無重力の特徴をまとめながら、それらが「宇宙でつくる」にどのようにかかわっているか述べよう。

(1)表面張力(→Q24
 Q32の歪みのない球をつくる実験が典型的な例だ。

(2)ぬれやすさ(→Q25)
 Q26~Q30の「宇宙でくらす」に関係深いが、思わぬ現象が宇宙実験でも見られた。溶かした材料を冷却し、周囲の基板上に結晶として成長させる実験がおこなわれたときのこと。溶けた材料が基板のすきまからはい出し、基板をぬらしながら裏側にまわってしまったのだ。Q26のコップから水がはい出すのと同じ現象だ。
提供;株式会社宇宙環境利用研究所/第5研究室
地上実験の成果。
黒く見えるのは基板。
無重力実験の結果。白く見えるのは、はい出した材料が基板の裏側で固まったため。 溶けた材料は、基板を
ぬらしながら、はい出
してしまう。

 さいわい、予備実験の段階で気がつき、本番では基板の裏側をぬれにくい素材でおおい、この事態を避けることができた。

(3)無容器溶融(→Q33)
  地上 宇宙  
 高純度ガラスの製造以外にも、不純物の混入をきらう場合に利用される。たとえば、高純度の結晶をつくるとき、材料を一度溶かし、冷やして固めることで、不純物を除く方法がある。地上では溶けた材料がたれてしまうが、無重力ならその心配がない(右図)。

(4)均一混合(→Q35)
 密度の違う物質を混ぜるとき、地上では密度の大きいものが沈み、密度の小さいものが浮いてしまい、うまく混ぜることができない。無重力なら、密度の違うものも、むらなく混ぜることができる。Q35の水と油を混ぜる実験を思い出してほしい。この特徴を利用して、半導体、合金、複合材料などがつくられている。

(5)無対流(→Q3637)

 典型的な例が「電気泳動」。「コラム12」を参照。


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コラム9 「半導体」とは何か

 「導体」とは、電気をよく導く物質のこと。導体の代表は金属の結晶だ。電子の一部が結晶内を自由に動くことができ(このような電子を「自由電子」という)、電気をよく導く。これに対して電気を導かない物質を「不導体」という。不導体の結晶内にも電子は存在するが、自由に動くことができないので、電気を導かないのだ。「半導体」はこの中間の物質と考えればよい。

 「導体」、「不導体」、「半導体」の例を下に示す。実際に使われている半導体は、結晶内に別の物質を少し加え(この物質を「添加物」と呼ぼう)、電子を結晶内で動きやすくし、電気を導きやすくしている。例えば、電子部品の製造に使われているシリコンは、純粋なシリコンの約10万倍の電気を導くが、これはシリコン中に1000万分の1くらいの添加物を加えれば実現できる。日本の人口を約1億とすれば、10人くらいの「異分子」が入っただけで日本の性格がガラリと変わってしまうようなものだ。

 半導体に加える添加物は、何でもよいというわけではない。それなりの条件がある。それどころか、加える添加物の種類を変えることによって、熱や光など、さまざまな刺激に対応して電気を導くような半導体をつくり出すことができるのだ。




物質の電気抵抗


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コラム10 「よい半導体」の条件は

 半導体の性質は、添加物の種類によって決まる。したがって、不純物が混ざってはいけない。その不純物のせいで性質が変わってしまうからだ。ふつうの金属の場合、不純物はPPM(100万分の1)程度まで許されるが、半導体ではPPT(1兆分の1)程度だ。世界の人口は約60億だから、世界中の人のうち1人にもならない。半導体がいかに不純物を嫌うかわかるだろう。

 また、添加物が結晶全体に散らばっている(難しい言い方をすると、均一に分布している)必要がある。極端な場合、添加物のない部分がずっと続いていれば、その部分は半導体の性質を示さないはずだ。添加物があるために、半導体としての性質を示すのだから。このように、添加物の散らばり具合が、半導体の性能を左右する。

 さらに、結晶に乱れがないことも重要だ。結晶に欠陥があると、添加物が結晶全体に散らばることができず、最悪の場合、半導体の性質を示さなくなる。


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コラム11 なぜ無重力で半導体をつくるのか

 「よい半導体」の条件を考えてみると、なぜ無重力で半導体をつくるのかわかるはずだ。

 まず、不純物の混入防止。物質を空中に浮かせることで、容器からの不純物の混入が防げる(→Q33)。

 次は、均一分布。無重力では、重いものも軽いものもよく混ざる(→Q35)。均一分布には好都合だ。

 最後は、結晶の乱れ。結晶が冷えて固まるとき、重力があると上の結晶の重みで下の結晶の形がくずれることがあるが(とうふを重ねていくと下のものがこわれるのと同じ)、無重力ではそのようなことがない。また、無重力では熱による対流がないので(→Q37)、結晶を成長させるとき、熱対流による乱れが起きない。

 以上のように、半導体の結晶をつくるには、無重力は理想的な状態なのだ。

(注)無重力では、熱による対流はないが、温度による液体の表面張力の違いが原因で「マランゴニ対流」という対流が生じることがわかった。したがって、必ずしも上で述べたように簡単にはいかないこともあるが、無重力が魅力的な条件であることに変わりはない。


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コラム12 「電気泳動」における無対流の利用

参考;「宇宙環境利用への挑戦」
    株式会社NECクリエイティブ
 タンバク質や細胞などの電気を帯びた生体物質は、高電圧をかけた電解質溶液中を泳ぐように移動する。しかも生体物質の大きさや電気の量によって、移動距離が違う。

 そこで、容器に高電圧をかけて電解質溶液を上から下に流し、その中に生体物質を入れると、移動距離によって分離が可能になる。

 このような分離方法を「電気泳動」という。原理図を上に示す。

 ところが、地上ではなかなかうまく分離できない。その理由の一つは、高電圧をかけたときに発生する熱で、溶液内に対流が起き、せっかく分離したものが混ざってしまうためだ。

 無重力では対流がなく、電気泳動には絶好の環境。実際、地上よりはるかにうまく分離ができることがたしかめられている。


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コラム13 困った「泡」の始末

 1994年の向井宇宙飛行士の1度目の飛行では、日本人の発案で、電気泳動によるDNAの分離実験がおこなわれた。このとき、困ったことが起きた。電解質溶液内に泡が入ったのだ。実験は泡が入ったまま進められ、規模は縮小したものの、無重力における電気泳動の優秀さが実証された。しかし、なぜ邪魔な泡を取り除かなかったのだろうか? 実は、できなかったのだ。無重力では、泡は液面まで上昇しない。それどころか、液体の外にある空気が液体中に入ることもある。Q25で、地上では水の上にあった空気が、無重力では水中の泡になったことを思い出そう。無重力では、泡は液体中にいすわったまま動かない。Q27のコーラのときも、泡がコーラの中にいすわったまま大きくなるので、まわりのコーラが吹き飛ばされてしまうのだ。

 泡の問題は電気泳動だけではない。宇宙で何かをつくる場合でも問題となる。物質を加熱して溶かしたとき、溶けた液体の中に泡が入ると大変だ。冷やして固めたときに、泡の部分が空洞になるからだ。今のところ、無重力で、液体内にある泡を取り除く決定的方法は存在しない。泡の処理はこれからの宇宙実験の課題の一つである。


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最終更新日:2000年 3月 9日

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