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若田宇宙飛行士 ISS長期滞在ミッション報告会 ~「聞く」「任せる」「実践する」若田船長の仕事術~(2014年8月29日)
8月22日、浅草公会堂(東京都台東区)にて、若田宇宙飛行士国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在ミッション報告会が開催されました。
開催にあたり、奥村直樹JAXA理事長と桜田義孝文部科学副大臣から開会の挨拶が行われました。報告会は、まず始めに若田宇宙飛行士によるミッション報告から始まりました。
ステージ中央のスクリーンにISS船内にいる若田宇宙飛行士の映像が映し出され、若田宇宙飛行士が「そちらに向かいます」と映像の中で飛び去り、会場後ろから登場して報告会は始まりました。
地上での訓練、ソユーズロケットによる打上げ、軌道上での科学実験や日常生活、船長交代式から帰還までダイジェスト映像を流しながら若田宇宙飛行士による解説が行われました。
若田宇宙飛行士にとって初めてのソユーズロケットでの打上げは、スペースシャトルと違って打ち上がったことがわからないくらい打上げの瞬間はスムーズだったと感想を述べました。
船内で発生した熱を宇宙空間に放熱するISSの外部熱制御システム(External Thermal Control System: ETCS)の1系統が2013年12月に故障し、そのポンプモジュールを交換するために行った船外活動では、若田宇宙飛行士はISSのロボットアーム(Space Station Remote Manipulator System: SSRMS)を操作して船外活動の支援を行ったことや、ドラゴン補給船が到着したときもSSRMSで把持して係留させるなど地上と協力してロボットアーム操作を行ったことについて語りました。
科学実験関連の活動では、エアロックとロボットアームを兼ね備える「きぼう」日本実験棟ならではの超小型衛星放出ミッション、船内で小型衛星を複数編隊飛行させる実験、シロイヌナズナの種子やキュウリを発芽させ植物が重力に耐える仕組みを探る実験、マウスの精子の保管、熱対流の無い無重量状態で見えてくるマランゴニ対流の観察、メダカの稚魚を飼育し骨が弱くなる原因を探る実験、ネムリユスリカの乾燥幼虫の蘇生実験、レタスの栽培、電気刺激による効率的な筋肉トレーニング、大腿筋肉測定、眼圧測定、血液サンプル採取などを珍しい映像を交えて駆け足で紹介しました。
最後に、「今回船長の任務をさせていただいたのは、「きぼう」日本実験棟、宇宙ステーション補給機「こうのとり」など、全てのミッションをきちんと予定通り遂行していくことで日本に対する信頼が非常に高まったことが背景にあると思うし、多くの方の総合力だと思っています。」と締めくくりました。
トークセッション第1部では、作家・エッセイストの阿川佐和子氏と若田宇宙飛行士の対談で、阿川氏から次々と飛び出す質問に若田宇宙飛行士は笑顔で答えました。
―日課を何となくさぼり気味の人もいるのか
若田宇宙飛行士: 「宇宙飛行士は皆やる気が満々の人たちなので宇宙でもきちんと仕事してくれますが、疲れやすい人もいるわけで、皆の健康状態を確認し士気が低下してないかを日常の会話を通して察知するようにしています。」
―船長業務について
若田宇宙飛行士: 「船長業務は宇宙へ行ってからではなく指名された時点から始まります。訓練カリキュラムが無駄なく計画されているか、誰にどういう作業を担当してもらうかといったことも船長として管理部門と調整していかなければなりません。 船長の訓練というものもありますが、船長になってから訓練するのでは遅いのです。船長になる時点ではすでにクルーの指導力や宇宙飛行の経験などを積み重ねています。」
―船長に決定したと言われた時どう思ったか
若田宇宙飛行士: 「一緒のクルーは宇宙飛行の経験豊かでやる気満々の素晴らしいクルーであり、その中でリーダシップを発揮していく必要があるので、大きな挑戦を与えてもらったと思ったが、そのために必要な訓練はしてきたし、NASAの宇宙飛行士室で管理職の経験もしてきたので、そういう経験が活かされているんじゃないかと思っています。」
