バックアップクルーとしての任務(1/2)
さて皆さん、バックアップクルーとしての任務が完了しましたので、今回はバックアップクルーについて書かせて頂きます。とは言っても、ツイッターを読まれている方は、毎日クルーの生活について書いていましたので、既に多くの事をご存じかもしれませんね。一部重複するかもしれませんが、宙亀日記のみを読まれている方もいるかもしれませんので、自由に書かせて頂きますね。
まず、バックアップクルーとは、何かについて簡単に説明させて頂きます。ISSの長期滞在に任命されると、その半年前のミッションのバックアップクルーにもなります。例えば、私は2015年6月頃に開始が予定されている第44・45次長期滞在に任命されていますが、その任命は2014年11月に開始された第42・43次長期滞在のバックアップクルーになる事でもあるのです。バックアップクルーは、プライムクルーが何らかの理由で飛行出来なくなってしまった場合に、そのクルーの代わりに飛行しなければなりません。つまり、長期滞在へのアサインは約2年半前ですが、実際には約2年で飛行の準備を完了しなければならないのです。
この2年の間に、合格しなければならない試験は非常に多くて、私も実は数えてみた事がありません。(今度、時間のある時に数えるか、別の日記で紹介させて頂きますね。)
数多くの試験に合格すると、訓練の内容や成績を精査する会議があり、そこで正式にバックアップクルーとして飛行に必要な知識・技量を持つ事を認定されます。
前置きが長くなりましたが、それでは、バックアップクルーとして承認された後、打ち上げまでの生活・行事について紹介します。
まず、バイコヌール宇宙基地への出発時には、星の街で朝食会があります。朝食会はプライムクルーが関係者を招待する形で行われます。様々な方から挨拶を頂き、その後は皆に見送られながら出発します。面白いのは、朝食会が終わって出発する前に全員で着席する事です。どうやら、皆で準備に怠りが無いか落ち着いて考えるという所からきた習慣のようですね。その後、写真撮影や報道関係者からの簡単な取材を受けた後、出発します。移動は、バスも航空機も全てプライムクルーとバックアップクルーは別々です。それは、万が一の際に、プライムクルーとバックアップクルーを同時に失う事がない様にする為です。今回は、航空機の都合で出発日が別々になりましたが、通常は同日に移動します。
バイコヌールの空港に到着すると、現地の皆さんが大歓迎してくれました。その後、専用のバスに乗込み移動するのですが、入国の手続きなども特別に済ませてくれますし、移動時にはパトカーの先導もついているので、スムーズに移動できるんですよ。
移動を完了して最初の仕事は、ソユーズ宇宙船に乗り込んで、内部の確認を済ませることです。この確認作業は、プライムクルーとバックアップクルーが交代で行いますので、結構時間がかかり終日行われます。(ソユーズ宇宙船は狭いので、1クルーが乗るだけで一杯です)。休憩場所には軽食や飲み物が用意されています。少し甘やかし過ぎのような気もするのですが、これには食中毒の防止という理由があります。食事の安全性を確保する必要性があるので、お医者さんからも、必ず準備されたものを飲食するように厳しく注意されるんですよ。
この、1回目の確認作業が終了した後に、ISSに運ぶための荷物の搭載やロケットの組み立て作業が継続されます。その間に、プライムクルーとバックアップクルーは、必要な知識の再確認や簡易のシミュレータを使用したドッキングの訓練などが行われます。
バックアップクルーは、電話などを使用した取材もありませんし、打上げを見学に来る家族との面会もありませんので、比較的時間に余裕があります。そんなこともあって、私は沢山運動をさせて頂きました。ただ、運動も自由に行えるわけではなく、怪我をしないように、許可された運動のみを行います。例えば、バトミントンは足を怪我する可能性があるので禁止でしたし、外をランニングするのも、野犬などがいるので禁止されていました。健康管理といえば、クルーは、病気をISSに持ち込まないために、一般の人々から隔離されています。活動範囲が宿泊先のホテルと訓練を施設内に限られていますので、施設は整っていても少しづつ退屈になってきます。約2週間の滞在で休日は1日でしたが、バックアップクルーは、バイコヌールの街と博物館を見学する事ができます。移動も経路も定められたもので、自由度は低いですがとても良い気分転換になりました。
さて、荷物の搭載が終了するとソユーズ宇宙船の2回目の確認作業があります。何処に何が搭載してあるかの確認ですが、これもプライムクルーとバックアップクルーが交代で行います。バックアップクルーは、仕事が終わった後に関係者とチョットした飲み会があり、96%のアルコールで乾杯するのが伝統の様です。私が日本人ということもあり、手作りのラベルにロシア語で「さけ」と書かれていました(笑)。皆さん、水で薄めながら飲んでいましたが、私は「そのまま飲んでみたい!」と言って飲ませて頂きました。何事も経験ですからね(笑)。
これが終わると、打上げ迄あと僅か!打上げ約2日前のロールアウトでロケットが射点へ向かいます。
ロールアウトは、バックアップクルーのみが見学し、プライムクルーはホテルで待機しています。早朝で、気温も相当低かったのですが、あっという間にロケットが立ち上り、準備が進んでいく様子はとても素晴らしかったです。この様子は、プライムクルーの家族の方々も見学する事が出来るんですよ。その後は、記念の植樹式や打上げ準備の最終確認を行う会議、記者会見があるのですが、バックアップクルーはここでも常にプライムクルーと一緒に行動します。全ての行動を体験する事で6ヶ月後を見据えた良い練習になったと思います。そんな意味でも、バックアップクルーを本番の6ヶ月前に経験するのは本当によく考えられたシステムだと思います。
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