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宙亀日記へようこそ! ここでは、日々の訓練の様子や私の意見などをツイッターよりも少し詳しく紹介したいと思っています。また、宇宙へ行ってからも、ミッションの様子を紹介したいと思いますので、是非ご覧下さい。宙亀日記をより良いものとする為に、皆様方からのご意見もお待ちしています!

バックアップクルーとしての任務

投稿日: 2014年12月25日

さて皆さん、バックアップクルーとしての任務が完了しましたので、今回はバックアップクルーについて書かせて頂きます。とは言っても、ツイッターを読まれている方は、毎日クルーの生活について書いていましたので、既に多くの事をご存じかもしれませんね。一部重複するかもしれませんが、宙亀日記のみを読まれている方もいるかもしれませんので、自由に書かせて頂きますね。

まず、バックアップクルーとは、何かについて簡単に説明させて頂きます。ISSの長期滞在に任命されると、その半年前のミッションのバックアップクルーにもなります。例えば、私は2015年6月頃に開始が予定されている第44・45次長期滞在に任命されていますが、その任命は2014年11月に開始された第42・43次長期滞在のバックアップクルーになる事でもあるのです。バックアップクルーは、プライムクルーが何らかの理由で飛行出来なくなってしまった場合に、そのクルーの代わりに飛行しなければなりません。つまり、長期滞在へのアサインは約2年半前ですが、実際には約2年で飛行の準備を完了しなければならないのです。

この2年の間に、合格しなければならない試験は非常に多くて、私も実は数えてみた事がありません。(今度、時間のある時に数えるか、別の日記で紹介させて頂きますね。)

数多くの試験に合格すると、訓練の内容や成績を精査する会議があり、そこで正式にバックアップクルーとして飛行に必要な知識・技量を持つ事を認定されます。

前置きが長くなりましたが、それでは、バックアップクルーとして承認された後、打ち上げまでの生活・行事について紹介します。

まず、バイコヌール宇宙基地への出発時には、星の街で朝食会があります。朝食会はプライムクルーが関係者を招待する形で行われます。様々な方から挨拶を頂き、その後は皆に見送られながら出発します。面白いのは、朝食会が終わって出発する前に全員で着席する事です。どうやら、皆で準備に怠りが無いか落ち着いて考えるという所からきた習慣のようですね。その後、写真撮影や報道関係者からの簡単な取材を受けた後、出発します。移動は、バスも航空機も全てプライムクルーとバックアップクルーは別々です。それは、万が一の際に、プライムクルーとバックアップクルーを同時に失う事がない様にする為です。今回は、航空機の都合で出発日が別々になりましたが、通常は同日に移動します。

バイコヌールの空港に到着すると、現地の皆さんが大歓迎してくれました。その後、専用のバスに乗込み移動するのですが、入国の手続きなども特別に済ませてくれますし、移動時にはパトカーの先導もついているので、スムーズに移動できるんですよ。

移動を完了して最初の仕事は、ソユーズ宇宙船に乗り込んで、内部の確認を済ませることです。この確認作業は、プライムクルーとバックアップクルーが交代で行いますので、結構時間がかかり終日行われます。(ソユーズ宇宙船は狭いので、1クルーが乗るだけで一杯です)。休憩場所には軽食や飲み物が用意されています。少し甘やかし過ぎのような気もするのですが、これには食中毒の防止という理由があります。食事の安全性を確保する必要性があるので、お医者さんからも、必ず準備されたものを飲食するように厳しく注意されるんですよ。

この、1回目の確認作業が終了した後に、ISSに運ぶための荷物の搭載やロケットの組み立て作業が継続されます。その間に、プライムクルーとバックアップクルーは、必要な知識の再確認や簡易のシミュレータを使用したドッキングの訓練などが行われます。

バックアップクルーは、電話などを使用した取材もありませんし、打上げを見学に来る家族との面会もありませんので、比較的時間に余裕があります。そんなこともあって、私は沢山運動をさせて頂きました。ただ、運動も自由に行えるわけではなく、怪我をしないように、許可された運動のみを行います。例えば、バトミントンは足を怪我する可能性があるので禁止でしたし、外をランニングするのも、野犬などがいるので禁止されていました。健康管理といえば、クルーは、病気をISSに持ち込まないために、一般の人々から隔離されています。活動範囲が宿泊先のホテルと訓練を施設内に限られていますので、施設は整っていても少しづつ退屈になってきます。約2週間の滞在で休日は1日でしたが、バックアップクルーは、バイコヌールの街と博物館を見学する事ができます。移動も経路も定められたもので、自由度は低いですがとても良い気分転換になりました。

さて、荷物の搭載が終了するとソユーズ宇宙船の2回目の確認作業があります。何処に何が搭載してあるかの確認ですが、これもプライムクルーとバックアップクルーが交代で行います。バックアップクルーは、仕事が終わった後に関係者とチョットした飲み会があり、96%のアルコールで乾杯するのが伝統の様です。私が日本人ということもあり、手作りのラベルにロシア語で「さけ」と書かれていました(笑)。皆さん、水で薄めながら飲んでいましたが、私は「そのまま飲んでみたい!」と言って飲ませて頂きました。何事も経験ですからね(笑)。