―米露日の宇宙飛行士の中で、「和の心」を理解してもらえるのか
若田宇宙飛行士: 「宇宙飛行士に限らず国際機関の中で会議をするときは勝者と敗者の無い会議は出る意味が無いと言われます。最初からハーモニーを求めるのではなく、きちんと言いたいことを言わなければなりません。いつも自分の立ち位置と相手の立ち位置を理解するためのコミュニケーションで直球勝負します。押すところは押して引くところはひく。自分には嘘を付けないので、自分をさらけ出して相手に自分の良さも悪さもわかってもらう。これがチームの中で円滑なコミュニケーションを図っていくためには大切じゃないかなと思います。」
―滞在中にストレスは無いのか
若田宇宙飛行士: 「予定していた補給船の到着が遅れたり、予期せぬ故障が発生すればストレスは高まります。トイレが故障した時は災害時でもそうだと思いますが大きなストレスとなりますので、率先して直しました。」
トークセッション第2部は、阿川佐和子氏が司会を務め、若田宇宙飛行士となでしこジャパン(サッカー日本女子代表)監督の佐々木則夫氏が、それぞれの立場でリーダシップをテーマに語りました。
若田宇宙飛行士: 「ISSの船長は、監督というより選手兼マネージャという感じで、マネージメントしているだけでなく、実験を行ったり現場作業を行い、チームの取り纏めを行う中間管理職です。 自分ができそうにないときは仲間に助けを求めたり、自分を知ってもらうことがとても大切です。」
佐々木監督: 「リーダというのは、年齢の高い低いは関係なく、リーダとしてのセンスがあるかないかだと思います。」
若田宇宙飛行士: 「野球ではリーダになったらどうしようかではなく、縁の下の力持ちというか、チームのために何ができるかということを考えていました。それで引っぱる側になったときに皆はどう思っているのか感じながら仕事ができるようになったんだと思います。」
佐々木監督: 「若田さんを拝見したときにすごく温和な雰囲気を感じているんですけど、僕も上から押し付けるとかカリスマ的な監督ではないのですが、最近の指導者という立場の人は、カリスマを持った怖そうなリーダではなく、コミュニケーション能力の高い方が多いなと感じます。僕も鎧を着ずに何でも相談できるようなスタイルを心がけているから、今の選手たちの中に入り込み易いんだと思います。」
―年配の宇宙飛行士もいる中でリーダシップを取っていくことについて
若田宇宙飛行士: 「ISSのチームの中で仕事をしていくのに年齢はあまり関係なく、どれだけ経験しているかが重要です。前回ISSに長期滞在をして、そこで生活して仕事をした経験、チームの中でどういう働きをしたかという経験がリーダとして採用するかどうかという判断で見られています。」
―ロボットアームの第一人者と呼ばれていることについて
若田宇宙飛行士: 「過去2回のシャトルミッションで船長を務めていたNASAのブライアン・ダフィー宇宙飛行士からリーダシップなどを学びました。ロボットアームの操作やいろんな仕事を任せてくれました。このような優れたリーダのもとで仕事をしたことが、自信に繋がったと思います。」
―なでしこジャパンの強さの維持の秘訣
佐々木監督: 「30年間の歴史の中で積み上げてきたものがありますから。それと、選手と一体感を持ってやったというのが大きいと思います。ただ引っ張るだけじゃなくて、お互いに信頼しながらやっていくことだと思います。」
―中間管理職と言っていることについて
若田宇宙飛行士: 「宇宙飛行士は選手兼マネージャであるということですけど、宇宙飛行士だけでできる仕事は少ないです。ISSでの作業計画などは筑波やヒューストンなど地上管制局からの指示があって、それと宇宙にいる仲間をまとめて、全体的な管理者からの支持をうまく仲間に伝えて、仲間の希望もくみ取って管理部門に伝えます。そこで様々な衝突やストレスも出てくることもあります。このような大きなチームの中でクルーのまとめ役という意味で中間管理職という表現が適切なんじゃないかなと思っています。
