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体力勝負の「きぼう」日本実験棟の開発

EVAの手順や機器を事前に評価する
EVA無重量シミュレーション試験での宇宙飛行士を中心に支援ダイバーとNASDA技術者達
 国際宇宙ステーション(ISS)を今後10年以上運用して いくにあたり、宇宙飛行士の船外活動(EVA)によるISS保全作業は、必要不可欠のものとなります。これらの作業を計画通り実施するため、EVA手順、EVA用工具および支援機器などについて、事前にその評価をする必要があります。そのために行われる試験に、EVA無重量シミュレーション試験があります。

 平成10年8月24日から10月9日にかけて、第4回EVA無重量シミュレーション試験が行われました。右の写真の中央に写っているのは、水中試験用の宇宙服を着た宇宙飛行士です。宇宙飛行士は、水中浮力を利用した模擬的な無重量環境の中で作業を行って、船外活動設計の妥当性を確認する役割を担っています。

 その周りには、宇宙飛行士の作業を支援するダイバーや、試験が円滑に実施できるように試験の準備を行うダイバー達がおり、このダイバー達に混じって、「きぼう」日本実験棟の船外活動設計を担ったNASDAの技術者達の姿も見えます。

NASDAの技術者も潜水作業の訓練を
昇降台により入水する宇宙飛行士
水槽内でEVAのシミュレーションを行う「無重量環境試験設備」
 船外活動設計の妥当性は、実際に作業を行ってみないと確認できない性質のものです。したがって、NASDAの技術者は、宇宙飛行士の傍で作業を観察し、自ら行った設計の妥当性を確認する必要があります。模擬的な環境とはいえ無重量環境を体感するこのような潜水作業は、技術者にとって、これまでの衛星やロケット開発では経験しなかった新しい業務です。

 水中での作業は、ちょっとした不注意でも事故につながる可能性があることから、潜水を行うNASDAの技術者には、以下の3つのハードルをクリアーすることが求められました。

 まず、1つ目のハードルは、潜水作業にかかる法的な規制、水中での生理的な変化、潜水用具の使い方など、潜水業務に必要な知識を習得することです。このハードルをクリアーするため、NASDAの技術者には、国家試験を受け潜水士の免許を取得することが義務づけられました。

 潜水士の免許は、潜水技能試験を伴わないペーパー・ライセンスです。このため、潜水作業を的確かつ安全に行える技能を取得するという第2のハードルが設けられました。

 ウェットスーツを着て背中にエアタンクを背負い、巧みにフィンを操る潜水技能はもちろん、水中で無重量を体感しながら、宇宙飛行士の作業状態を見つめる技術者としての鋭い観察眼も要求されます。このような潜水技能を身につけるには、民間協会が発行するスキューバ・ダイビングのCカード(認定カード)を取得する必要があり、NASDAの技術者はCカード取得のため、ダイビングスクールに通いつめました。

厳しい訓練で緊急事態に備える
海洋科学技術センターでの訓練風景の一コマ
 潜水作業はいつも順調に進むとは限りません。不注意にもとづく作業ミスや不可避な外部的な要因によって、緊急避難を必要とする事態が発生する可能性があり、むしろ日頃から、このような不測の緊急事態にも冷静に対処できるように備えておくことが重要です。これが第3のハードルで、NASDA技術者は、いかなる緊急事態にもパニックを起こさず、冷静かつ確実に対応できる技量と心構えを得るため、特殊な訓練を受けることが義務づけられました。

 この3つ目のハードルをクリアーするための訓練は厳しいものです。内容は、ベテラン指導員による高度な潜水技術修得のための研修コースで、訓練メニューは、もともと、プロフェッショナルなダイバーを目指す方々向けに設定されたものでした。この訓練は、横須賀市にある「海洋科学技術センター」において、泊まり込みで行われました。

 若干基準が緩められていたとはいえ、それはNASDA職員にとって、気休めにしかならない程度のものでした。錘を体につけてフィンだけで泳ぐ、シュノーケルに上から水を入れられる、水中でマスクおよびレギュレータをはずすなど、緊急事態でもパニッ クに陥らない技能と自信を身につけるための訓練が、5日間にわたり行われました。1日目の訓練で体がバラバラになりそうなぐらい疲労した者、あまりの厳しさに逃げ出したいと思った者、訓練を命じた上司を恨みに思った者、人それぞれ様々な感情を抱きながら、厳しい訓練に耐え抜いたのです。

宇宙開発の技術者に求められる資質とは
 おそらくNASDAに入社した時、自分がこのような訓練を受けることを思い浮かべた者は、1人もいなかったでしょう。しかしながら、有人宇宙システム開発では、宇宙飛行士が使う前に設計者自身がまず使ってみて、その使いやすさを確かめる必要があるのです。

 これまで、NASDAの技術者には、プロジェクトを円滑に進めるための技術力や管理能力といった資質が必要とされてきました。しかしこれからのNASDAの技術者には、これらの能力に加えて、「体力」という新たな資質が求められており、勉強だけの秀才は、有人宇宙開発では通用しない時代になってきたといえるでしょう。

“文武両道”これこそが、いま宇宙開発に携わる人材に求められる資質なのです。

最終更新日:2000年 1月 19日

 
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