これが終わると、打上げ迄あと僅か!打上げ約2日前のロールアウトでロケットが射点へ向かいます。

ロールアウトは、バックアップクルーのみが見学し、プライムクルーはホテルで待機しています。早朝で、気温も相当低かったのですが、あっという間にロケットが立ち上り、準備が進んでいく様子はとても素晴らしかったです。この様子は、プライムクルーの家族の方々も見学する事が出来るんですよ。その後は、記念の植樹式や打上げ準備の最終確認を行う会議、記者会見があるのですが、バックアップクルーはここでも常にプライムクルーと一緒に行動します。全ての行動を体験する事で6ヶ月後を見据えた良い練習になったと思います。そんな意味でも、バックアップクルーを本番の6ヶ月前に経験するのは本当によく考えられたシステムだと思います。

打上げ前日は、打上げに向けた授業で必要な知識を再確認し、夜は伝統の映画「砂漠の白い太陽」を鑑賞。そして打上げに備えて就寝します。

打上げの当日は、本当に長い1日です。朝食、昼食、時間調整の昼寝の後は、非常に忙しく、様々な行事が予定されています。最後にホテルを離れる際は、星の街出発時と同様に、全員が着席します。また、最後の乾杯もあるのですが、そのグラスを割る伝統もあるようです。ロシア有人宇宙開発独特の文化や伝統を一つ一つ目にしながら、プライムクルーと一緒に過ごす日々は、何物にも変えがたい貴重な経験でした。

ホテルを出発した後、プライムクルーは宇宙服への着替えを行います。バックアップクルーは着替えをしませんので、ここではプライムクルーを見守るのみ...プライムクルーは家族とのガラス越しでの短い会話をする時間がありますが、それを見守る時は私も様々な想いが胸に込み上げて、涙が流れました。

その後は、全員でロケットへ向かいますが、ここで私達は宇宙服を着ていませんので、これ以降はプライムクルーとの交代はありません。少しホッとしつつ、クルーのソユーズへの乗込みを見ると、いよいよ打ち上げを見学するのみ!実は、打上げの直前まで乾杯があったり、一緒に写真を撮る依頼をされたりするので、バックアップクルーはここでも結構忙しかったです(笑)。

ここで、バックアップクルーとしての任務中に思った事やチョットした事実をお教えしますね。実は、バイコヌールでの生活はとても規則正しく、特別な行事がある日を除くと毎日似たような日が続きます。土日も同様ですから、今日が何曜日で打ち上げまであと何日なのかを思い出すのが結構大変でした(笑)。また、食事がとても美味しく、沢山の量が出るため、体重も増加気味...私は何とか運動をしようと、ほぼ毎日卓球をしていましたが、やはり2kg程太ってしまいました!でも、おかげで卓球の腕前は結構上がったと思います(笑)。

最後に今回の経験で感じたプライムクルーとバックアップクルーの違いについて簡単に述べさせて頂きます。様々な違いはあるのですが、一番大きな違いは「覚悟」でしょうか?これは、宇宙飛行士本人だけではなく、家族も含まれます。私がもしこのバックアップクルーとして打上がる事になった場合に一番困るのは誰か考えてみました。それは、きっと私の家族だったと思います。私が、バックアップクルーとしての任務を終え、家に帰ってきた際の妻のホッとした顔が忘れられません。他方で、ガラス越しにプライムクルーを見送る家族達の顔には、見送る者達の覚悟や責任感の様なものが感じられました。小さな女の子からもその様な覚悟が感じられたので、私も涙を流したのです。

家族のケアーも含め、今後6ヶ月にしなければならない事を十分に認識したバックアップクルーとしての任務でした。

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出典:JAXA

バイコヌールの施設の壁で見つけました。ガガーリンさんの飛行に関する絵や彼の言葉が書かれています。「私の人生は、この素晴らしい瞬間の為にあった様に思える!」これまで歩んできた人生への自信、ミッションへ向かう覚悟が表れた言葉だと思います。

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出典:JAXA

この小径に並ぶ木々は、歴代の宇宙飛行士がその飛行を記念して植樹したものです。人類初の宇宙飛行を成し遂げたガガーリンさんの木。大きく育ち、その歴史の長さを感じさせます。他方で日本人初の宇宙飛行を行った秋山さんの木もしっかりと育っていました。この小径は宇宙開発の歴史を無言で私達に語りかけてくれます。

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出典:JAXA

こちらは、ホテルのドアです。飛行士が出発する前にサインをします。こちらが若田さんのサイン!日本語とロシア語でサインをしているところに、ロシアへの配慮が感じられました。

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油井 亀美也
(ゆい きみや)

JAXA宇宙飛行士
2009年2月、宇宙飛行士候補者として選抜。2011年7月、ISS搭乗宇宙飛行士として認定。現在、ISS第44次/第45次長期滞在に向けて訓練中。
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