今度の土曜日に仕事をしなければ間に合わないという提案が来た場合、国によって休日の考え方が違い、休日を聖なるものととらえているクルーもいれば、働き過ぎで健康を害してはいけないと言ってくるクルーもいますし、また週末も仕事をしていないと手持無沙汰でやる気が無くなってしまうというクルーもいます。そういう両極端な人がいる中で、各自が発信しているメッセージ、特に悩みになっているメッセージをきちんと聞いた上で、僕はこう思うけど皆はどうか?と尋ね意見をまとめて地上管制局に伝える。その連続です。
あるときは時間が無く民主主義的に皆の意見を聞いていられないときもあります。そのようなときは、皆の意見は聞くけど最終的に僕の意見で行こうと進めていきます。たまにこのようなトップダウンの決定を行うことがありますが、それは普段のコミュニケーション、普段の信頼関係があるから仲間が従ってついてきてくれると思います。」
―できなかったことに対して叱ることはあるのか
若田宇宙飛行士: 「しかることは無いが、作業上問題がある場合はきちんと指摘します。それは僕に対してもそうなので、相互に指摘するようにしています。改善するための建設的な指摘はタイムリーに行います。声を荒げることはありませんが、きちんと相手の記憶に残るように問題が起きた時に伝えるようにします。
大きなチームになればなるほど、相手を思いやるが上に間違ったことを伝えてくれないという傾向があります。地上管制局からクルーが間違えた作業について伝えにくいということがあれば、仲間内で指摘するようにしています。そうすることでチーム力が高まっていきます。」
―ストレス発散は
若田宇宙飛行士: 「宇宙では飲みに行けないので、自分の好きなものが食べられるということが重要です。宇宙食には標準食の他に、自分の好きなものを持っていけるボーナス食というものがあります。我々が宇宙に行く前に仲間のアメリカ人のボーナス食を搭載した補給船が打ち上がらないということがわかりました。自分の好きな食事が宇宙で食べられないということは問題なので、船長権限で管理部門と調整して別の補給船で打ち上げられるようにしました。後にこのクルーが自分のボーナス食がこうして運んでもらえたんだとわかったときの信頼はとても大きなものです。
前回僕もおいしい物を食べられなかった時期がありストレスが高まったので、その経験から行いました。」
―ダメな部下の育成のしかたは
佐々木監督: 「弱い部分ばかり指導していると最初は聴いているが、だんだん聴かなくなってしまいます。ヒトの脳の構造がそのような働きをするそうなので、良い所も誉めつつ、弱点を指摘するとスッと受け入れてもらえます。ただ指摘するだけじゃなくその人の弱点がなぜそれなのか考えながら付き合うのが中間管理職ではないでしょうか。」
若田宇宙飛行士: 「ひとりひとりの力に応じて作業を与えて任せることが非常に重要だと思います。
力が無いと思ったら支援しますし、バックアップの人を付けますが、やはりその仕事を任されたという感動を積み重ねることが自信に繋がり、その人の力になり、チームを支えることになると思います。」
―クルー間でいがみ合うことは無かったのか
若田宇宙飛行士: 「自分が船長をしているときにウクライナ問題が発生しましたが、宇宙にいる仲間は同じ釜の飯を食っているという感じで、地上での問題が宇宙に影響することは全くなかったです。オリンピックやワールドカップでも同じでしょうがISS参加各国が一緒に何かすることで技術が生まれる以上に、ISSは平和な世界を築く国際協力の象徴であるという価値観を共有しています。」
最後に、「ISSの船長誕生は、日本の有人宇宙開発のひとつのマイルストーンだったと思います。日本が宇宙開発の分野でも主体的に力を発揮していくため、技術分野で本当に信頼されるものを築き上げてきました。そして日本人が顔の見える形でリーダシップをとれる時代になったと思いますので、さらに第2第3の船長を輩出して、月・火星へと実現させていく必要があると思います。」と締めくくりました。
今月各地で行っていたミッション報告会は、8月22日のJAXA主催の報告会をもって一旦終了し、次は今年秋から北海道、富山県、沖縄県でミッション報告会が開催されます。
※写真の出典は全てJAXA
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